ブッコローと真犯人

 最後のループにすると意気込んだのは21周目の月曜日だった。


 気力を振り絞って、真犯人である有隣堂社員に気づかれないよう、1週間動向を見張り確信を得ていった。


 そして勝負どきと決めていた金曜日。ドライフルーツ回の収録を行ったあと、自分と真犯人だけスタジオに残るよう仕組んだ。


「お疲れ様です、ブッコロー。話ってなんでしょうか?」


 目の前の人物が労いとともに、スタジオに入ってきた。


「お疲れ様です。すみません、夜分遅くに残ってもらって。今日、あなたにお願いしたいことがあって残っていただきました」


「どのようなお願い事でしょうか。私にできることであれば叶えてさしあげたいんですが」


 謙虚に回答しているように聞こえるが、本当は微塵もそう思っていないことがいまはわかる。


 はじめはあまりに近くにいすぎて気づかなかった。


「もちろんできるはずですよ、だって本当の犯人はあなたですよね?」


 心臓の音が痛い。声を振り絞って犯人を当てにかかる。


「間仁田さん」


***


「私が犯人ですか?」


「正確には間仁田さんのふりした誰かでしょう。お名前がわからないので、便宜上、間仁田さんと呼ばせていただきます」


 にわかには信じられないが、目の前にいる間仁田さんは偽物だ。


「ずっと、ドライフルーツか何かがタイムリープの原因だと思っていました。しかし、収録後に起きるはずのないことが2つ起こってたことに気づいたんですよ」


「1つ目は、収録後に間仁田さんから声をかけられたことです。仕事終わりにたまたま遭遇したという話でしたね。ですが、よくよく思い返してみたんです」


 飲み物を飲みに控え室へ戻ったときのことを思い出す。


「間仁田さんが歩いてきた方向には、倉庫とトイレくらいしかなかった。本当であれば、2階にあるオフィスフロアから階段を降りて、1階にあるスタジオの近くから僕と対面しなければおかしかったんです」


「でもそれだけでは、証拠が弱いのでは?階段を降りて1階のお手洗いに寄っていたのかもしれませんよ」


 1つ目は、証拠として弱かった。だが2つ目が決定的だった。


「そこで2つ目です。用心が足りませんでしたね。今日、間仁田さんは有給を取得されていてお休みのはずです」


 静かに話を聞いていた目の前の人物に余裕がなくなってきた瞬間を捉えた。


「会社のソフトでスケジュールを入れるのを忘れていたのでしょう。そちらには有給の予定が登録されておらず外出予定でした。ただ、Youtubeに関わる人は、収録ができるかどうかの確認のために、1ヶ月前から予定が空いているかスケジュールを郁さんに提出しているんですよ。そこには間仁田さんは有給と書かれていました」


 真犯人は会社のソフトに登録されたスケジュールは確認したのだろう。しかし、チャンネル関係者のスケジュールの存在までは知らなかったらしい。


「念の為、収録直前に間仁田さんのご自宅に電話してみました。そうしたら、間仁田さんは家でゆっくりお休みされてました。さて、あなたは一体だれですか?おそらく肩を叩いた時に細工をしたのでしょうが、僕に何をしたんですか?」


 一瞬、静寂が訪れたあと、間仁田さんのふりをした真犯人が上品に笑い出した。


***


「ふふふ、よくわかりましたね。信じていただけないかもしれませんが、遠い未来からきた間仁田の子孫です」


「は」


 予想外の回答に言葉を失う。


「何周もさせてしまってすみませんでした。遠い未来でも続くこのチャンネルの存続のためだったんです」


 そこからの話は、あっという間だった。


 未来でも続いている「有隣堂しか知らない世界」では、今の時代に登場しているブッコローはもはや伝説的存在になっているらしい。


 しかし、ブッコローの代わりとなるMCを登場させることも企画を立てることもできなくなっており、チャンネルの存続が厳しくなったという。


 そこで、タイムリープ能力を、当時のブッコローに付与したらどうなるか?何周で気づくか?という企画を打ち立てたということだった。


「間仁田さんと入れ替わったのは金曜日だけでしたが、悪い子をしました」


「この21周分の有隣堂社員の様子をまとめるだけで、面白い企画を増やすことができそうです。皆さんの記憶は消していきますが、ありがとうございました」


 矢継ぎ早にそう言い、「定年のあとでも間仁田さんと岡崎さんとは縁が続きますから仲良くなさってくださいね」と一言残して間仁田の子孫が立ち消えた。

 

 ブッコローは、説明するだけして勝手に帰るなーーーと絶叫して引き止めようとしたが、すぐに意識を手放した。


***


 気がつくと、スタジオに一人になっていたブッコロー。


「なんか長い夢でもみてた気がするな、てかさむっ。なんで僕一人ここにいるんだっけか……?」

 

 今日は、春にもかかわらず冷え込んでいた。妻から夕飯は鍋にしますと連絡がきていたし、早く帰らなくては。


「は〜今日も収録疲れたなー、来週は間仁田さんと岡崎さんと収録か。長い付き合いになったもんだな」


 これからもあの二人とは長い付き合いになりそうだなーと確信に近い予感を抱きながら、今週の仕事を終えることができた。


 来週から遠い未来までチャンネルが続くのは、まだみんなが知らない。

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時を翔けるブッコロー きなこ @kinako_nkmr

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