ブッコローと郁さん
「郁さんが犯人ですか?」
「え。犯人ってなんのことですか?私、何かブッコローにしましたっけ?」
突然の問いに、郁さんは何を言われているのかわからないという表情を浮かべる。
「あ、いや、僕のプリンを食べた人がいたみたいで……。さっき郁さんが似たプリンを食べてるのを見かけたのでもしかすると、と思いまして。いきなりすみませんでした」
少し苦しいが、事前に用意していた言い訳をする。
単刀直入に、犯人かどうかを聞いても意味がないことは、当然わかっていた。しかし、もし郁さんが犯人で、タイムリープできるようになる細工をドライ漬物たくあんに施そうとしてたら。
郁さん自身がタイムリープするかもしれない。ブッコローが郁さんに疑いを持つ前まで戻って対策するために。
その可能性を考えて、間仁田さんと岡崎さんには、近くに隠れて待ってもらっていた。郁さんが何かしらリアクションを起こす前に取り抑えられるはずだ。
「あ、そうなんですね。プリン盗られちゃったの残念でしたね」
ブッコローのちょっとした災難に、少しの同情を寄せるような声音で返答した。
「そういえば食べ物といえば、明日ドライフルーツの収録ですよね?ごめんなさい、企画会議の時に欠席していたのであまり知らなくて。今回ドライフルーツって何を用意されているんですっけ?」
食べ物繋がりで無理やりドライフルーツ回の収録について、聞き込みをする。
「マンゴーやリンゴとかキウイかな。すごいですよね、いろんな種類の果物をドライフルーツ化できるって私知りませんでした」
企画会議で決まっていたフルーツだった。ここまでは問題ない。
「お値段もびっくりな感じなんでしょうね。収録で突っ込もうっと。でも、前回みたいに漬物とかマニアックなものじゃなさそうよかったですよ〜普通に美味しそうですもん」
郁さんの回答に対してそれらしい回答を返し、ドライ漬物たくあんに関する情報を収集するためのきっかけを作る。
これで、何かしらドライ漬物たくあんについて情報をもらしてくれたら、最悪あと数周をループして、能力解明に務められるかもしれない。
しかし、そこで思いがけない回答が返ってきた。
「あ、それなんですけど。急遽前回登場したドライ漬物たくあんを出そうと思ってまして」
「え!またあれ食べるんですか?」
「さっき決まったばかりなんですよ。今週、有名なインフルエンサーが SNSで拡散したそうで。有隣堂でも急激に売れ行きが伸びまして。販促の意味合いも込めて実食をお願いしたいんですが……」
実食を断れるタイミングで、ドライ漬物たくあんを取り上げると言う情報を仕入れてしまった。
郁が犯人であれば、ギリギリまで隠して食べるのを断れない状況を作る方が有利であるはずである。
「あーわかりました。でも、今回僕だけじゃなくて岡崎さんとかに食べてみてもらいません?こないだ、食べてみてもらったらすごい良いリアクションをしてくれたので」
「そうなんですね!じゃあ岡崎さんにもお願いしてみようと思います。ダメだったらブッコローお願いしますね!」
ブッコロー自身が食べなくてもいいように交渉してみたら快諾されてしまった。
「はいー了解っす〜」
ここまでの会話で、郁さんもドライ漬物たくあんも限りなく白に近いと思えてしまった。
***
結局、郁さんは本番までドライ漬物たくあんに細工を仕掛けている様子はなかった。
収録本番では、ドライ漬物たくあんを岡崎さんに食べてもらい、ブッコローは食べずに進行した。万一、ドライ漬物たくあんが原因だった場合、ブッコローはこの日でループを終えるはずだった。
しかし、無情にもふたたび控え室で気絶し、競馬場まで時を遡っていた。
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