ブッコローと愉快な仲間たち

 6回目の競馬レースを見終えたあと、これまた6回目の飲み会に参加していた。


 千葉県に競馬場があったが、電車で移動すれば新橋までは案外近く、集合時間である19時ちょうどに到着することができた。


 待ち合わせ場所は駅近くに設置されたSLの前。二人の有隣堂社員が既に立っているのを見つけた。


「ブッコロ〜、お疲れ様ー」

「おー、ブッコローちょうどいい時間に着いたね。結果はどうだった?」

 二人の呼びかけに、軽く返事をしてから三人で居酒屋へ向かう。


 新橋にある居酒屋にしては静かな個室のある店で重宝していた。ブッコロー、間仁田さん、岡崎さん、郁さんの4人で数ヶ月に1度はここで飲んでいる。


 今回も郁さんに声をかけていたが、急用が入ってしまい3人だけで集まった。


「「「乾杯」」」

 生ビールで乾杯した後は、いつも通りチャンジャと枝豆を注文し、お通しを突きながら雑談がはじまる。


 岡崎さんと初めて動画を撮った時に取り上げた商品のキムワイプとデザインそっくりの階段が、名古屋にあるらしい。間仁田さんが、カニを手につけた写真が好評で巷ではカニタさんと呼ばれている。郁さん美人。


 そんなチャンネルにまつわる話を肴に夜は更けていった。


 ブッコローは、相談相手として間仁田さんと岡崎さんを選んでいた。この二人なら信じられないような話でも真剣に聞いてくれると信頼していたからだ。


 さすがにあり得ない話を素面でする度胸はなかったため、お酒の力を借りた。適度にお酒が入り、場も温めた今こそチャンスだと思い口火を切った。


***


「えっとつまり。ブッコローは何度もこの1週間を繰り返しているってことですか?」

 顔がすぐ赤くなる割には、案外お酒に強い間仁田さんが真剣な顔で確認してきた。


「あー、はい。そうなんっすよ――信じてもらえないですよね?」

 時を繰り返しているということを証明できるものもないまま、相談してしまったことを少し後悔する。


 冗談でした!とでも言ってなかったことにしようか。そう思い始めたとき、しばらく静かに聞いていた岡崎さんが口を開く。


「でも、ブッコローが訳もなく嘘つくとは思えません。私は信じますよ」

 綺麗な眼差しをブッコローに向けて文具王になり損ねた女は言い切った。


「確かにそれもそうですね。万一、冗談だったとしても構いません。困っているなら、みんなで解決策を考えていきましょうか」

 わずかに残っていたビールを飲み干し、ジョッキを勢いよく机に置く音が響いた。夜はまだまだ続くというゴングの音だった。

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