第15話 問題と解決

「そうだ、宝探しと同時にもう一つ、対策したいことがあります。

 これもかなり重要です」


「もう一つ……?」


「いわゆる社会問題です」

 

 そう、これは未来を知っている私だからできること。現状の情報から予測することもできるけれど、注目しないと気がつけない。それに大規模に対策して何もなかった場合、損失もあるから安易に手は出せない。そんな社会問題。


「言ってみろ」

 

 この人はどうしてこう、いちいち偉そうなのかしら? そんなに余裕を保っていられる位置にいるわけじゃないし、何なら一度ホライシーン殿下との後継者争いに負けているのですが……? 私に感謝してもいい位なのに。


 でもさすがにそれを口には出さない分別はありますので。


「食糧問題です」


「食糧問題……?」


「はい。

 この国は今年、飢饉に見舞われます」


「断言するんだな」


「もちろん。

 言ったでしょう?

 私は未来から来たって」


 ああ、まただ。この人は協力を受けると言った後でも、こうして私を疑う目で見てくる。きっと本当の意味で信頼しているわけではないのだろう。もう、本当に手がかかる……。


「資料をそろえれば、ある程度は見えてきます。

 過去に大飢饉が起きたときの詳細な資料は残っているはずですから、そこから推測したと伝えてもいいでしょう」

 

「どう、推測すればそのような結論になるか教えていただいても?」


「気温です。

 今年は例年より暑い日が続いているでしょう?」


「そう言われれば、そうかも……?」


「これを見てください」


 そう言って、私は用意しておいた本を開いて見せる。そこには過去に飢饉が起きた年の資料を整理した結果、気温が関わっているのではないか、と推測した記述があった。


「これをもとに、資料をもう一度見返すのです。

 飢饉が起こることは間違いありませんので、後でつじつまを合わせるための形だけ取っておけば後でどうとでもできます」


「興味深いですね。

 資料探しは任せてください」


 失礼だけれど、見た目に似合わずカンクルール様は頭脳派で、学院の成績も上位。こういうときは心強い。


「それで、どのような対策を考えているんだ?」


「いろいろと手順はありますが……。

 まずは今市場にあふれている早熟小麦の種を買っておくんです。

 あとはそれを植えるための場所が問題です。

 風通しがよく、陽の光がはいる部屋を用意するのです」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 それでどうなるというんだ?

 種を買ったって育たないから困るのだろう?」


「育てればいいのです、その部屋の中で」


 私の発言に部屋にいる3人が見事に固まる。まあ、そうよね。私が思いついたわけではないこれを、勝手に利用させてもらうのは申し訳ないけれど許してもらいたい。きっとあの人たちも一番の願いは餓死者がでないことだと思うから。


「早熟小麦はその名の通り、育つのが早いです。

 そのため、今から育てても十分飢饉に間に合う。

 それを部屋の中で育てるのですが、そこの中だけを冷やすのです。

 水の魔法で冷熱源を作り、それをセキエルト様の従魔に調節していただくのです」


 セキエルト様の従魔は氷猿。氷を操るのは得意なはず。一応殿下のドーアでもできるはずだから、ドーアにお願いしてもいいかもしれない。


「だが、それでは量が間に合わないのではないか?」


「ええ、間に合わないでしょう。

 だけど、実践可能な解決策があることを示すのです。

 それだけで十分に有用性を示せます」


 私の発言に殿下が息をのむ。王宮魔術師には水を操る従魔を持つ人もいる。だからその人たちの協力さえ得ることができれば、最低限の確保はできるはずだ。それに麦以外にも育てられるかもしれない。


「確かに、試験を終わらせた案を飢饉がささやかれた直後に示せれば……。

 それに示すためだけなら、そこまで大きな賭けをする必要もなくなる」


「飢饉が起きる前、それこそ今から話してはダメなのか」


「伝えたとして信じると思いますか?」


 それが難しいことは十分にわかっているのだろう。ミークレウム殿下が黙り込んでしまう。それに下手にこれを漏らせば、最悪ホライシーン殿下に手柄を奪われかねない。それは絶対にさけないと。


「これを行うことを、誰か信頼できる人には話しておいた方がいいかもしれませんね。

 あとからホライシーン殿下が何かちょっかいを出してきたとしても、その人にミークレウム殿下が先に行動してきたことを証明してもらえるようにするのです」


「それは……」


 それを誰にするかはそちらで考えてもらわないと。


「とにかく、早急に行動をお願いします。

 疑うならカンクルール様の結論が出てからでも構いませんから」


 どのみちこの時期早熟麦の種はいくらでも出回っている。温度も魔法で管理するなら場所を選ばない。うん、やっぱりなかなかいい案だと思うのよね。


「……こちらだけでやっていいのか?」


「それはどういう意味ですか?」


「これが自分の発案だと主張しないのか?」


 そこまで言われてようやく殿下の発言の意図に気がついた。まあ、これはもともと私の手柄でもないから、主張するつもりはない。それに別に権力には興味ないというか、離れたいと思うほどというか。


「ええ。

 私はとにかくあなたが王太子になり、ホライシーン殿下の暴走を止められれば良いのです」


 いや、あれは……。ホライシーン殿下の暴走というよりも、私の暴走と言った方が正しいのかもしれないけれど。でも、その原因がホライシーン殿下にあることは間違いないから。


「そうか」


「助言、ありがたく受け取ります」


 ね、とカンクルール様が言うと、しぶしぶと殿下がうなずく。本当にカンクルール様がいてくださってよかった。これで少しは安心かな。


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