第14話 ご褒美

「従魔と契約を結んだなんて、本当に⁉

 アイリーンは本当に素晴らしいな」


 よしよしと頭を少し乱暴になでられる。


「兄様!

 もう……」


「だって僕が召喚できるようになったのは1年生が終わるころだったぞ。

 見せてくれないか、君の従魔を」


 兄様に言われてウェルを召喚してみる。兄様に近づかれて不満げに一声上げる。ごめんって。でも私の大切な人だから、大丈夫よ。


「わ、馬にしては小さいな。

 かわいい」


「ウェルと言います。

 なでてあげてください」


 緊張したように返事をすると、兄様はウェルを恐る恐るなで始める。不満そうだったけれど、兄様はなで方がうまかったのか次第に満足げな顔に変わっていった。うん、やっぱり私のウェルは一番かわいい。


「僕の従魔も紹介しようか。

 レリア」


 呼び声に応じてリスが出てくる。わ、ふさふさ。ウェルはレリアに近づくとふんふんとにおいをかぐ。お互いに挨拶を終えると、仲良くなれたようだった。良かった。


「あの、レリア。

 触れてもいい?」


 そのふさふさのしっぽ、触ってみたい。そわそわとしていると、レリアは仕方ないとばかりに私の前にしっぽを出す。う、レリアもかわいい。


 ゆっくりと近づいてレリアのしっぽに触れる。やっぱり……、気持ちいい。なに従魔って触り心地がいいことが条件なの? いや、そんなわけがないけれど。


 すると、ウェルがこちらに構えとばかりに近づいてくる。大丈夫よ、私にとって一番かわいいのはウェルだから。


 ご褒美とばかりにウェルに魔力を与えると、おいしそうに顔を緩める。ウェルはすっかりこれに慣れてしまったわよね。こちらに戻ってきてからたくさん魔力を与えていたから、ウェルはかなり成長している。成長しすぎて大きさを自分で変えられるくらいに。


 そんなウェルと私の触れ合いを兄様は柔らかい笑みで見守ってくれていた。


「そうだ、今日はご褒美があるよ。

 いつも頑張っている君にね」


「ご褒美、ですか?」


 意味深に笑う兄様に誘われて、食堂へと向かう。一体何を用意しているんだろう。


 席に座ると確かに豪華な食事が並べられた。でも、これでは兄様の笑みの理由はわからない。なんだろう、と見ていると最後にかごに入ったパンが並べられる。


 まさか……。


 パンを手に取って口にする。この味って。


「お姉ちゃん、の……?」


 私の言葉に兄様はにっこりと笑った。やっぱり、これはお姉ちゃんがつくったパン。どうしてこのパンが、ここに。わからないけれど。


「やっぱりお姉ちゃんがつくったパンは最高」


「うん、そうだね」


 そして、兄様、ハーベルト家の人も最高。きっとこれがシュベルティア家だったら全く違う風に捉えていた。お姉ちゃんやステリ―がシュベルティア家の手の中にあると伝えているって。でも、ハーベルト家なら信じられる。うん、頑張ってよかった。そして、これからも頑張らないと。


 さて、次の課題は宝さがしかな。と、その前にあの問題にも手を付けておかないと。


***

「本当にすごいな。

 ドーマがどんどん成長していく」


 あの日からミークレウム殿下とはタイミングを見て会っている。それは周りの人にはばれないようにしているから、会うたびにかなり気を遣うのだけれど。


「アイリーン嬢に協力していただいてよかったですね、殿下」


「まあ……」


 相変わらずセキエルト様は睨んでくるけれど、カンクルール様は友好的に接してくれる。カンクルール様はかなり苦労していそうね。


 ドーアと名付けられた竜を見ていると、ドーアがこちらに寄ってきた。どうしたのかと手を差し伸べると、鼻先をぐりぐりと私の手に押し付けてくる。そしてガウッ、と不満げに何かを主張してくる。もしかして……。


「私の魔力が欲しいの?」


 今度はそう、とばかりに一鳴き。普通契約主以外の魔力は受け付けないと思うのだけれど……。所望しているみたいだからと魔力をあげると、おいしそうにそれを食べる。あれ?


「ドーアが君の魔力を食べている?

 だが、ラキル先生は契約主以外から魔力をもらうことはないって……」


「そのはずなのですが……」


 考え込んで、ひとつだけ心当たりがあった。でも、本当に?


「もしかして、この子を召喚するときに私が殿下に魔力増大をかけていたから、ですか?」


「そんなことあるのか?」


「わかりません」


 みんなで首をかしげる中、ドーアは素知らぬ顔で眠りについていた。本当に、マイペースというか……。まあ、深く考えてもわからないものはわからないよね。


「そういえば、今度の宝探しのことなのですが……」


「ああ、1・2年生合同のあれだな」


「はい。

 そこで必ずホライシーン殿下に勝ってください。

 ご存知ではあると思いますが、王太子が決まるまでのこの1年、目立った功績を残せる機会はそう多くありません。

 これはそのうちの一つです」


 私の言葉にむっとしたようにセキエルト様がうなずく。まるでわかっているとでも言いたげだ。もう、この方はいちいち反発しないと気が済まないのかしら。


「一緒にグループを組みましょう」


 私の申し出に殿下は少し考えるそぶりをしたけれど、すぐにうなずいた。まあ、グループに人数や学年、従魔持ちなどの制限はない。人が多ければいいというものでもないからだけれど、それに気づけないものは毎年そこそこいるのよね。


「だが、ここにいるカンクルール、セキエルトも一緒にくむぞ。

 アイリーン嬢には親しくしているご令嬢がいただろう?

 どうするのだ」


「それは……」


「僕は一緒でも構わない。

 あとはそちらに任せる」


「わかりました」


 本当は一緒にくみたい。けれど、ミークレウム殿下と一緒になることでもし彼女たちに何か不利益があったとしたら。そのことを考えると気軽には誘えなかった。


「そういえば、君の兄は誘わないの?」


 グループに関してひと段落着きそうなところで、カンクルール様のそんな言葉が聞こえてきた。兄様? 誘わないに決まっている。兄様だったらもしかしたらグループをくんでくれるかもしれない。でも、ここで兄様まで一緒になってしまったら、ハーベルト家が完全にミークレウム殿下になったと捉えられる。それは避けたい。もし万が一何かあったら、私は切り捨てられる位置にいたいのだ。でもそれを素直に言うわけにはいかない。


「2年生に頼らずクリアした方が、評価が高いと思いませんか?」


 私がそう言うと、そういうものか、と納得してくれた。

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