第13話 自分の意思で
「今日の召喚の儀の際、手助けをしたのは君か?」
席に座り開口一番、ミークレウム殿下はそう口にした。……素直過ぎないかしら? もし私じゃなくて、それでも私が手助けしたと言って近づこうとしたらどうするのかしら。殿下は今日王宮魔術師の資格を得ることができる高い可能性を示した。第一王子派に警戒されていてもおかしくないのに。
お互いが黙りこくるじりじりとした時間が経っていく。これは何というべきなのだろう。正直に言って警戒されても面倒だけれど、嘘をついて後から判明されても困る。少しだけ考えた後、私は正直に答えることにした。
「そうです。
魔力増幅をかけました」
「なっ!
まだその手の魔法は習っていないだろう。
何より、人に許可を得ず魔法をかけるのは禁じられているはず」
「ええ、そうですね。
でも素直に殿下にお伝えしても許可を得ることができるとは思わなかったので」
「ならなおさらやるべきではなかっただろう!」
「それでも、どうしてもこの授業で従魔を召喚する必要がありました。
それを殿下は重々承知していらっしゃるでしょう?
そして殿下の魔力だけでは召喚が成功しない」
怒る殿下の側近と言い争っても意味はないのだけれど。そう思って殿下の方に目を向けると、こちらを見ている。いや、見るだけでなく何か言ってほしかったのだけれど。
「あなたが言っていることはわかった。
たしかにこのタイミングで召喚に成功することは、今後のことを考えたら重要だった。
……お前の言っていた、王家の秘宝を使ったという話、信じてもいい」
「……はっ⁉
王家の秘宝?」
「セキエルト、少し黙っていろ」
この期に及んで信じてもいいって……。まあ、ここは我慢よね。
「君は本当はC級ではないのだろう?
一体本当のランクは何なんだ?」
「そこを初めに聞くのですね。
前回の時、私はS級と判定されました。
最終的には特級に」
「なっ、特級⁉
存在するのか、本当に」
「あなたが私に頼んだのです。
王家の秘宝を起動することを。
あなたの魔力量ではできないから、と。
そしてホライシーン殿下が王太子にならないように、ミークレウム殿下が王太子になるように協力するように約束しました」
話していて、思い出す。あの時の地獄のような景色を。火の海にすべてが呑み込まれていた、あの。そんな未来を変えるために、私が戻ってきたのだ。
「あ、えっと、それはつまり戻ってくる前は兄が王太子になったと?」
「はい。
そして、私はホライシーン殿下に協力していました」
「兄に……?」
そう、私はずっとホライシーン殿下に協力していた。初めは優しくしてくれた人の力になりたくて、そして本質に気がついたときにはもう逃げられなかった。お姉ちゃんとステリ―を人質に取られていて、身動きが取れなくて。本当に苦しかった。
「信用できません。
ホライシーン殿下に協力していたなんて」
「セキエルト」
「ですが!」
「しかしいいのか、僕に味方すると強力な敵ができるぞ。
この国の貴族はほとんど兄の味方だ」
「知っています。
でも、あの方の味方になっても私の未来は閉ざされましたから。
たとえあなたの味方になって何かあっても、殿下のせいにはしませんよ。
これは私が選んだんです」
それだけは譲らない。巻き戻った後、あのままお姉ちゃんたちと一緒に暮らすこともできた。ここに来たとしても殿下と接触しないこともできた。それでも、私はミークレウム殿下に協力することにした。それはすべて私の意思だ。
そう思わないと、立っていられない。
「そう……。
それじゃあまあ、よろしく。
アイリーン・ハーベルト。
知っているとは思うが改めて。
僕はミークレウム・ディクレーシス。
こっちは僕に協力しているセキエルト・メチータ」
「……セキエルトだ。
殿下がそう決めたのなら、それに従うまで。
よろしく」
「ええ、よろしく」
そろそろ帰らないと兄様たちに心配させてしまいそう。今日はこれで、と言おうとして一つ思い出した。
「そうだ、今日召喚した従魔ですが、折を見てこちらに召喚して魔力をあたえるといいですよ。
そうすると成長が早くなります」
「成長が……?」
殿下の従魔はまだ子供。竜は比較的成長が早く、大人の時期がかなり長い。それでもこのままだと、王太子を決める期間、ずっと子供のまま、今後のことを考えると早く成体になってもらった方がいいだろう。
「わかった、やってみる」
あら、やっぱり素直。これでひとまず第一段階はクリアかな。
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