第12話 従魔召喚2

 今回は3名ほどが魔法陣を暴発させていて、そのたびに近くで待機していた多くの教員がすぐに行動を起こす。魔力量が激減してぐったりする人がいれば、たまたま呼ばれてしまった魔獣に攻撃されてしまう人もいる。その様子を間近で見るのは確かに恐怖で、勝手にやろうという気持ちをそいでくれる。だんだんと顔色を悪くする生徒が増える中、私の番がやってきた。


「アイリーン・ハーベルト」


「はい」


 先生に魔法陣を手渡される。ミークレウム殿下のことは一度おいておいても、かなり緊張する。何度も深呼吸をした後、魔法陣を地面に置き、そこに両手を置いて魔力を流し始める。


 魔法陣は魔道具と違って、術者が意図しないと基本的には魔力が流れていかない。だからいくらでも調整は効く。本当なら召喚が失敗する量だけ流すこともできるのだけれど、早くあの子に会いたい気持ちもあって、私は召喚できるぎりぎりの量を狙って流し込んだ。


 途端、魔法陣が輝きだす。ミークレウム殿下の時と一緒だ。その反応に周りがざわめきだした。そうよね……C級に召喚することはかなり難しいから。


 光が収まったとき、魔法陣の中心にいたのは小さな馬だった。前回と一緒。私の従魔である天馬だった。それでも今は通常よりも小さくなり、その背中に羽も生えていない。良かった、成功だ。


「可愛らしいわね。

 この子は……?」


 さすがに従魔学を担当する先生は詳しいらしい。おそらく馬の子と言おうとして違和感を覚えたのだろう。じっと見つめる先生の目から逃すように、私は天馬、ウェルを抱きかかえた。かわいい……。前回も今回も、この子が私の支えだったのだ。


 ウェルは私の腕に大人しく収まると、顔をひとなめしてくる。ウェルの額に私の額を合わせて、契約のための呪文を唱えながら魔力を注ぎ込む。無事に私とウェルの額には同じ紋様が光った。光が収まるころ、その紋様は消えていった。よかった、これで契約は完了だ。


 ウェルから視線を話して周りに目を向けてみると、いろんな視線が向けられていた。驚愕、尊敬、嫉妬。そういえば前もそうだったかもしれない。それらを無視して後ろに下がると、リューシカ様とマベリア様がすぐに話しかけてくれた。


「かわいいわ!

 私も後期こそは」


「本当に。

 あのなでても大丈夫かな?」


「ええ、きっと」


 恐る恐るマベリア様が手を伸ばしてウェルの頭をなでる。ウェルは一瞬身じろいだけれど、そのまま暴れることはなかった。リューシカ様がなでたときも一緒。きっとこの2人が私とウェルに害をなさない人間だとわかっているのだ。ウェルはとっても賢いから。


「マベリア・ケルエット」


「あ、呼ばれた。

 行ってくるわね」


「頑張って!」


 マベリア様を見送って、召喚の儀を見守る。リューシカ様は緊張した様子だけれど、私は結果を知っているので落ち着いて見守ることができる。


 マベリア様が魔法陣に触れて魔力を流し込むと、魔法陣が光る。マベリア様も召喚に成功したのだ。そこには鷹が現れる。マベリア様にぴったりの従魔だわ。


 契約まで完了すると、マベリア様は珍しく見るからに嬉しそうな表情でこちらに帰ってきた。リューシカ様は私とマベリア様をきょろきょろと見ると、私だけ! と落ち込まれてしまって、マベリア様と2人顔を見合わせて笑ってしまった。


「素晴らしいですわ!

 今回は4人もの方が従魔と契約をできましたね。

 そちらの方々は後で従魔について説明しますので、放課後に教室で待っていてください」


 そうして、従魔学の授業は終わっていった。


 教室に戻ろうとしたとき、ミークレウム殿下がこちらを見ていたけれど、結局何も言わずに教室に戻っていってしまった。


***

「従魔と直接会話をすることはできませんが、心がつながっています。

 例えば出てきてほしい時、心の中で出てきて、と願うと……こうして出てきてくれます」


 話しているときに、ラキル先生の方に猫が現れた。かわいい黒猫だ。


「そして、戻って、と願うと帰っていきます」


 今度は猫が消える。


「もちろん直接声に出してもよいですが、出さなくてもよい。

 逆に声に出さなくても願ってしまうと、従魔はそれに応じます。

 それだけは忘れないでください。

 また、召喚する際には魔力を消費します。

 詳しくは授業でお伝えしますが、従魔となる魔獣たちは私たちとは異なる次元に暮らしていると言われています。

 そこからここに来るまでの運賃みたいなものですね。

 ただ、帰る時はいりません。

 また、この世界にいる間は多少なりとも契約主から魔力をもらっていきます。

 そして、従魔たちが真に休めるのは自分たちが暮らしている次元です。

 なにか重篤な怪我を負った際には、すぐに元の世界に戻してあげてください。

 可能なら、たくさんの魔力を渡して」


 もう一度出てきた黒猫にラキル先生は愛おしそうに視線を向ける。先生は本当に従魔を大切にしているのだろう。それがよく伝わってきた。


 そこから軽く質問をして、実際に従魔をしまってみてその日は終了した。返す前にたくさんの魔力を渡しておくと、ウェルは嬉しそうに声を上げて帰っていった。


「その、ちょっといいですか」


 全員が従魔を返し終わって、じゃあ帰ろうか、とマベリア様と話をしていると、いつの間にか近づいてきたミークレウム殿下がそう話しかけてきた。傍にはもう一人の従魔との契約成功した男子生徒がいる。あれ、この方は殿下のもう一人の側近じゃないかしら。


「アイリーン嬢?」


「あ、はい、大丈夫です」


 マベリア様の方を見ると空気をよんでくれたのか、先に帰っているね、と声をかけて部屋を出ていった。すごい、さすができる方。


「それで、なんでしょうか」


「あの、聞きたいことがあるのです。

 ……場所を移動しても?」


「わかりました」


 気まずげで、そしてまだ疑いが消えていない目でこちらを見てくるミークレウム殿下。一体このタイミングで何を話そうというのか。ひとまず殿下に指定された場所に時間差で向かうこととなった。


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