第11話 従魔召喚1
学院自体にも慣れたころ、授業が本格的に始まった。その一つが従魔の授業。私が狙っていた授業だ。入学前の準備の大半がここに費やされたと言っても過言ではない。本当に大変だった……。
失敗するわけにはいかない。だからか、いつも以上に緊張してしまう。
従魔の授業は基本的には座学になる。だけど、初回授業に召喚をしてみるのだ。ほとんどの学生は何も召喚できないけれど、『できない』ことを実感させることで、教師の目がないところでの事故を防ぐことが目的だそう。きっとその結論に至るまで何度か事故が起きたのよね……。
って、それは今はどうでもよくて。今大事なのはその召喚についてだ。ここで成功するかどうかが、かなり重要になってくる。召喚に成功すれば、後期から王宮魔術師になるための特別クラスに入れる。このクラスに入ることで、かなり立太子に近づける。魔法によって守られ、栄えているこの国にとって、優秀な魔術師は宝だ。そして、それを指導者にも求めがちでもある。
「それでは授業を始めていきます。
私は従魔学を担当しますマングリー・ラキル。
……皆さん、どこか落ち着かないご様子ですね」
おっとりとした様子のラキル先生が周りを見渡してほほ笑む。きっと毎年恒例の行事なのだろう。私も緊張しているけれど、周りも緊張しているから目立ってはいない。ここにいる人たちはたいてい王宮魔術師を目指しているのだ。貴族の後継者なら王宮魔術師にはならないけれど、それでもなる資格を得ている、それだけで自慢になるというもの。貴族の見栄でもあると思うのよね。
「今日は皆さんに召喚を体験していただきます。
そのために、多くの教員に協力していただきますよ。
それだけ危険が多いのです。
それは承知くださいね」
口元は笑っているけれど、目は笑っていない。その異様な空気に周りの学生たちも息をのむ。先ほどまで膨れ上がっていた空気が一気に縮んだみたい。さすが、学生の相手は慣れてらっしゃる。
「それでは手順を説明しますから、よく聞いていてくださいね。
それから一人ずつ召喚を体験していただきます。
ご存知かとは思いますが、この時期の召喚は失敗する可能性が高いです。
なので、うまくいかなくても決して落ち込まないでください」
そう前置きをしてからラキル先生は召喚に仕方について説明をしだした。簡単に言うと一人一枚ずつ召喚用の陣を用意しており、そこに魔力を込める。すると、成功すれば従魔が召喚される。そこで契約を結べば完成だ。
逆に失敗すれば、暴発する可能性がある。例えば、術者が意図していない量の魔力が吸われてしまうなど。その場合、たとえ召喚自体は成功してもそのあとの契約が結べない。そして、契約できなかった魔獣は大人しく戻ってくれればいいけれど、そのまま暴れる可能性がある。だから危険が伴うのだ。
召喚に成功するために重要なのは魔力量と親和性。召喚に成功するために必要な魔力量も大事だが、召喚される従魔自身が術者に惹かれることが大事だと先生が話しているのを多くの学生がノートに取っていた。
「それじゃあやってみましょうか」
座学が終わりを見せると、また学生たちがそわそわしだす。その中の一人にミークレウム殿下を見つけた。タイミングは一瞬。一人ずつ呼ばれていく中で、ミークレウム殿下はかなり早く呼ばれた。緊張が一気に膨れる。
先生の前に出ていくときに、無言で術式を展開する。それは、魔力増幅の術式。前回の時、入学直後のこの時期では魔力量が足りなかったのだ。そのせいで、ミークレウム殿下は従魔を召喚できなかった。でも、後期に召喚に成功していたから、従魔との相性はいいと思う。
魔力が足りないのなら増幅すればいい。それは私にはできる。でも、勝手にやる以上、気がつかれたら警戒される。それなら警戒する間がないタイミングで魔法をかけるしかない。
「それでは、ここに魔力を。
そして……」
「はい」
手をかざす、その瞬間。今だ!
一瞬、手の動きが止まる。それでもそのまま魔法陣に手をかざす。その時、魔法陣が輝きだした。今までの人たちとは全く違う反応。
その光が収まった時、魔法陣の中心には両手で抱えられるほどの大きさの白い『何か』がいた。それはミークレウム殿下の従魔。竜の子供だった。
「あっ……」
「まあ、素晴らしい!
召喚成功ですね。
これは……竜の子供、ですかね?
どうぞ触ってあげてください」
ラキル先生がそう言うと、ミークレウム殿下は恐る恐る手を伸ばす。竜は目を開けると、ミークレウム殿下を見て嬉しそうに一鳴きする。その可愛さに教室中から声が上がった。
良かった、成功したんだ。良かった……。これはかなり大きな違い。1年しかない殿下にとっては、王太子の座までの距離が一気に近づいたと言っても過言ではない。たぶん。いや、きっと。
いくら準備に時間をかけても、実際にやってみれば一瞬で。でもこの一瞬に多くのものがかかっていた。それが無事に成功して、本当に良かった。うっかり泣きそうになっているのをこらえている間に、殿下が竜の子を抱えて後ろに下がる。その様子を見ていると、ふと視線が合う。その目が何を考えているのか、私にはよくわからなかった。
私から視線を逸らすと、殿下はまた腕の中に視線を戻す。そのあまりにも優しい視線に、早く出会えてよかったと思うとともに、なんとも言えない感情が沸き上がってきた。
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