第4話 貴族家への養子入り
結局前回同様、私ともう一人がD級以上として貴族へ養子に行くことになった。後から話を聞いたところ、私のランクはC級とのこと。うん、いい感じのランク。思惑が外れることはなく、心底ほっとした。
ちなみにもう一人はD級のリレーガ。頭がいいと言われる男の子だ。これから私たちは、私たちを引き取っていいと手を挙げる貴族家に行くことになる。学院では一緒になった気がするけれど、特にこれと言った印象はない。いや、ひとつだけあったかな。この人は私を見かけるといつもにらんでいた気がする。
「君もD級以上だったんだろう?
貴族になれるなんて、なんて幸運なんだろう」
喜びを隠しもしない表情でリレーガはそう私に話しかけてきた。そうだった、この人は貴族になれることを喜んでいる人だった。前回も似たことを言われた気がする。それに対して私は……。
「でも、家族と離れなきゃいけないのよ?
寂しいと思わない?」
「うーん、そうかな?
俺としてはやっぱり嬉しいけれど」
そこまで言うとリレーガは傍にいたお姉ちゃんに目を向ける。リレーガの傍には、誰もいない。ああ、そっか。この子は家族に鬱屈とした思いを抱いていたんだ。だから、前回も今回もそんな家族から離れられることを喜んでいる。
今はリレーガの保護者を待っている状況だった。子供が養子に出るということで、さすがに保護者不在のまま話を進めるわけにはいかない、とのこと。神父様がどこか外へ行き、神官様も今は席を外している。聖騎士は扉の外にいるため、中にいるのは3人だけだった。
まもなく、神父様がリレーガの両親を連れて戻ってきた。両親の表情は疑うようなものだった。
「リレーガが魔力を持っているなんて、何か間違えだと思うんですけどね、神父様」
「いいえ、神官様が直接確認なさったのです。
間違えではございませんよ」
「でも……」
そんな会話とともに部屋に入ってきた両親に、リレーガは顔をゆがませていた。泣き出す直前のような、怒り出す直前のような不器用な表情は両親に見つかることはなかった。
「ほらな、僕が言ったとおりだろ!
儀式で魔力が判明して、貴族の子供になってやるって」
「リレーガ!」
ふんっ、と顔をそむけたリレーガに父親の叱責がとぶ。母親は目を見開き、固まっていた。
「あなた……、本当にそれがいいと思っていたの……?」
「当たり前だろ!
貴族様の子供になれば、いっぱいご飯を食べられて、家の手伝いなんかせずにいっぱい遊べて……、それにきっと僕だけを見てくれる」
「リレーガ……、ごめんね、ごめんなさいね」
だんだんと勢いをなくしたリレーガの言葉に、両親が駆け寄る。リレーガには確か上にも下にも兄弟がいたはず。きっとその陰に隠れてしまった時があったのだろう。貴族の養子はそんな風にいいことばかりじゃないと、と言いたかったけれど、それは必死に我慢した。
リレーガ達が落ち着いたころ、神官様がようやく戻ってきた。
「お揃いですね。
まずはアイリーンさん、リレーガさん、おめでとうございます。
あなた方はD級以上の魔力を持っており、今後この国において重要な役割を果たす可能性があります。
どうか慢心せずに、努力し続けてください。
その先にあなた方にしかできない役割が待っているはずです。
先ほど神殿にお二人のことを伝えました。
それは各貴族の家へと伝わり、誰かがあなた方の養父母として名乗りを上げましたら、神父へとお伝えいたします。
その家の方が迎えに来られるまでは、どうぞご家族の方々とお過ごしください」
「はい……」
神官様の言葉に、ちらりとお姉ちゃんを見る。その表情は暗く、悲しんでいるように見える。私も養子になんて行きたくないけれど、行くしかない。それが私にとっても、お姉ちゃんにとっても、最善だと思うから。
***
「本当に行っちゃうの……?」
「ごめんね、ステリー」
泣きそうなステリ―をぎゅっと抱きしめる。するとステリ―はこちらを抱きしめ返してくれた。今日は私の養子にする家から迎えが来る日だった。思惑通り、前回とは違う家。でも、期待はしない。できるわけがない。
本当は今日までにお姉ちゃんとステリ―には別の場所に行ってもらって、行方をわからなくさせた方がいいんじゃないかって考えていた。でも、きっとそれでもなにか2人に『用事』があるのなら、探し出せてしまうだろう。貴族とはそういうものだから。だったら、慣れたこの地に暮らしてもらった方がいい。
「体に気を付けてね。
それと……、あの日言ったこと忘れないでね」
「うん、絶対忘れない。
お姉ちゃんも忘れないでね」
「もちろん」
「え、何、2人だけの秘密?」
「ふふ、そう」
なにそれ、とふてくされるステリ―がかわいい。きっとこんな姿を見ることはもう叶わない。もう一度ステリ―を抱きしめていると、その上からさらにお姉ちゃんが抱きしめてくる。ステリ―は苦しいと文句を言うけれど、今だけは我慢してほしい。
頑張ってくるから、どうか2人は元気に、幸せに暮らしていて。
「そろそろ参りましょう、アイリーン様」
「はい、お待たせしました」
迎えに来てくれた護衛と侍女に声をかけてから、最後にステリ―とお姉ちゃんに挨拶をする。
「それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい、アイリーン」
「行ってらっしゃい、アイリーン姉ちゃん!」
手を振って見送ってくれるステリ―とお姉ちゃんの顔を目に焼き付けて、私は馬車に乗り込んだ。
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