第3話 魔力判定
憂鬱な魔力判定の日はすぐにやってきた。目覚めたときは空っぽになっていた魔力は徐々に回復し、このまま判定をしてしまうとおそらくかなり高い判定になってしまう。それを避けるために、私は前日に魔力を発散していた。本当は魔力量を増やすための手荒な方法で、前回は養父となった公爵にこれを強いられていた。だからこそ、当初S級だった魔力量は最終的に特級にまで増えていた。効果は確かなのよね……。
とにかく、感覚でしかないけれどちょうどよいくらいに直前に魔力量を発散したから、変な結果にはならないはず! 今の体でも前回と同様の感覚で魔法を操ることができると知れたのはいい収穫だった。何かあっても一応対処できそう。
どきどきとしながら、お姉ちゃんが用意してくれた判定の儀式のための衣装に身を包む。13歳を寿ぐ目的もあるこの儀式は伝統的に白い衣装を着る。平民であれば親元を離れて働きに出ることが多い年齢、そして貴族であれば社交界デビューを果たす年齢だ。まあ、成人年齢は15歳なのだけれど。
貴族は誕生日当日に神殿に出向き儀式を受ける。けれど、ここのような王都から離れた町では定期的に神殿から神官がやってきて儀式を受けることになっていた。神官がこの町にやってくることが決まってから、13歳の子も、その親もどこかそわそわとしていた。
「アイリーン、とっても似合っているわ」
「ありがとう、お姉ちゃん。
毎晩手直ししてくれていたよね……」
「うーん、そんな毎晩ってほどではないわよ?
それよりも私の着たものでごめんね。
できるだけ刺繍を施したりとかしたんだけれど……」
「とっても素敵よ!
私、すごく気に入ったもの」
心からそう言うと、お姉ちゃんはようやく少し表情を和らげてくれた。気に入っているのは本当なのに。ステリーはこちらをじっと見上げていた。
「なに、ステリー。
どこか変?」
「ううん、そんなことない。
アイリーン姉ちゃん、すっごく綺麗。
その、今日はおめでとうございます」
「え、あ、ありがとう」
こんなに素直にほめてくれるなんて思っていなかったから、驚いてしまった。そんな私の様子に満足したらしいステリーは笑っていた。
ステリーにお留守番を頼んで、お姉ちゃんと2人教会へと向かう。今日はお店を占めているところも多くて、全体的に13歳をお祝いするという雰囲気だ。いつもはあまり人が集まっていない教会も今日ばかりは大盛況。
中にはすでに神殿から派遣されてきた神官、聖騎士が神父と共に待っていた。2回目とはいえ、少しドキドキしながら席に座る。そして予定の時刻になると、経典の一部を読み始める。眠くなるようなそれが終わるとようやく判定の儀に進んだ。
一人ひとり名前が呼ばれていく中、とうとうアイリーンという名が呼ばれる。儀式を行っている部屋には本人と神官しか入れないので、お姉ちゃんとはここでいったんお別れ。どうかS級ではありませんように……。
「あなたがアイリーンさんですね。
こちらにきて水晶に手を当ててください」
簡潔に述べるこの神官は前回と一緒。柔らかな笑みを浮かべていて、いかにも聖職者と言ったこの男性は、確かに心優しい人だった。公爵家に養子に行くことが決まった時は喜び、そして環境が変わる私を心配してくれていた。そんなこの方でも公爵家で起こることやその先に何が起こるかは一切わからなかったのだろう。
「はい」
緊張は最高潮に達していた。震える手で水晶に触れる。ひんやりとした水晶はすぐに魔力を吸い取っていく。その時、あの秘宝に死ぬほど魔力を吸い取られたことを体が思い出したのか恐怖が底から這い上がってくる。体まで震えだして、それでも私は水晶から手を離すことができなかった。
「もう手を離してください!
大丈夫ですか、アイリーンさん」
「あ……」
いつの間にか判定は出ていたらしい。慌てた神官の声と腕をつかむ手の感触にようやく震えが収まってきた。まさか強制的に魔力を吸われることにこれほど恐怖を感じるなんて……。
「だい、じょうぶ、です」
「ですがまだ顔色が悪い。
初めて魔力を感じて驚かれたのでしょう。
少し休んでからお話しましょうか」
その言葉に、自分の魔力ランクがひとまずD級を超えていたことが分かった。何もなければこのまま帰るだけ。でも、D級以上だと貴族への養子入りの話がある。正直動揺して自分のランクなんて確認できなかったから、少しほっとした。
別室に案内されて、温かいお茶を出される。ほかの子の判定も済ませてしまいますから、とそこで私は待機することになった。その間に神父様がお姉ちゃんを部屋へと連れてきてくれた。
「アイリーン……、もしかして」
「私もどうなっているのかはわからないけど、たぶん……」
そう言った私の言葉に、お姉ちゃんの顔が曇る。そうだ、前回もお姉ちゃんはこんな表情をしていた。心配もそうだけれど、何かを話したがっているようなそんな表情。
じっとお姉ちゃんの顔を見ていると、あいまいな笑みを返された。
「ねえ、アイリーン。
どこへ行っても、どんな姓を名乗っても、あなたは私の大切な家族よ。
それだけは忘れないでね」
「どうしたの、お姉ちゃん。
そんなの当たり前じゃない」
ぎゅっと抱きしめてきたお姉ちゃんを私も抱きしめ返す。そのぬくもりに体に入った力を抜くことができた。
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