子猫の冒険
神原
第1話
「にゃーん」
一匹の子猫が眠そうに椅子に座っている主の足へとくるまった。靴下の肌触りが好きなのか、ときおりごろごろと喉を鳴らしている。
忙しそうにパソコンに向かう主は、その猫に一顧だにしない。
それでも、満足そうに絡み付いている。よほど好きなのだろう。ついにはすやすやと寝息を立てて肌寒い家の中で惰眠を貪るのだった。
ふと視界に暗闇が落ちてくる。一呼吸する間だったろうか、闇は子猫を覆いつくしていた。何も見えない漆黒の中へと。
「にゃぁ?」
眠気で重い体を奮い立たせる。大好きなご主人様の元へと向かうべく。しかし、ここがどこだか分からない。何も見えない。聞こえるのは自分の吐息だけ。
歴戦の雄猫ではない、まだ小さい子猫なのだ。不安がまとわりつくのも仕方のない事だった。それでも一所懸命に足を動かしていく。初めて訪れた孤独の中で。
「にゃぁあ」
ぽつんと刺した光明。いや、光明と言うほどの光量ではなかったものの、星のかすかな光が額を照らした。今だ。とばかりに駆け出していく。どこを探したらいいのかさえ分からないまま。
住み慣れた家にいるはずだった。あの良い匂いがする靴下の傍にいるはずだった。子猫は無我夢中で足を動かした。そしてたどり着いた先は知らない世界だ。
「にゃあん?」
ふわふわとした面持ちで、問い掛ける様に鳴く。何かが見えた訳ではない。思わず漏らしたため息の様なそんな声がもれてしまったのだ。
そんな中、嗅ぎなれた匂いが僅かに薫る。
「にゃにゃ、にゃにゃ」
まるで行かないでと叫ぶ様に子猫は前足を泳がせた。
と、足に触れるかすかな肌触り。
「にゃー!!」
思わず叫んだ声で子猫は目を覚ましたのだった。大好きな主人の元、いつの間にか夜になって暗くなった部屋の中で。
『そうか、お腹すいたか』
足元で時折じたばた足を動かしていた子猫に、お腹が空いた催促だな、とおもったのかもしれない
知らぬは主ばかりだった
子猫の冒険 神原 @kannbara
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