第6話 動物園より愛を込めて
昼どきを過ぎて日本平動物園はより混雑していた。ゴールデンウィークの良く晴れた日で、絶好の行楽日和。混まぬはずがない。
動物園内のレストランは大混雑だったので、売店で軽食を購入した成行たち。たい焼き、たこ焼きを買い、簡単だがそれを昼食とした。
「ウサギさん、めちゃくちゃ可愛いなぁ・・・」
沙織は
「ホンマやね。めっちゃ癒やされるわぁ・・・」
こちらもウサギさんを抱きあげて癒やされている資織。
一方、「メェ〜〜〜!」と、鳴く羊に迫られる見事。
「ちょっと、凄く羊が来てる!成行君ってば!」
羊に押され気味の見事。お世辞にも可愛いサイズとは言い難い大きさの羊。子羊ではなく、大人羊で、メ~メ~鳴きながら見事に近づく。
成行や見事たちが来ているのは、動物園内の『ふれあいコーナー』。そこは書いて字の如く、動物たちと間近で触れ合いをできる場所。そのため、家族連れの客を中心に混雑していた。
「メェ〜〜〜!」と、成行や凛の側にもやってくる羊。
羊の目的は、成行たちが手にしている
「凄い!ウール100%って感じ!」
餌を求める羊。それに対して成行は少しも動じる
「割と圧の強い動物ね」
凛も羊に餌を差し出す。
羊は次から次へと餌をご馳走になる。羊の食事は割と豪快で、餌の葉物野菜をバリバリと口の中へ運んでいく。
「ちょっと!私の服は葉っぱじゃないわよ!」
羊に抗議する見事。なかなか餌を貰えない羊が見事の衣類を噛む。
「メェ〜〜〜!」
餌を早くしろと言わんばかりに、鳴き喚く羊。
「見事さん、羊さんには優しくしてあげて。大声を出すと驚いちゃいますよ?」
そう言いながら成行は見事の方へ向かう。
「メェ〜〜〜!」
成行の動きに合わせて羊も移動する。無論、羊は成行に従っているのではなく、彼の手にする餌しか見ていない。
「もう!映画と違って、少しも沈黙しないじゃない─」
羊から逃げようとする見事。
「あれ?そんな牧歌的な映画でした?」
見事を追いかける羊を眺めながら、成行は『羊たちの沈黙』のあらすじを思い出そうとする。
「その映画って、そもそも羊たちが出てきた?」
凛も見事が追い回されるのをみながら考える。
「メェ~〜〜!」
「成行君!羊が!羊が!」
羊に追われて、もはや少々パニックの見事。
「見事、笑って!」と、記念撮影をしようとする凛。呑気にも手を振りながら、見事に笑顔を見せよと
「アンタ、正気じゃないわよ!?私を助けなさい!」
助けようとせず、スマホを向けてくる凛に声を荒げた見事。そして、お構いなしに餌を
「こっち、こっち!」と、成行が餌の葉物野菜で羊を呼び寄せる。すると、羊は見事から成行の方へ移動した。
「ウメェ〜〜〜!」
羊は成行の差し出した餌を満足気に食べる。
成行のおかげで、ようやく羊から解放された見事。芝生の上に思わず腰を下ろす。
すると子羊が一匹、見事に近づく。
「メェ~!」と、一度きり見事に向かって鳴く。
子羊は必要以上に見事には近づかず、大人しく餌が差し出されることを待つ。
そんな子羊を見てため息を漏らした見事。
「わかった。今、あげるわ─」
見事が葉物野菜を差し出すと、子羊は礼を言う代わりに、『メェ~』と鳴く。
「美味しい?」と、見事が尋ねる。
「ウメェ〜〜〜!」と、鳴く子羊。それを目にした見事も、ようやく笑顔に。彼女も子羊から癒やしを得た。
「ほら、羊たちはしっかり言うことを聞くでしょう?」
成行は見事に近づく。見事には無礼な振る舞いをした羊だが、成行だけには大人しく従う。
「凄いわね、成行君。羊飼いの素質があるんじゃない?」
見事は子羊を優しく撫でる。メェ~と甘えるように鳴く子羊。
「羊飼いかぁ。でも僕の家は代々、臨済宗だしなぁ─」
そう言いながら頭をかく成行。羊は再度、成行へ餌の催促をする。
ようやく落ち着いて羊と触れ合う成行と見事。そんな二人の様子を少し離れた場所から写真に納める凛だった。
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