第4話 人気者はモフモフだけとは限らない

 動物園とは時間をかけて見学すれば、僅かな時間では全てを観きれない。日本平動物園に着いてもなく、成行たちはそれを理解した。動物たちの展示一つ一つが興味をそそる。

 レッサーパンダの愛くるしさに癒やされた後、成行たちはペンギンを観た。ペンギンの展示はレッサーパンダ館の隣だ。

 こちらも動物園を訪れる人間には好評で、老いも若きも、みな足を止めて青いプールの上を飛ぶペンギンを眺めている。

 果たしてペンギンたちは四角のスマホを向けてくる人間をどんな風に観察しているのだろう?人工の岩山で群れたペンギンたちも、その視線を人間に向けていた。


 レッサーパンダ、ペンギンの順番で、次はサルの展示へ向かった成行たち。そこは中型のサルとチンパンジーの展示とで別々にされていた。

「わっ!?お前の母ちゃんがおるで!」

「わっ!?アンタの兄弟がいるわよ!」

 サルの展示を観るなり、剣豪の居合いありりがこどく瞬時にを吐いた沙織と見事。

「ぐぬぬぬっ!」

「ぐぎぎぎっ!」

 サルの目の前で火花を散らす見事と沙織。その雰囲気を察したのか、檻にいた中型サルやチンパンジーたちが『キーキーッ!』と喚き始める。


「争いは同じレベルの者同士でしか起きないって言うけど、まさにその通りね、岩濱君。動物を見てるより楽しいわ」

 凛は見事と沙織の口喧嘩を呑気に笑いながら同意を求めた。しかし、成行は檻の中のニホンザルのように聞こえないふりをした。

「ちょっと、無視しなくてもいいんじゃないの?これは重要な教訓なのよ?動物園なのに人間を観察をする方が面白いって」

 凛は成行の顔を覗き込むように話しかける。すると、成行は困った顔をしながら答える。

「人間観察?まあ、確かに二人のやり取りを見ていると、『愛をください』って唄いたくなるよ」

「それは言えてるわ」と、苦笑する凛だった。


「んっ?あれは・・・?」

 凛と会話する成行の視線にが入ってきた。

「みんな、あそこに行こう!」

 成行は睨み合いをしている見事と沙織へ話しかける。彼が指さした方向には人集ひとだかりができていた。

「何の動物がいるの?」と、尋ねる見事。

「行ってみればわかるよ」と、ニコッとして答えた成行。この時点で彼が何をしようとしているのか、見事は気づいていない。



 ※※※※※



「うわ~ん!見事さん、助けて!」

 鉄格子を掴み、おりの中からこれまたオーバーリアクションで叫ぶ成行。それを見た周囲の客から笑い声が漏れる。

「ちょっと、成行君!恥ずかしいから!大声で呼ばないで!お行儀良くしなさい!」

 檻の外から叫んだ見事。そんなことを言いつつも、彼女は檻の中の成行をしっかりスマホで撮影。凛や棗姉妹も檻の中の成行を撮影している。


「では、順番で。次の方どうぞ─」

 動物園職員の案内で、今度は小学生の兄弟が檻の中に入ってくる。

「ありがとうございました」と、動物園職員へ会釈して檻の中を後にする成行。


「もう!私の名前を呼ばなくてもいいのに!」

 戻ってきた成行に対してプンプンと怒っている見事。

「だって、見事さんを檻の中に入れるわけにはいかないでしょう?それとも、見事さんは檻に入りたかったの?」と、尋ねる成行。彼には不平不満は一切無く、檻の中を満喫した様子。

「嫌よ!何でこのんで檻に入らないといけないのよ?」

 見事は即座に檻のなか行きを拒んだ。


 成行が入った檻とは、世にも珍しい『人間の檻』である。

 ここ日本平動物園では『人間の檻』として訪問客が出入り可能な檻がある。この『人間の檻』は、チンパンジーの展示の隣に位置している。

 先程、成行と入れ違いに入った小学生の兄弟は、檻の外にいる両親と思しき夫婦に手を振っていた。


「何でや?見事も檻の中に入ったらエエのに─」と、横槍を入れてくる沙織。

「何ですって!?アナタこそ、お隣のチンパンジーさんの檻に入ったらいいのよ!」

 即座に切り返す見事。

「ぐぬぬぬっ!」

「ぐぎぎぎっ!」

 懲りずに睨み合いをし始めた見事と沙織。またも、チンパンジーたちが二人の睨み合いに気づいて騒ぎ始める。


「凄い。何も進歩していない・・・」と、呆れ顔で二人を見ている凛だった。












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