第3話 いよいよ入場です
成行たちはいよいよレッサーパンダ館へ入った。
「「「「「わあああっ!」」」」」
思わず声が漏れた成行たち。それは他の客も同じで、皆レッサーパンダ館の
そこには愛くるしいレッサーパンダたちがのんびりと暮らしていた。
レッサーパンダがのびのびと暮らせるように展示館の造りは凝っており、レッサーパンダの通路や設備は彼らだけでなく、入場客にも見やすく、楽しみながら観察できる仕組みになっている。
そのお陰でレッサーパンダの牧歌的な生き様に人間どもは心を癒やされる。
「混雑していますので、ゆっくりお進みください」
動物園職員がボードを片手に入場客へ注意喚起している。ボードには、『動物ファーストでご観覧ください』と記されていた。
レッサーパンダ館へ入った客たちはスマホやタブレットをレッサーパンダに向けながらゆっくり進む。
「めっちゃ可愛い!動物園きて良かったわ!」
テンション高めでレッサーパンダを撮影する沙織。
「癒やされるわ。お人形さんみたいや」
レッサーパンダの仕草に心を奪われている資織。彼女もレッサーパンダへスマホを向ける。
他の客もやることは同じで、ため息を漏らしながらレッサーパンダの姿に癒やされる。
「可愛い過ぎるわね、レッサーパンダさん。静岡まで来た甲斐があったわ」
見事もスマホでレッサーパンダの姿を追う。その隣では、なんと成行が見事へスマホを向けていた。
それに気づいた見事。彼女は驚いた様子で頬を赤くする。
「何で私を撮影しているのよ!?レッサーパンダさんを撮りなさいよ!」
「いや、レッサーパンダさんの写真を撮る見事さんを撮った方がいいかなと思って。そっちの方が、いかにも旅行の思い出と言えるでしょう?ほら、笑って笑って!」
そう言って撮影を止めない成行。
「旅行の思い出って!ちょっと!まさか動画を撮ってるの!?恥ずかしいから!」
成行の撮影を妨害しようとする見事。
「お客さん、動物ファースト、動物ファースト。人間撮影の邪魔をしないで─」
二人のやり取りを目にした客がクスクスと笑っている。
それを後ろからみていた凛は、二人のやり取りをスマホにおさめる。
「後で見事に送っておくかな」
そう言って凛もクスクスと笑いながら写真を撮っていた。
※※※※※
同じ頃、静岡競輪場の正門では・・・。
雷鳴と幸は特観席及びロイヤル・ルーム入場客の行列に並んでいた。
ロイヤル・ルームというのは、特観席よりも更にワングレード高い指定席。正確に言うと、『席』というより『部屋』である。
複数人で利用でき、室内にはソファーやテレビを完備。フリードリンク付きで、静岡競輪場内の飲食店から出前サービスまでしてくれる。
今朝の天候は快晴。日本選手権競輪・決勝戦の朝に相応しい。開門まで時間はあるのだが、二人の並ぶ行列は長くなりつつあった。
この特観席及びロイヤル・ルームは昨日、今日と当日入場券の発売は無い。そのため、警備員がメガホン片手に注意喚起をしていた。
「こちらは特別観覧席とロイヤル・ルーム利用者の列になります!特別観覧席とロイヤル・ルームの当日入場券発売はございません!事前抽選に当選した方のみご入場になります。ご了承ください!」
警備員や競輪場職員はプラカードを片手に集まる客へ注意を促した。プラカードには、『本日は特別観覧席とロイヤル・ルームの発売はありません。事前抽選に当選者のみ入場可能です』と記されている。
日本各地の競輪場、
雷鳴と幸の並ぶ列とは別に、さらに長い行列が出来ていた。一般入場客の行列だ。特観席とロイヤル・ルームに入れない客はこちらの行列に並ぶ。
が、この行列は既に数百メートル以上の長さになっていた。静岡競輪場・正門から西へ向かう歩道にずっと行列は続く。あまりに長いので、車道を挟んだ反対側の歩道までに連なっていた。
普段、競輪場周辺では警備員が交通整理をしている。だが、
雷鳴と幸のいる場所から日産・キャラバンやトヨタ・クラウンなど、お馴染みの警察車両を見ることができる。
「まさにお祭り騒ぎだな。昨日の朝よりも客がいるぞ」
「そうね。特観席、当選していて本当に良かったわ」
集まる無数の客を眺めながら二人は話した。
昨晩購入した
一方、幸も南競を手にしていた。だが、こちらは静岡競輪場・正門で販売されていたもの。まだ、何も書き込まれていない。
行列に並ぶ客たちはワイワイガヤガヤと今日の決勝戦や、個々のレース予想している。関西、九州、東北など全国各地の方言も聞こえてくる。それだけ今開催には全国各地から競輪ファンが詰めかけている。
すると、メガホンを手にした一人の警備員が集まった客に向かって叫ぶ。
「お客様にお知らせします!本日は予定を繰り上げて開門致します!本日は予定を繰り上げて開門致します!特別観覧席、ロイヤル・ルームをご利用のお客様は事前抽選券をご用意になってお待ち下さい。入場の際に確認します。もう間もなくの開門になります!もう間もなくの開門になります!」
警備員が行列に並ぶ人の側を通りながら、開門時刻繰り上げを伝える。
どうやらあまりの客の多さに、主催者側は予定よりも早く開門を決めたようだ。このまま予定通りの開門時刻を待てば、今以上の人で競輪場周辺が混乱する恐れがある。
「賢明な判断だ。これだとマジで2万人来場しそうだな?」
警備員の言葉を聞いた雷鳴は言う。
「この時点で軽く500人は並んでいるわね」
幸は一般入場客の行列を眺めながら言う。
「おっ!」と、声を上げる雷鳴。その声に視線を同じ方向へ向けた幸。競輪場正門のシャッターがゆっくり上がり始める。これには他の客も気づき、皆の視線が正門へ向かう。
携帯式の椅子や、スポーツ紙を地面に敷いて座っていた客たちが立ち上がる。いよいよ開門だ。
正門の向こうには警備員、競輪場職員、そしてサイクルウェアを着た男女が複数いた。サイクルウェアを着ているのは地元・静岡県の競輪選手。ダービーを走ることができない分、全国から来る客をおもてなしするのが役目だ。
「間もなく開門でーす!入場の際はゆっくりとお進みください!」
一般入場客の前で警備員が叫ぶ。
すると、その直後に就業を告げるような予鈴が響く。それを合図に正門を塞いでいた警備員が場内へ進む。
「おはようございまーす!ゆっくり中へお進みくださーい!」
警備員に続き、次々と一般入場客が静岡競輪場内へ入っていく。
「おはようございます!」
「おはようございます!ご来場、ありがとうございます!」
「おはようございます!」
静岡県の競輪選手や競輪場職員が元気の良い挨拶で入場客を迎える。
出迎えの選手や職員から客へ一人一つ入場記念品お菓子が配られる。開催初日からウェルカムお菓子は配られていたが、最終日の今日はどら焼きである。
「お菓子にはお楽しみ抽選券が付いております!当選した方には引き換えの景品がございます!」
客に一言伝えながら選手や職員がどら焼きを手渡す。
「それでは特別観覧席、ロイヤル・ルームへご入場のお客様をご案内します!ニ列になってご入場ください!」
雷鳴と幸が並んだ行列へも声がかかり、入場が始まる。
「さあ、いざ出陣じゃあ!」
「おーっ!」
こうして雷鳴と幸も競輪場内へと出陣して行った。
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