第2話 日本平動物園

 グランエースがエントランスゲート前から出発すると、成行たちは入場券発売の行列へ向かう。皆、タクシー内から目にしていただろうが、入場券売場へつらなる列は長い。


「こればかりは仕方ないか・・・」

 行列を眺めた成行が言う。

「めっちゃ待ちそうやな・・・」と、ため息を吐く沙織。

 皆が入場まで時間がかかることを覚悟した。そのときだ。

「待って、みんな!」

 行列へ並ぼうとする四人を引き止めた見事。

「どうしたの?見事さん」

「何や?おトイレか?」

「違うわよ!これがあれば、すぐに入場できるわ!」

 そう言って見事が取り出したのが、日本平動物園の入場券だった。


「おおっ!準備がいい、見事さん!」

「フフンっ!」

 成行の言葉に気を良くする見事。わかりやすくドヤ顔をしている。

「どこで手に入れたの?」

 凛は見事に尋ねる。

「今の時代、動物園の入場券も前売りで購入できるのよ!」

 見事は誇らしげに言うが、タクシーの運転手・新居さんに手配してもらったのは内緒にしていた。


「どうせ、さっきのタクシーのおっちゃんが用意したんと違うんか?タクシーの運転手なら簡単に用意できるやろ?」

 ジトっとした目で妙に勘の良いことを言う沙織。

「ちっ、違うわよ!?私が何とかしたの!」と、要らぬ意地を張る見事。


「とりあえず見事のおかげということで、ここはありがたく入場しましょう」

 凛はニコニコしながら見事へ手を差し出す。入場券をくれと催促した。

「本当にありがたく思っているの?」

 見事は不満気な顔をしつつも、凛から順番に入場券を配る。

「勿論ですって!神様、仏様、見事様ですから」

 オーバーに嬉しそうなリアクションをしながら入場券を受け取った成行。

「もう!調子が良いんだから。そこまで言うならしっかり私を敬ってよね?」

 見事は成行に入場券を渡し、次に資織へ入場券を渡す。そして、最後に沙織へ入場券を渡す見事。

「お姉さんは入場料100万ですね」

 沙織へ入場券を差し出しながら、入場料を要求する見事。

「何でウチだけ100万円なんじゃ!そんな高くないやろ!」

「USドルか、ユーロ払いでお願いします」と、ニコニコ笑顔の見事。

「桁違いにオカシイやろ!?100万ドルなら、家が建つわ!日本平動物園ここ、中学生は160円で入場できるやろ?ちゃんと調べてるわ!」

「意外としっかりしてるのね?残念」

 見事は渋々、入場券を差し出す。

「上方の魔法少女をなめたらアカンで!」

 沙織にも入場券が渡ったところで、一行はいよいよ動物園内へと向かった。



 ※※※※※



 日本平動物園の正門・エントランスゲートを通り抜けてすぐ、目の前には多数の人がワイワイと密集していた。

「この人集りは?」

 成行は動物園のパンフレットを開く。しかし、彼が答えを見つける前に見事が解答した。

「レッサーパンダさんよ!」

「「レッサーパンダさんやて!?」」

 見事の言葉に棗姉妹が目を輝かせる。


 エントランスゲートを通過してすぐ。そこにはレッサーパンダの飼育エリア『レッサーパンダ館』があった。いきなりの真打登場である。日本平動物園へ来たことがなくても、ここのレッサーパンダはメディアを通じて知っている人も多いはずだ。

 当然ながら、ここも行列が出来ている。先程の入場券売場以上に混雑している。だが、これに見事や棗姉妹は文句を言わない。

「いきなりレッサーパンダさんに会えるとか、最高やな!」

「うん、めっちゃ楽しみ」

 ワクワクした様子で行列に並ぶ棗姉妹。早くもスマホを用意してレッサーパンダさんの撮影準備をしている。


「大人気だな。いや、日本平動物園の主役ともいうべきか?」

 成行はパンフレットを読みながらレッサーパンダ展示を確認する。

「レッサーパンダさん以外にもかわいい動物は沢山いるんだから。今から予習してね、成行君」

 見事は成行に言う。

「任せといてください。今日は沢山、動物たちと触れ合いますよ」と、なぜか気合充分に答えた成行。

『(私とも沢山触れ合ってほしいけど・・・)』

 そっと呟いた見事だったが、動物並の聴力でそれを聞き逃さなかった凛。

「えっ?成行君と触れ合いたいの?」

 故意に近い大きなボリュームで見事へ尋ねる。

「えっ?僕が何か?」

 こちらも動物並の聴力で聞き逃していなかった成行。

「わあああっ!何でもない!前を見てなさい!」

 顔を赤くして慌てる見事。


「でも、僕の名が呼ばれたような?」

「いいから!前を向く!」

 成行の背中を押して、見事はどうにか心の呟きを誤魔化した。

「みていて飽きないわね、見事。レッサーパンダを観るよりも楽しいかも?」

 少しイジワルな笑顔で凛は言う。

「もう!凛ってば!」

 声を荒げたが見事だが、凛は宥めるように言う。

「見事、落ち着いて。レッサーパンダが驚いちゃうでしょう?お静かに」

 凛がそういうと少し悔しそうな顔をしつつ、見事は黙り込んだ。











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