第4章 日本選手権競輪・最終日

第1話 決勝戦の朝

 運命の朝を迎えた。G1日本選手権競輪・最終日6日目の朝だ。ホテルで朝食を終えた成行一行。ここから大人組と成行たち学生軍団は別行動になる。


 雷鳴と幸の大人組は既に静岡競輪場へ向かっていた。日本選手権競輪・最終日、第1レースから観戦するためだ。

 一方、成行と見事は新居さんのタクシーで日本平動物園へ向かう手筈だった。ところが・・・。



 ※※※※※



 新居さんの運転するグランエースから静岡の街並みを眺めている見事。昨晩は動物園へ行くことを楽しみにしていた彼女だが、今はムッとしたような表情で静岡の市街地を眺めている。


「動物園や~!」と、見事の後ろの席でハイテンションの少女が一人。双子魔女の妹・棗沙織だ。

「レッサーパンダさんに会うのが楽しみや」

 のんびりしたテンションで話す少女がその隣にいた。双子魔女の姉・棗資織だ。


「もう!動物園に行くのに、何で今からアニマルがいるのよ!」

 出発早々、失礼なことを言う見事。

 よもや棗姉妹までもが一緒に動物園へ行くとは思っていなかった。しかも、この手筈を整えたのが雷鳴だというのだ。成行と二人で動物園と思っていたのが、まさしく打ち砕かれた形だ。


「誰がアニマルじゃ!?こんな可愛くてイタイケな魔法少女が他にどこにおるんや!!」

 すぐさま言い返してきた沙織。関西の魔法使いゆえか、レスポンスはとても早い。

「お静かにお願いしま~す。他のお客様のご迷惑になりますので─」

 素っ気ない顔で言い放つ見事。

「何やて・・・!」

 沙織は威嚇するが、フンっと知らん顔をした見事。


「お兄ちゃん、ウチらご迷惑なん?」

 資織が前席に座る成行へ問いかける。

「えーと─」

 資織へ気の利いたことでも言おうとした成行。

 が、見事の視線に気づき、体が硬直する。まるで蛇に睨まれたカエルのように。


「ほらほら、みんな喧嘩しないの。お行儀良くしなさい」

 助手席に座る凛が後部席を振りかえり注意を促した。

 すると、穏やかに笑いながら凛へ話しかける新居さん。

「まるで遠足に行く先生みたいですね」

「本当に。世話のやける子どもたちですよ」

 呆れたような笑顔で答えた凛。


「ちょっと!何で私が子ども扱いされているのよ?」

 凛の発言に抗議した見事。

「せや!ウチらやなくて、この乱暴ゴリラ女だけにしてや!」と、見事を指さした沙織。

「まあ、失礼ね!私は雷鳥サンダーバードのようにエレガントなのよ!」

「どこがサンダーバードじゃ!?烏骨鶏うこっけいの間違いやろ!」

 このまま放置すると動物園まで見事と沙織のが続きそうだった。それを察したのか、凛は二人へ再度さいど言い聞かせる。

「ほら、漫才はここまで。良い子にしてないと、途中で降ろすわよ?」

 サラッと厳しめのお言葉を発した凛。それが効いたのか定かではないが、見事と沙織の口喧嘩が止まる。

「ぐぬぬぬっ・・・!」

「ぐぎぎぎっ・・・!」

 睨み合ったままタクシー内で火花を飛ばす二人。そんな二人へ成行が言う。

「二人とも喧嘩しても楽しくないから、もう止めましょう。仲良く。ゴリラでも、雷鳥でも、烏骨鶏でも動物園に行けば会えますから─」


 呑気に言う成行だが、残念なことに日本平動物園にはゴリラ、雷鳥、烏骨鶏はいない。

 さらに言えば、雷鳥らいちょうを英語で言うと『サンダーバード』ではない。『Ptarmigan(ターミガン)』となる。サンダーバードでは、『国際救助隊』になってしまう。



 ※※※※※



 成行たちを乗せたグランエースが日本平動物園の手前まで着いた。さすがゴールデンウィークだけあって、午前中の早い時間にも関わらず、動物園への道中は混雑している。開園時間は午前9時。既に開園時間を過ぎているが、駐車場へ向かう車が長く連なる。

「かなり混雑しています。申し訳ないのですが、皆さんには先に降りて頂いたほうがいいかもしれません」

 新居さんは動物園の混雑状況をみて、成行たちに先に下車してもらう判断をした。


「わかりました。じゃあ、私たちは先に降りましょう」

 そう答える見事。

「では、動物園のエントランスゲートへ向かいます」

 新居さんはタクシーを日本平動物園のエントランスゲートへ走らせる。

 そこはバスやタクシーが進入可能なため、自家用で訪れる客よりも早く入園できる。新居さんは交通整理員の誘導に従い、エントランスゲートを目指す。


 すると、こちらもタクシーやマイクロバス等で混んでいる。しかし、こちらは乗降が終了すれば車が捌けていく。やはり、自家用車での来場者よりも早く行動できるメリットがあった。


 タクシーの乗降場に停車するグランエース。新居さんは車を停止させ、成行たちを降ろす。一方、成行たちも周辺の混雑に配慮して素早く下車する。


「15時前にお迎えに参ります。皆さん、お気をつけて」と言う新居さん。動物園までの道中で、午後の予定を確認していた見事。競輪場へ行く時間を考慮して、送迎の時刻を15時前としていた。

「ありがとうございました、新居さん」

 丁寧に頭を下げた見事。

「「「「ありがとうございました!」」」」

 成行、棗姉妹や凛も新居さんに礼を述べると、皆で日本平動物園の正門・エントランスゲートへと歩き始めた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る