第15話 決勝の前夜①

 準決勝終了後、雷鳴たちは静岡競輪場の正門で集合。そこから新居あらいさんの運転するグランエースに乗り、全員でホテルへ戻った。


 夕飯は遅めの時間になった。皆、いずれも昼間にいちご狩りや競輪場のグルメを堪能していたので、それほど空腹ではなかった。サンドイッチの盛り合わせをホテルのレストランへ注文し、それを皆で食べた。


 軽めの夕食の後、見事はこっそりとある場所に向かった。そう、同じホテルの成行の部屋だ。



 ※※※※※



 別に悪いことをしている訳ではない。たが、必要以上に周囲を警戒する見事。

 もしかしたら、成行と同じ部屋に泊まるかもしれない。そんなことを考えていた時期もありました。

 しかし、そんな妄想は母・雷鳴が木っ端微塵にしたので、無駄でしかなかった。

 それはさておき、いま見事が成行の部屋へ向かうのは正当な理由がある。明日の予定を確認するためだ。明日は静岡市内の日本平動物園へ行きたいと考えていた見事。競輪を観るのも結構だか、デートっぽいこともしたい。

「デートって・・・!」

 自分で妄想して勝手に悶絶している見事。

 

 夕食後すぐにシャワーを浴びて、新調した白いネグリジェを着ている。裾も袖も長いデザインで肌の露出は少ないが、新雪を纏ったような美しさには惚れ惚れする。自分で言うのも何だが、このネグリジェには自信しかない。


 成行の泊まる部屋は、見事の泊まる部屋の一つ上の階。素早く移動し、成行の部屋へ向かう。

 もし双子魔女が成行の部屋にいたら、追い払う必要がある。あの二人に大事な明日の打ち合わせを台無しにされたら最悪だ。

 そうならないためにも先手必勝。それは競輪でも同じだ。そんなことを考えながら、見事は成行の部屋の前に着いた。


 ドアの前で咳払いをして、心を落ち着かせる。そして、そっとドアを叩いた。


 が、反応がない。


「ん?いないのかしら・・・?」

 見事はもう一度、ドアを叩いた。が、やはり反応がない。


 もしや、何かあったのだろうか?そう思った見事は躊躇無く空間魔法を駆使してドアを開けた。非常事態かもしれないので、プライバシーとかは無視するしかない。


 成行の部屋は真っ暗だった。

「成行君・・・?」

 そっと部屋にお邪魔した見事。念のため、空間魔法で部屋内部を確認した。が、誰の気配も無い。


 部屋の灯りをつけて、内部を進む見事。そこにはやはり成行の姿は無かった。

「成行君、どこに?」

 まさか、またもや何かのトラブルか?トラブルは漫画だけにしてほしいところだが、魔法使い業界ではトラブルは日常茶飯だ。


 誰かが成行を連れ去ったのか?いや、それは考えづらい。雷光の一件で警備は強化されている。そんな中で何かあれば御庭番や執行部の沽券にかかわる。

 見事は成行の行方を冷静に考える。


「待って・・・」

 案外、近くにいるかもしれない。双子魔女に先を越された?いや、あの二人には凛が監視としているはず。だが、凛までグルだとしたら・・・?


 見事は再度、空間魔法を発動した。そして、成行の行方を探す。

「いた!」

 いとも容易くに探知できた。それはこの下の階。見事が泊まっている部屋もその階である。


 見事はすぐに下の階へ向かう。自らの魔法を頼りに辿り着いたのは何と母・雷鳴の部屋だった。

「どうして成行君がここに・・・?」

 首を傾げながら見事はそっと雷鳴の部屋のドアに耳を当てる。すると、微かにうめき声が聞こえた気がした。

「えっ・・・!?どういうことなの・・・」

 何かの間違えかもしれないと、今一度ドアへ耳を当てた見事。


『ううっ・・・』


 やはり人のうめき声がする。

 見事に緊張が走った。本当に何か非常事態なのかもしれない。しかも、そこは母・雷鳴の部屋。ここで何かが起きているのならば、それは大事だ。魔法使いとしての母・雷鳴の力量を理解している見事。そんな母に何かあるのであれば非常に危険な状況だと言える。


 ここは誰かの応援を呼ぶべきか。それとも一刻も早く部屋へ突入し、救出を行うべきか。見事は決断を迫られていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る