第11話 第11レース・S級準決勝①
成行と見事が特観席を離れたので、幸と二人で予想する雷鳴。本日最終レースとなる11レース。この出走表とにらめっこしながら、ただ静かに予想する。
特観席のテーブルには専門予想紙『南競』と、最新のオッズを確認するためのスマホ。そして、車券を買うためのマークシートが札束のように積まれていた。
明日の決勝戦へ勝ち進めるのは9人のうち、3人だけ。それを推理する。
第11レースに出走するのは、以下の9人である。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
そして、11レースの並びが以下のようになる。
←②①(北日本) ⑤(近畿) ⑦(九州) ⑨④(中部) ⑧③⑥(東日本混成)
この11レースでは、北日本ラインの②釘谷、①廣石。単騎で走る大阪の⑤
最新のオッズでは、2車単で①②の北日本ラインの折返しがトップ2。これに②⑤の組み合わせが、その次に人気である。
特に②釘谷は今年最初のG1・全日本選抜競輪を優勝。年末の競輪GPへの切符を誰よりも先に獲得している。その後、今年はここまで
そして、この2人への対抗格が大阪の⑤古達である。昨年は地元・岸和田競輪場で開催された高松宮記念杯競輪G1で優勝。翌月(昨年7月)のG2サマーナイトフェスティバルでも優勝している。今年、G1、G2での優勝はまだないが、ここまで開催された全日本選抜競輪とウィナーズカップでは決勝まで勝ち進んでいる。
雷鳴はこのレースで逃げるのが、⑧海野・弟か、⑨風祭だとみていた。両者とも実力ある若手で、それぞれ南関東と中部地区を代表する先行屋だ。
⑨風祭はデビュー翌年に年末のヤングGPを制覇した経験があり、G2共同通信社杯(5年前)を優勝した経験もある。彼の番手には④谷藤が回る。谷藤も中部地区が誇る自力自在選手であり、4年前の日本選手権競輪を優勝したのが彼である。
対して⑧海野・弟こと、海野由吉も南関東地区ではトップクラスの若手選手。
このレースでは地区が異なる③佐倉と⑥要の2名がラインを固める。
⑧海野の番手を回る③佐倉は前橋競輪場をホームとする選手。一昨年の寛仁親王牌G1の覇者であり、11レースでは人気の一角を担う。
⑥要も群馬県の選手で、③佐倉とは高校時代から自転車競技で共に汗を流してきた間柄。小柄ながらも関東地区では実力あるマーク選手として有名で、他地区の選手からも一目置かれる存在だ。
雷鳴はさりげなく幸へ話しかける。
「幸は誰を本命とみる?」
すると、幸は雷鳴の方を振り向く。
「そうね。本命は⑤古達かしら?」
「ほう・・・。⑤か・・・」とだけ呟く雷鳴。
被ったなと思った雷鳴。彼女の本命もまた⑤古達だった。
最新のオッズでは相変わらず②①の組み合わせが人気だが、それは怪しいとみていた雷鳴。
②釘谷は先行型選手だが、「逃げ」よりも「捲り」の決まり手が多い。どの選手にも得意な仕掛けというものがあるのだが、捲りとはそう簡単なものではない。
例えば、残り1周の段階で、8番手や9番手などの最後方からだと捲り不発になる可能性がある。
先のレースでは広重選手が豪快な捲りを決めたが、あれは客によっては相当ヒヤヒヤしただろう。
最後方からの捲りは道中で牽制を受けて不発になる危険が大きい。さらにこの戦法がパターン化していると、他の選手からの牽制を受ける可能性が増す。
②釘谷は後方位置からの捲りが多い。今年最初のタイトルホルダーとはいえ、ここはダービーの準決勝。他の選手からの牽制もキツくなるだろうし、②釘谷の捲り不発になる可能性があった。
11レースで逃げるのが⑧海野であれ、⑨風祭であれ、中段の位置を狙ってくるのが⑤古達だろう。
⑤古達は自力自在型の選手で、位置取りの上手さに定評がある。逃げるよりも良い位置を狙い、そこから仕掛ける。縦脚もあれば、横の動きにも強く、『日本一の自力自在』とも呼ばれていた。
「雷鳴の本命も⑤かしら?」
今度は幸に尋ねられる雷鳴。微笑む幸に雷鳴は素直に答える。
「ああ、⑤だ。考えていることは同じじゃないか?」
「奇遇ね。なら、対抗は誰にしている?」
幸からの問いに少し考えて答える雷鳴。
「②③⑦だ。だが、誰か1人というなら③佐倉だ」
「佐倉選手ね─」
雷鳴の答えを聞いて、幸は静かに南競の出走表を見つめる。
「幸の対抗格は誰なんだ?」と、問いかける雷鳴。
「うーん」と、少し考えて答える幸。
「迷うけど、1人ピックアップするなら⑦大堀選手ね。同じ九州人としてはね」
「⑦か・・・」
その答えも悪くないと思う雷鳴。
⑦大堀も、⑤古達と同じく自力自在型の選手。⑤古達と同じく良い位置を狙い、そこから仕掛けるだろう。場合によっては、逃げるラインへスイッチし、追走まであるかもしれない。
「よし・・・」
雷鳴はマークシートを手にすると、スマホで現在時刻と投票締切時間を照らし合わせる。
まだ余裕があることを確認し、雷鳴はマークシートに記入し始めるのだった。
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