第11話  第11レース・S級準決勝①

 成行と見事が特観席を離れたので、幸と二人で予想する雷鳴。本日最終レースとなる11レース。この出走表とにらめっこしながら、ただ静かに予想する。

 特観席のテーブルには専門予想紙『南競』と、最新のオッズを確認するためのスマホ。そして、車券を買うためのマークシートが札束のように積まれていた。

 明日の決勝戦へ勝ち進めるのは9人のうち、3人だけ。それを推理する。


 第11レースに出走するのは、以下の9人である。


 ①廣石ひろいし良輔りょうすけ:北海道 S級1班 競走得点112点(両)37歳


 ②釘谷くぎたに由弥ゆきや:青森県 S級S班 競走得点119点(逃)29歳


 ③佐倉さくら京介けいすけ:群馬県 S級S班 競走得点116点(逃)29歳


 ④谷藤たにふじ俊邦としくに:三重県 S級1班 競走得点114点(両)33歳


 ⑤古達こだて光弘みつひろ:大阪府 S級S班 競走得点118点(両)28歳


 ⑥かなめ哲也てつや:群馬県 S級1班 競走得点112点(追)29歳


 ⑦大堀おおほり玄太げんた:佐賀県 S級1班 競走得点115点(逃)31歳


 ⑧海野うんの由吉ゆきち:静岡県 S級1班 競走得点114点(逃)25歳


 ⑨風祭かざまつり友人ともひろ:岐阜県 S級1班 競走得点113点(逃)30歳


 そして、11レースの並びが以下のようになる。


 ←②①(北日本) ⑤(近畿) ⑦(九州) ⑨④(中部) ⑧③⑥(東日本混成)


 この11レースでは、北日本ラインの②釘谷、①廣石。単騎で走る大阪の⑤古達こだて。それに③佐倉を絡めた車券が人気になっていた。この4人を軸としたレース予想となる。

 最新のオッズでは、2車単で①②の北日本ラインの折返しがトップ2。これに②⑤の組み合わせが、その次に人気である。


 特に②釘谷は今年最初のG1・全日本選抜競輪を優勝。年末の競輪GPへの切符を誰よりも先に獲得している。その後、今年はここまで記念競輪G3を3大会優勝。好調を維持している。彼の番手で走る①廣石と、この2人に人気が集中するのも仕方ないだろう。

 そして、この2人への対抗格が大阪の⑤古達である。昨年は地元・岸和田競輪場で開催された高松宮記念杯競輪G1で優勝。翌月(昨年7月)のG2サマーナイトフェスティバルでも優勝している。今年、G1、G2での優勝はまだないが、ここまで開催された全日本選抜競輪とウィナーズカップでは決勝まで勝ち進んでいる。


 雷鳴はこのレースで逃げるのが、⑧海野・弟か、⑨風祭だとみていた。両者とも実力ある若手で、それぞれ南関東と中部地区を代表する先行屋だ。


 ⑨風祭はデビュー翌年に年末のヤングGPを制覇した経験があり、G2共同通信社杯(5年前)を優勝した経験もある。彼の番手には④谷藤が回る。谷藤も中部地区が誇る自力自在選手であり、4年前の日本選手権競輪を優勝したのが彼である。


 対して⑧海野・弟こと、海野由吉も南関東地区ではトップクラスの若手選手。

 このレースでは地区が異なる③佐倉と⑥要の2名がラインを固める。

 ⑧海野の番手を回る③佐倉は前橋競輪場をホームとする選手。一昨年の寛仁親王牌G1の覇者であり、11レースでは人気の一角を担う。

 ⑥要も群馬県の選手で、③佐倉とは高校時代から自転車競技で共に汗を流してきた間柄。小柄ながらも関東地区では実力あるマーク選手として有名で、他地区の選手からも一目置かれる存在だ。


 雷鳴はさりげなく幸へ話しかける。

「幸は誰を本命とみる?」

 すると、幸は雷鳴の方を振り向く。

「そうね。本命は⑤古達かしら?」

「ほう・・・。⑤か・・・」とだけ呟く雷鳴。

 被ったなと思った雷鳴。彼女の本命もまた⑤古達だった。


 最新のオッズでは相変わらず②①の組み合わせが人気だが、それは怪しいとみていた雷鳴。

 ②釘谷は先行型選手だが、「逃げ」よりも「捲り」の決まり手が多い。どの選手にも得意な仕掛けというものがあるのだが、捲りとはそう簡単なものではない。


 例えば、残り1周の段階で、8番手や9番手などの最後方からだと捲り不発になる可能性がある。

 先のレースでは広重選手が豪快な捲りを決めたが、あれは客によっては相当ヒヤヒヤしただろう。


 最後方からの捲りは道中で牽制を受けて不発になる危険が大きい。さらにこの戦法がパターン化していると、他の選手からの牽制を受ける可能性が増す。

 ②釘谷は後方位置からの捲りが多い。今年最初のタイトルホルダーとはいえ、ここはダービーの準決勝。他の選手からの牽制もキツくなるだろうし、②釘谷の捲り不発になる可能性があった。


 11レースで逃げるのが⑧海野であれ、⑨風祭であれ、中段の位置を狙ってくるのが⑤古達だろう。

 ⑤古達は自力自在型の選手で、位置取りの上手さに定評がある。逃げるよりも良い位置を狙い、そこから仕掛ける。縦脚もあれば、横の動きにも強く、『日本一の自力自在』とも呼ばれていた。


「雷鳴の本命も⑤かしら?」

 今度は幸に尋ねられる雷鳴。微笑む幸に雷鳴は素直に答える。

「ああ、⑤だ。考えていることは同じじゃないか?」

「奇遇ね。なら、対抗は誰にしている?」

 幸からの問いに少し考えて答える雷鳴。

「②③⑦だ。だが、誰か1人というなら③佐倉だ」

「佐倉選手ね─」

 雷鳴の答えを聞いて、幸は静かに南競の出走表を見つめる。


「幸の対抗格は誰なんだ?」と、問いかける雷鳴。

「うーん」と、少し考えて答える幸。

「迷うけど、1人ピックアップするなら⑦大堀選手ね。同じ九州人としてはね」

「⑦か・・・」

 その答えも悪くないと思う雷鳴。

 ⑦大堀も、⑤古達と同じく自力自在型の選手。⑤古達と同じく良い位置を狙い、そこから仕掛けるだろう。場合によっては、逃げるラインへスイッチし、追走まであるかもしれない。


「よし・・・」

 雷鳴はマークシートを手にすると、スマホで現在時刻と投票締切時間を照らし合わせる。

 まだ余裕があることを確認し、雷鳴はマークシートに記入し始めるのだった。














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