第4話 イチゴ狩りへ向かいます③

 イチゴハウスの外へ出た成行たち。


 腹痛に顔が強ばる成行。それには、流石に棗姉妹も気づく。

「お兄ちゃん、何か具合が悪いの?凄い顔しとるで?」

 沙織が成行の顔を覗き込むように尋ねてくる。

「うん。お兄ちゃん、何か変やで。何でそんなに汗かいてるの?」

 資織も首を傾げて、不思議そうに成行を見つめる。


「大丈夫だよ・・・。ソフトクリームを食べような」

「まあ、ええか。お兄ちゃんが大丈夫って言うなら」

「せやね」

 棗姉妹はそれ以上、突っ込んだ質問をしなかった。二人と入れ替わるように、見事と凛がやって来る。


「成行君、やっぱりお腹が痛いんでしょう?」

 見事はジッと成行の顔を見つめながら問いただす。

「岩濱君、そこで謎のプライドを発揮しても仕方ないんじゃない?」

 凛も成行に降伏勧告をする。


 二人の言葉に成行が折れた。

「少しだけ、お暇します━」

 成行はハウス外で待機していた新居さんに駆け寄る。


「すいません。お手洗いの場所って━?」

「お手洗いですか?あちらです。あそこのお手洗い看板の所です」

 新居さんの指さした方向には、確かにお手洗いの看板が。

「ありがとうございます!」

 成行はそう言い残して、ダッシュでお手洗いへ向かった。


「一緒にいて、飽きないわね。岩濱君って」

 呑気に笑う凛。

「じゃあ、ずっと一緒にいる?」

 頬を膨らませた見事。

「それは結構。そんな気、私には全く無いから」

 そう言ってカラカラと笑う凛であった。



 ※※※※※



「いやあ。流石、本場のイチゴソフトクリーム!まさに美味ですよ!」

 10分ほど前の出来事など、全く気にする素振りのない成行。キッチンカーで購入したイチゴソフトクリームを、見事と堪能している。

「成行君、ソフトクリームは一本だけよ?」と、小さい子どもへ注意するように言う見事。


「わかってますよ」と、笑顔で回答の成行。

「本当に?」と、見事。

「見事さん、そんな顔をしないで。美味しいイチゴソフトクリーム、しっかり堪能しましょう?」

「もう、わかってるわよ」

 イチゴソフトクリームを堪能する成行と見事。

 そのうち、二人は静かにソフトクリームを食べ始める。ソフトクリームの美味さに、思わず無言になっていた。


 キッチンカーで販売されているイチゴソフトクリーム。これは、ここのハウスイチゴを使用したもの。ソフトクリーム以外にも、ジェラートも販売している。

 新鮮なイチゴを使用しているので、普段、都内で口にするイチゴソフトクリームよりも鮮度が違う。それに何よりも、ソフトクリーム自体が非常に滑らかで、口溶けが良い。イチゴ本来の甘さが引き立ち、過度な甘さが無いのも、鮮度の良さを感じさせる。


 他の観光客達も、イチゴソフトクリームやジェラートを楽しんでいる。

 今の時間、天気が良いせいか、気温も高くなっていた。青空が朝よりも広く静岡市内の上空に見渡せた。キッチンカーには、冷たい甘味を求める人が行列を成す。


「皆さん。イチゴ狩りは如何でしたか?」

 新居さんが成行達のもとへ来た。

「とっても楽しめました!イチゴ、美味しかったです」

 笑顔で答えた見事。

「やっぱり、採れたのイチゴに敵うものは無いです。凄く楽しめました」と、成行も嬉しそうに答える。

「成行君は、もう少し食べるペースを考えないとね?」

 成行へ釘を刺す見事。

「気をつけます・・・」と、苦笑しながら答えた成行。


「イチゴ狩りを満喫できたところで、次の予定なんだけど━」と、言いかけた見事。

「あっ!それなんだけど━」と、凛が手を上げた。

「どうしたの?凛」

 凛の突然の挙手に、視線が彼女へ集まる。


「私、せっかく静岡市に来たから久能山東照宮へ行きたいの」と、皆に言う凛。

「久能山東照宮?確かに近いけど、この海側からだと行くまでが大変よ」

 凛へ説明する見事。

「確かに。石段を下るのが割と大変だったから、登るのも大変かも」と、成行も凛へ言う。


 成行と見事は、久能山方面に目を向ける。イチゴハウスからだと、眼前に久能山がそびえ立つ。こうしてみると、かつては山城やまじろにも使われた久能山。その雄大さに、圧倒される。


「大丈夫よ。まあ、食後のウォーキングと思って行くわ!ねっ?アンタたち」と、凛は棗姉妹の肩を叩く。

「はっ!?ウチらも?」と、驚いた表情をする沙織。

「このお山を登るの?」

 資織は眼前の久能山を眺める。


「私は、この二人と久能山東照宮をお参りしてくるから。見事と岩濱君とは一旦、別行動ね?」

 そう言って見事にウィンクした凛。

 それを見て、思わず頬が赤くなる見事。彼女は凛のを理解したようだ。


「えーっ!?お兄ちゃんは行かんの!?」

 沙織が大声を出す。

「二人はもう昨日、お参りをしているから。私たち三人で行くわよ?新居さん、ここからなら門前町まで遠くないですよね?」

 新居さんに確認する凛。

「はい。久能山へ登られるなら、門前町までお送りします」と、新居さん。

「じゃあ、決まりね!」

 笑顔で見事に近づく凛。


「海辺でも歩いてきなさい━」と、見事の耳元で囁いた凛。

「うん・・・」

 頬が赤くなったのを見られたくなかったのか、見事は成行の方から顔を逸らすように答える。


「岩濱君。見事と、海岸の散策でもしてきて!昨日は山。今日は海。静岡市を満喫して」と、成行に言う凛。

「わかった!今日は天気も良いし、海風も心地良いだろうから」

 成行は見事に視線を向ける。


「行きましょう、見事さん!」と、見事の手を取る成行。

「うん、わかった・・・!」

 気温が高いせいなのか、見事の顔が赤くなっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る