第3話 イチゴ狩りへ向かいます②
まずはイチゴハウスへ入った成行たち。受付は新居さんが済ませてくれたので、スムーズにイチゴハウス内へと入れた。この辺の手際の良さは、流石としか言いようがない。
ハウス内には大勢のイチゴ狩り客がいた。家族連れ、カップル、それに社会人や大学生らしき女性客の一団。かなり混雑している。そんな中でイチゴ狩りを開始する成行たち。
このイチゴハウスでは、一定の料金で時間制限無しでのイチゴ狩りが楽しめる。
ハウス内はイチゴの良い香りで心地いのだが、朝食時の失敗が響いている成行。
とりあえず、赤く美しく染まったイチゴを一粒、手にする。普段、都内のスーパーで見かけるイチゴよりも粒が大きく、美味しそうに見える。
「いただきます・・・」
静かにイチゴを口へ運んだ成行。
「んっ!」と、一言だけ呟き、黙々とイチゴを味わう。
それを隣でジトっとみている見事。
「美味しい!」
皮肉にも空腹ではないため、じっくりイチゴを味わう成行。大粒で、甘みが強い品種なのだろう。それでいて、みずみずしい。こんなに美味しいイチゴは、ゆっくり堪能しなくはもったいない。
「見事さん、とっても美味しいイチゴです。ゆっくり味わないと、損ですよ?」と、一転、得意げな表情で見事に話し掛ける成行。
「じゃあ、私も━」
見事も一粒イチゴを摘み取ると、それを口にする。
「んっ!美味しい・・・!」
見事にも、このイチゴの美味しさは、すぐに伝わった様子。彼女もすぐに笑顔になる。
「このイチゴ、めっちゃ美味しいわ!」
「うん、美味しい。イチゴ狩りに来れてよかったわ」
棗姉妹も成行たちの近くでイチゴ狩りを堪能している。
「どれどれ、私も―」
凛も目の前の大粒のイチゴをもぎ取り、口にする。
「うん!これは
ゆっくりイチゴを味わえば何とかなるかもしれない。冷静に考えてみれば、イチゴを早食いする必要などない。
そう思った成行は、このイチゴ狩りを乗り切れる。そう踏んだ。そして、そう考えられると、余裕を持ってイチゴ狩りができるというものだ。
自然と笑顔になる成行。すると、隣でイチゴを食べる見事が話しかけてくる。
「成行君、余裕があるようね?はい、あーん」と、イチゴを差し出してくる見事。
「あーん!」と、イチゴを頬張る成行。
「少しは反省した?」と、少し呆れた様子の見事。
「やだなぁ、僕は何もミスをしてませんよ?イチゴ狩りを楽しみましょう!」
「もう、調子良いんだから」
少し呆れつつも、優しく微笑んだ見事。
「あっ!見事さんもお一つ。はい、あーん!」
今度は、見事へイチゴを一粒差し出す成行。
「あーん」
見事は少し恥ずかしそうにイチゴを頬張る。だが、イチゴの新鮮な甘みはすぐに見事を笑顔にした。
「今日のイチゴ狩りは正解ね。東京だと、こう簡単にはこんな風に楽しめないだろうし」
「そうそう!せっかくのゴールデンウィーク。楽しまないと!」
見事の様子を見て、成行は嬉しそうに話す。
車中での危機感は何処へやら。イチゴ狩りを楽しみ出した成行。それに見事や棗姉妹、凛。
しかし、浮かれる成行には、次なるピンチが迫っていた。
※※※※※
イチゴ狩りが始まって、早くも30分。見事や凛、棗姉妹がイチゴ狩りを楽しむ中、成行は険しい表情をしていた。
「ヤバいぜ・・・」と小さな声で、自らのピンチを悟る成行。
イチゴの美味しさからか、イチゴ狩りを存分に堪能していた成行。だが、如何にせん、イチゴを食べる勢いが早かった。つまり、今度は腹が痛くなってきた。
すると、それに目敏く気づいた見事。ジトっとした目で、成行に問いかける。
「ねえ、成行君。今度はお腹が痛いんじゃないの?」
見事の問いかけに、ギクリとする成行。
「えっ?そんなこと無いですよ・・・」
そう答える成行の笑顔が震えている。すると、見事は少し考えて、こう提案するのだ。
「じゃあ、外へソフトクリームを食べにいきましょう?イチゴのソフトクリームを」
「ソフトクリーム!?また、今度にしませんか?こんな美味しいイチゴを堪能できたんだし、もう━」
「やっぱり食べ過ぎて、お腹が痛いんでしょう!」
「違いますって!じゃあ、ソフトクリームへ行きましょう・・・」
「本当に?大丈夫なの?」
見事は成行の様子を見て、怪訝そうな表情をする。
「無論━」と答える成行だが、大丈夫ではないことは自分自身がよく理解している。
成行と見事がハウス内から出るタイミングで、凛や棗姉妹もハウスの外へ向かう。二人がキッチンカーへ向かうことを知り、三人もそちらに向かうことにした。
ハウスから出る際、凛が見事に話しかける。
「ねえ。岩濱君、また具合が悪いんじゃない?イチゴの食べ過ぎとか?」
見事の耳元で囁く凛。
「見栄を張らないで、素直に認めないから悪いのよ」
やはり、見事に見破られていた。苦笑する凛。
「もっと労ってあげたら?」と、言う凛。
「本人が大丈夫って言うんだから、大丈夫よ。子どもじゃないんだから、変な見栄を張ると碌なことにならないって成行君が自覚しないと」
「見事って、厳しいお母さんみたい」
「お母さんって言うな」
見事と凛は、そんな会話をしながらキッチンカーへ向かう。
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