第2話 イチゴ狩りへ向かいます①

 成行や見事たち魔法使い御一行は、本日も新居さんの運転で出掛ける。

 ホテルへトヨタのグランエースで迎えにきた新居さん。これも彼のタクシー会社が所有する観光タクシー。


 成行たちを乗せたグランエースは静岡市中心部から、昨日訪れた久能山東照宮方面を目指す。ただし、日本平側からではなく、海沿いに面した側、つまり国道150号線側から。

 久能山東照宮を頂く久能山。この海側に面した国道150号線一帯にはイチゴ狩りが可能なハウスが点在している。

 ゴールデンウィークの5月上旬。イチゴ狩りはラストシーズンを迎えて賑わっている。そんな中でも新居さんは見事のリクエストに応えて、急遽イチゴ狩りができるイチゴ農家をみつけてくれた。


 イチゴ狩りハウスへ向かう道中。車内で成行は静かにしていた。そんな成行をジッと観察している見事。

「成行君。もしかして、お腹一杯なの?」

 見事の指摘にギクリとする成行。

「そっ、そんなことないよ・・・」と、力の抜けたような返事をする成行。が、無理して微笑んでいるのを、見事はすぐに見抜いたらしい。

「じゃあ、沢山イチゴを食べましょうね?」

 そう言う見事の目が笑っていない。


 朝食時に食べ過ぎないようにと忠告されたのに、成行はクロワッサンを3個。ロールパンを2個。スクランブルエッグ、ベーコンとアスパラガスのソテー、ミニ豆腐ハンバーグ。そして、イチゴ狩りに行くのにも関わらず、デザートにイチゴを食べていた。


「お腹一杯じゃないの?岩濱君」

 そう話し掛けてきたのは、助手席に座っていた稲盾いだてりんだ。

「明らかに、勢いに任せて食べてたと思うんだけど―」

 凛からの指摘も耳に痛い成行。

「いや、大丈夫だよ・・・」と、答える成行。

 この調子だと、いくつイチゴを食べられるだろうか?急だが、小食キャラになろうか?いや、見事の目の前で食べたのだ。今更、小食キャラは厳しい。


「成行君。まさか、『僕は小食なんだよね』って言いださないわよね?」

 見事の笑顔が恐い。


「そっ、そんなことはないよ。イチゴ狩り、楽しみ・・・」

「わかったわ。私も成行君を信じるわ。しっかり、イチゴ狩りを楽しみましょう!」

 見事の言葉に凄くプレッシャーを感じる成行。


「そうだわ!イチゴパフェや、ソフトクリームもあるはずだし、それも食べましょう!」

 何か思い出したように言う見事。

「えっ!」と、困惑する成行。


「パフェや、ソフトクリームもあるの!?楽しみやね、資織ちゃん!」

「うん。パフェも、ソフトクリームも大好きや」

 一方、見事の言葉を素直に喜んでいるのは棗姉妹。こちらは二人とも、朝食はクロワッサンを1個。それとスクランブルエッグを少ししか食べていない。見事とは相性が悪そうだが、どうやら聞くべき点は聞き逃していなかったようだ。


「わあい、楽しみ・・・」

 どうやってそれらを胃袋に収めるのか。必死に考え始める成行だった。



               ※※※※※



 成行たちを乗せたグランエースは、目的地のイチゴハウスへ到着した。途中、国道150号線の混雑はあったものの、極端な遅れは無く目的地に到着できた。


 イチゴハウスの駐車場には、日本各地のナンバープレートの車が止まっている。連休を利用して、各地から観光客が来ているのが一目瞭然だ。


「皆さん、目的地に到着です」

 エンジンを切って、皆に話し掛ける新居さん。

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 車内の一行は、新居さんへお礼を述べる。


「皆さん。こちらのイチゴハウスですが、本日は貸切ではございません。のお客様もいらっしゃることをご留意ください」

 車内の五人に忠告した新居さん。彼の言うとは、その言葉通りで、『魔法の使えない人』という意味だ。


 グランエースから降りる五人。

「では、私がご案内します。皆さん、ついて来てください」

 新居さんの案内で、成行や見事たちはイチゴハウスの受付へと向かった。


 今日は朝から天気が良いこともあり、観光イチゴハウスは観光客で賑わっている。

 駐車場の目の前にはキッチンカーが3台停車していた。それぞれイチゴを用いたスイーツを販売しており、イチゴのパフェ、イチゴのソフトクリーム、それにイチゴのクレープまでラインナップされている。


「やべえ・・・。イチゴスイーツ、オールスター競輪だよ・・・」

 キッチンカーを目にして呟く成行。

「どうかしたの?成行君」

 成行の呟きを聞き逃していなかった見事。

「いやあ、イチゴ狩り楽しみだなって。はははっ・・・」

 すると、トントンと成行の肩を叩く凛。


「岩濱君。さっさと降参したら?」と、凛は小声で忠告してくる。

「なっ、何を言うんだ、稲盾さん!」

 ドキッとした成行。

 それを『むうっ』とした表情でみていた見事。


「成行君には、私がイチゴを沢山食べさせてあげるわ」

 何か決心したかのように言う見事。

「ウチらも、お兄ちゃんにイチゴ沢山食べさせてあげるで!」

「お兄ちゃん、楽しみにしてな」

 こちらは無邪気に話し掛けてくる棗姉妹。


「わあい・・・。楽しみ・・・」

 ゲップを堪えることに集中する成行。


「やれやれ・・・」というのは、傍らからそのやり取りを見ている凛だった。















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