第6話 部屋割り

 パーティーで夕飯を済ませた成行たち。食事も、デザートも堪能し、今日の疲れが吹き飛んだ。


「ふう、美味しかった」

「お寿司はどれも美味しかったし、デザートも最高だったわね」

 成行も、見事も料理に満足した様子。

 結局、パーティー中はずっと見事が成行の護衛をする形になっていた。そうはいっても、要は二人でご馳走を堪能していただけなのだが。


「もう、お腹一杯や!」

「うなぎも食べられて、よかったわ・・・」

 棗姉妹も静岡のご馳走にご満足な様子。こちらも凛の監視下にあるとはいえ、普通に食事を楽しんでいた。


 パーティーは終わりになり、他の魔法使い達も各々に会場を離れていく。


「さて、夕食も済んだし、双子はこっちね」

 宴会場を出たタイミングで、凛は棗姉妹を手招きする。


「えっ?どこ行くの?」

 沙織はキョトンとしながら凛に尋ねる。

「決まってるじゃない。」と、即答した凛。

「私たちの部屋・・・?」

 凛の言葉に首を傾げる資織。


「アンタたち双子は、もれなく私の監視付きよ。私と同じ部屋に泊まるの」

 そう言って凛は、少し意地悪そうな笑顔で棗姉妹の肩を掴む。

「そんな、あんまりや!お兄ちゃんと一緒のお部屋がええのに!」

 沙織は駄々をこねるように叫ぶ。

「ガッカリや・・・」と、こちらは控えめに残念そうな反応をする資織。


「ダメよ!アンタたちが成行君と同じ部屋なんて、10億光年早いわよ!」

 棗姉妹に言い放つ見事。気のせいだろうか、少し勝ち誇った様子の見事。


「そういうわけで、これは見事に渡すわ―」

 そう言ってカードキーを見事に渡した凛。無論、このホテルの部屋のカードキーだ。


「ありがとう!」

 嬉々としてカードキーを受け取った見事。


「で、これは岩濱君に―」

 成行にもカードキーを差し出した凛。

「ああ。これはどうも―」

 何の疑いも無くカードキーを受け取った成行。


「えっ!」と、驚きの声を上げたのは見事だった。


「何で成行君が一人部屋なのよ!?」と、納得できない様子の見事。

「えっ?何で同じ部屋だと思ったの?」と、すっとぼけたような表情で答える凛。


「そっ、それは、私が成行君の師匠だからよ!」

 顔を赤くして答える見事。

「それに万が一のことがあったら、誰が成行君を守るのよ!」

 何故か必死に話す見事。


「雷鳴さんから伝言。岩濱君と見事のあいだに、万が一のことがあったら困るから、別の部屋にするって」

 飄々と話す凛。


「何ですって!なっ、成行君はしないわよ!」

 赤い顔で震えながら反論する見事。

「まあ、知らないけど、そう決まっているから。文句があるなら、雷鳴さんに言って」

 見事の反論を軽くあしらう凛。


「さあ、双子魔女。私と部屋に行くわよ」

 棗姉妹の背中を押す凛。

「ううっ・・・。お兄ちゃん、また明日な・・・」

「お休みなさい、お兄ちゃん」

 棗姉妹は観念した様子で凛に連れて行かれる。


 三人がいなくなったタイミングで、成行は見事をみた。

「まあ、とりあえず僕たちもそれぞれの部屋に行きましょうか・・・」

 成行は見事の顔色を窺うように話す。


 すると、やはり納得できない様子で見事は成行に言う。

「なっ、成行君はこのままでいいの!?」


「えっと、それはホテルの部屋割りに関して?」

「そうよ!何で私たちは別の部屋なのよ!?」

「まあ、その何ていうか、こういうものじゃないですかね・・・?」

 若干、引き気味に答えた成行。

 連休前、今回の静岡に誘われた段階では、冗談気味にしか考えていなかった成行。

 が、いざ同じホテルに泊まるとなったとき、本当に同じ部屋だったらどうしようと考えていた。


「べっ、別に変な意味とかはないのよ!でも、また成行君が不審者に狙われたら困るって、私は『師匠』として心配しているのだけであって、変な意味はないのよ!」

 見事は顔を赤くして、一人でしどろもどろしている。


「それはわかってます。だから、落ち着いて―」

「なっ!わっ、私は至って冷静よ!」

 そう反論する見事は、冷静な様子にはみえない。だが、ここで余計な一言は彼女の勘気に触れそうなので、黙っていようと思う成行。


「おーい!見事、ユッキー!」

 不意に二人を呼ぶ声がした。ドレスに着飾った雷鳴が、成行と見事の前に現れた。

 ドレス姿の雷鳴に思わず目を奪われる成行。ホテル到着後に出会った時とは打って変わって、着飾った雷鳴の姿の美しさに魅了される。銀幕のスター顔負けだ。


「ママ!何で私と成行君が別の部屋なのよ!」

 何よりも先に、抗議した見事。


「何を言ってるんだ!漫画やラノベみたいに高校生の男女を同じ部屋に泊めるワケないだろう!これでも私は常識人だぞ?」と、真っ当なことを言って見事を完封する雷鳴。

「ぐぬぬぬっ!でも、私は成行君の師匠だし、また成行君の身に何かあった困るじゃない!」

 懲りずに、見事は雷鳴にも先程と同様の理由を言った。


「心配するな!昼間の一件もあるし、執行部の連中にはホテルの警護を改めて強化するように依頼した。それと九州の連中に棗姉妹の監視を頼んだのも、ちゃんとワケがある。今、あの双子魔女の監視だけでなく、お前たち二人の護衛も頼んであるんだ。余計な手出しをすれば、稲盾いだてさちの顔に泥を塗ることになる。そんな馬鹿をやる魔法使いはいないわい!安心しろ。今、このホテルは、アメリカ大使館よりも安全だ。誰も手出しはできん」

 見事を少し叱るような雰囲気で話した雷鳴。

「わかったわ・・・。ママがそこまで言うなら―」

 ここまで言われて、ようやく見事も


「ユッキー。見事の心配はもっともだが、安心してくれ。それと改めて、昼間は雷光が迷惑をかけたな」

 雷鳴は神妙な態度で成行に頭を下げた。

「いえ、そんな!新幹線代と、ホテル代を面倒見てもらっている身ですし、僕も無事だったので―」

 雷鳴の態度に、却って申し訳ないと思ってしまった成行。


「あら、こんばんは。アナタが岩濱君かしら?」

 成行と見事の前にもう一人、ドレス姿の女性が現れた。凛と同じく赤い髪の毛で、ロングヘアを一本縛りにした女性。


「稲盾さん・・・。こんばんは」

 見事がその女性を見て、すぐに挨拶をした。その態度は、明らかにその女性に対して気を遣っている。


 成行もそれに敏感に反応する。

「こんばんは、岩濱成行です」と、即座に挨拶をしていた。


「ユッキー。コイツが稲盾いだてさちだ。さっき会った凛の母親で、九州、沖縄の魔法使いのことは任せている」

 そう言って幸を紹介する雷鳴。


「よろしくね。岩濱君―」

 幸はスッと右手を差し出してくる。


「よろしくお願いします」と、成行はすぐに幸と握手した。

 大人の世界、いや魔法使いの世界では、こうして握手したり、色々と交流があるのだろうか?今までには感じたことのない成行。


 すると、そんな緊張感を見透かしたように幸は成行に言う。

「初めましてだけど、そんなに緊張しないで。もう凛には会ったでしょう?」

「ええ。会いました」

「凛と同じで、私にもフレンドリーに接してね」

 そう言ってウインクした幸。


「恐縮です―」と、返すのが精一杯の成行。

 幸の態度に見事が誤解しないかと不安になったが、それは杞憂だった。

 見事もまた少し緊張した様子だったのだ。その反応に、おやっと思った成行。彼女でも緊張する相手なのか?棗姉妹や凛と接する際とは、明らかに態度が違う。


「じゃあ、今夜は。私は自分の部屋に戻るわね」

 幸は成行たちに手を振って、その場を去る。

「ああ。また明日―」

 雷鳴も幸に手を振った。


「ママ、稲盾さんとは何を話したの?」

 幸の姿が見えなくなったタイミングで、見事は雷鳴に尋ねる。

 すると、少し真剣な表情で雷鳴は、成行と見事をみる。


「明日の話なんだがな―」

 そう言って雷鳴は、稲盾いだてさちと話し合った内容を説明し始めた。





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