第4話 魔法使いの宴

「さあ、お前たち。ホテルの宴会場へ向かえ。そこで、立食パーティーをしている。夕飯を食べてこい」

 雷鳴は成行や見事達に言う。


「でも、ママ―」

 見事は不安と不満が混じり合ったような表情で雷鳴をみる。棗姉妹がいることが原因だろう。彼女が何か言いたげな表情をしているのはそのせいだ。


「見事、凛には双子魔女の監視を頼んでいる。安心しろ」

 雷鳴は見事を諭すように言った。

「本当に・・・?」

 昼間の一件があるので、イマイチ納得できない表情の見事。


 すると、今度は凛が見事に言う。

「まあ、そこは私やを信頼してよ?関西の魔法使いとは違って、九州の魔法使いはだまし討ちなんてしないわ」

 凜はどこか得意げな表情で見事に話し掛ける。


「コラ!関西の魔法使いをバカにすんな!」

 抗議の声をあげたのは沙織だった。

「あれ?じゃあ、見事にお仕置きしてもらった方がいいのかな?見事の『空間プレス』で四角に圧縮されちゃうわよ?」

 まるで双子魔女を凛。


「沙織ちゃん。四角にされるのは嫌や・・・」

 凛の言葉を聞いて、まるで子猫のように怯える資織。


「ほら、凛も双子魔女をからかうな。双子魔女も大人しくしてろよ?本当に四角に圧縮されたら困るだろう?」

 雷鳴も双子魔女に少々意地悪なことを言う。

「ちょっと!私、そんなことはしないわよ!」

 見事は雷鳴や凛に向かって言う。


「たぶんだけど・・・」と、双子魔女にはしっかり威嚇を忘れない見事。

「「お兄ちゃん!やっぱり、恐い!何とかして」」

 棗姉妹は成行に助けを求める。


「まあ、みんなで夕食にしようよ。とりあえず。美味しいものとか食べれば、気分も変わるだろうし―」

 成行はその場を治めようと、最大限の努力をする。見事の空間魔法で圧縮されたら、。本当にそんなことになっては困る。


「わかったわ。成行君や凛がそういうなら・・・」と、見事は双子魔女がいることに納得してくれた。


「じゃあ、凛。双子魔女の監視をよろしく頼む」

「わかりました」と、雷鳴に愛想良く返事をした凛。


「あれ?ママは食事に行かないの?」

 見事は雷鳴に尋ねる。


「これからと二人で飲んでくる」

 ニコッと微笑むと、雷鳴は成行や見事たちの前から離れた。そして、エレベーターで上の階へと向かった。


「凛のお母さんも来ているのね?」

 見事は凛に尋ねる。

「ええ。まあ、魔法使いの集まる数少ない機会だし、色々と政治のお話もあるんじゃない?」

 凛はそう言って微笑むが、見事は怪訝そうな表情をしていた。


「見事さん―」と、小声で話し掛ける成行。

「どうしたの?成行君」

 見事はすぐに視線を彼へと切り替える。


「パーティーって、ドレスコードとかあるの?服装とかは―」

「大丈夫よ、そんな堅苦しいものじゃないわ。安心して」

 成行の不安を払拭するように見事は答える。

「そうそう。要は宴会よ、宴会。007みたいにタキシードやドレスなんて着ている必要は無いんだから。競輪場に行って、そんな格好でレースを観てる人はいる?いないでしょう?それと同じ」

 そう言ってケラケラと笑う凛。


「まあ、そんな感じね。このまま行っても大丈夫よ、成行君。凛、会場へ案内してくれる?」

「OK。じゃあ、みんな、こっちに」

 そう言って凛は先頭を切って歩き始めた。


「じゃあ、お兄ちゃん!ウチらと美味しいもの、食べよう!」

「お兄ちゃん。今度こそ、うなぎが食べたい・・・」

 歩き始めて早々、成行に近づこうと試みる棗姉妹。


「双子魔女・・・!」と、遠慮無く二人を威嚇する見事。

「「ううっ!恐い!」」

 棗姉妹は逃げるように凛を追いかけた。


「やれやれ・・・」と苦笑する成行。

「もう!成行君も、あの二人に甘い顔をしないの!あの中学生魔女のせいで、今日の昼間は台無しだったんだから!」

 見事はそう言って成行の手を握る。彼女は少しだけ怒ったような表情をしつつ、薄っすらと頬を紅くしていた。

「ゴメン。気をつけます・・・」

 そう答える成行の頬も少し赤くなっていた。


「ほら、私たちも行きましょう」と、手を引く見事。

「うん。どんなご馳走があるのかな?」

「静岡だから、海の幸とか、うなぎとか?とにかく、楽しみだわ」

 そう言って微笑んだ見事。成行はホテルに到着して、初めて彼女の笑顔を見た気がした。そして、その笑顔を見て、成行もようやく安心できた。



                   ※※※※※



 凛の案内でホテルの宴会場へ着いた成行と見事。そして、棗姉妹。そこでは大勢の人たちが会場内に用意された料理や酒に舌鼓を打っていた。


 確かに007の雰囲気というよりも、観光ホテルのバイキングコーナー。そう考えた方がイメージが近い。寿司やステーキなど、どの料理やデザートも美味しそうで目移りしてしまう。


「どれも美味しそうやな」

「沙織ちゃん、うなぎの蒲焼きがあるで」

 監視下に置かれていることも忘れて、棗姉妹は料理の方へと向かっていく。


「私たちも食べましょう!」と、嬉しそうな反応をする見事。

「うん!」

 成行も皿を手にして、二人で料理を選び始める。


 すると、気のせいだろうか?会場の人たちの視線が、自分へと向いている気がした成行。皆、食事や酒を飲みつつ、成行をチラチラと見ている気がした。

「?」

 成行が視線に気づき、その方を向くとサッと顔をそむけられた気がした。


「有名人だね。岩濱君」と、凛が透かさず声をかけてきた。そう言って彼女は、優雅にオレンジジュースを飲んでいる。

「有名人?僕が?」

「それはそうよ。だってキミはつい最近までだったじゃない?」


 凛の言葉にハッとする成行。自分に向けられる視線のワケは、そういうことだったのか。ここにいる人は全て魔法使い。

 そんな中で、自分は妙なジュースを飲んで魔法使いなった。もし、そんなことがなければ、ここにはいないはずの存在だ。皆が奇異な視線を向けてくるのも仕方ないのか。


 そんな風に思っていると、今度は見事が成行に話し掛けてくる。

「気にしないようにして、成行君。イレギュラーな形で魔法使いになった成行君を過剰に気にしているのよ」

 見事は成行のことを心配してフォローしてくれた。こういう気遣いは正直ありがたい。


「僕は大丈夫だから、見事さん。ありがとう」

 見事に感謝しつつ、成行は改めて料理の方に目を向ける。

 すると、見事も微笑みながら答える。

「ねえ、成行君。お寿司を食べましょう。駿河湾のお寿司コーナーですって」

「うん、やっぱり静岡に来たなら、海の幸だね。行こう」

 成行と見事は、二人で寿司コーナーに向かった。


「仲が良いこと―」

 凛は二人を眺めながら苦笑すると、オレンジジュースを一気に飲み干した。そして、二人を警護するかのように静かに追いかける。

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