第2話 二人を待ち構えるのは?
ゴールデンウィーク真っただ中の静岡市。成行と見事を乗せたBMW・M850dのカブリオレは、すでに幌を閉じた状態でゆっくりと市街地を進む。
成行は今更ながら高級観光タクシーに乗ることに緊張していた。考えてみれば、高校生にして、BMWに乗れる機会なんて早々にない。
一方、見事はさして緊張する様子もなく、静岡市街地の景色を楽しんでいる様子だった。さすがリッチマン・マジカル・ファミリーの一員だ。
市街地の夜の渋滞に巻き込まれつつ、タクシーはホテルへ向かう。やはり大型連休中だけあって混雑するのは仕方ない。もしかしたら、日本選手権競輪を開催していることも関係しているのか?成行は静岡市街地の灯りに目を向けながら考えた。
「遅くなって申し訳ありません。ゴールデンウィークともなると、静岡市の中心部も混みますから―」
運転手の新居さんが後部席の二人へ話し掛けてくる。
「いえ、お気になさらず」
見事は嫌がる雰囲気もなく新居さんへ答える。
「新居さん、この連休は静岡市内のホテルは混んでますか?」
成行はふと思ったことを訊いてみる。
「とんでもない。混んでいるどころか、ホテルの空きは全く無いです。
新居さんは前を見たまま答える。
「各地から競輪ファンが来ますからね。遠征してくるお客さんですよ。静岡は競輪場として人気の高い所でもありますし―」
新居さんの補足説明を聞いて納得する成行。確かに、静岡は首都圏の競輪場以上に集客力を持つ競輪場として有名だ。
「新居さん、明日はいちご狩りに行きたいと考えているんですけど、混んでますか?」
見事が新居さんに尋ねる。
「そうですね。混んでいると思います。ゴールデンウィークであること。それに、いちご狩りシーズンのラストでもありますから。いちご狩りのご予定でしたら、何カ所か空き状況を確認致しましょう」
新居さんが笑顔で答えるのがルームミラー越しに見えた。
「ありがとうございます」と、嬉しそうに答える見事。
成行も新居さんの言葉を聞いて少し安心した。いざ出かけて、『いちご狩りはできませんでした』では悲しい。その点、タクシー運転手さんの人脈で何とかしてもらえるかもしれない。
「まもなくホテルです。もう少しの辛抱を―」
新居さんはそう答えた。BMWはそれから10分弱で目的地のホテルに着く。
※※※※※
成行と見事を乗せたBMWが到着したのは静岡市中心部のホテル。グレードが高い観光ホテルのようで、それは外観の真新しさと大きさからすぐに察しがつく。
BMWはホテルの入口前で停車する。すぐにホテルのドアマンが近づいて来る。
「ここも混んでそうだね」
ホテルの外観を眺めながら、成行は見事に話し掛ける。
「大丈夫よ。ここは貸し切っているの」と、即答してきた見事。
「えっ!?貸し切りなの?」
今のご時世、ホテルの貸し切りなんて、なんて羽振りの良い話なんだ。
「だって、このホテルには各地から集まった魔法使いが全て泊っているのよ?一般人が魔法使いと同じホテルに泊まったら、どんなアクシデントがあるかわからないから、それを未然に防ぐためよ?」
「なるほど、確かに。たくさん魔法使いが宿泊していれば、魔法がバレると大変なのか・・・」
「そうよ。不測の事態が無いとは言い切れないし。それに魔法使いしかいなければ、気を使うこともないし」
「お二人とも、お疲れ様でした。ホテルに到着でございます」
新居さんがBMWを停車させて、後部席を振り返った。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、新居さん」
こうして無事、ホテルに着いた成行と見事。ドアマンの案内で、ホテル内へと進む。すると、そこには思わぬ人物が二人を待ち受けていた。
「「お兄ちゃんーーーー!!」」
ホテルのフロントに、二人の少女の声が響く。それは今日の昼間、成行も、見事も聞いた声である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます