「日本選手権競輪だよ!!魔法使い集合!!」編 『ペルソナ・ノン・グラータ②の続き』

鉄弾

第1章 土曜日の夜、静岡にて

第1話 今宵の宿へ

 夕日を眺めながら久能山東照宮の階段を下りた成行と見事。ロープウェイが営業終了で日本平に戻れず、二人は久能山を海側に下りていた。かつては、この石段を上り下りするしか移動手段がなかったのだ。そう考えると、いにしえの人々の苦労が身に染みてわかる。


 ようやく石段が終わり、海側の門前町に至った二人。

 成行は気を使い、見事に尋ねる。

「見事さん、足は大丈夫?疲れていない?」

「大丈夫って言いたいところだけど、流石に少し疲れたかな?」

 見事は微笑んでみせたが、実際に疲れているように見えた。


 それもそうだろう。今日は、またも自分を助けるために奔走してくれたのだ。こんなとき、回復魔法が使えたら役に立てるのに。そう思わずにはいられない成行。


 しかし、そんな心の内をあっさり見抜かれたのか、見事が成行に言う。

「そんな心配しないで。私は大丈夫よ。問題は解決したし、残りのゴールデンウィークを楽しまなきゃ」

 夕日に照らされる見事の笑顔が眩しく感じた。そして、その笑顔に成行は元気をもらった気がした。


「うん。今日はトラブル続きだったけど、明日からはその分、楽しまなきゃだね!」

 成行も彼女に負けないよう笑顔で返す。

「そう!さあ、行きましょう。新居さんも迎えに来てくれているはずだから」

 二人は自然と手を繋いで門前町を進んだ。


 夕方、周囲はまだ明るいのだが、門前町の店は営業を終了し、店を閉めている。

「この時間じゃ、お店は閉まっているわね」

 周囲の店を眺めながら歩く見事。

「そうだね。もう夕方だし、仕方ないね」


「あっ!」

 見事が不意に足を止めた。


「どうしたの?見事さん」と、成行は見事の視線の先へ目を向ける。

 すると、そこにはいちご狩りの看板があった。


「いちご狩り?」

「静岡市っていちごも有名だったわね。明日はいちご狩りでもいいかな?ずっと競輪場でも悪くないんだけど―」

 見事の視線はいちご狩りの看板に釘付けだ。目を輝かせ、案内看板のいちごの写真に目を奪われている様子。


 成行も案内の看板に目を向ける。どうやら、5月はいちご狩りシーズンのラストに当たるらしい。いちご狩りは、小さい頃に行ったことがあるような、無いような、曖昧な記憶しかない成行。


 看板を読んでいると、いちご狩り以外にも、いちごを使ったスイーツやジャムなども販売されているようだ。これも観光地の醍醐味だろう。

「ねえ、成行君。明日はいちご狩りでもいい?」と尋ねてくる見事。

「いいよ。僕もいちごは好きだし―」

 そう答える成行だが、問題は財布だ。いちご狩りってそんなお安いプライスではない気がするのだが、予算を確認しなくては。

 成行がいちご狩りの看板を確認していると、透かさず見事が言う。


「早速、ママに連絡するわ!いちご狩り代はすぐに出してもらえるから心配ないわよ、成行君!」

 そう言って意気揚々と、スマホでメッセージを打ち始める見事。明日は、いちご狩りで決まり。そんな風にワクワクしているのが、こちらにまで伝わってくる。


「OK。じゃあ、新居さんと早く合流しましょう!」

 メッセージを送信し終えたのか、見事は再び歩き始めた。

「あっ!待って、見事さん!」

 成行も急いで彼女に続いた。


 すぐに見事へ追いついた成行。すると、すぐに門前町の一角にBMWが止まっていることに気づく。新居さんの運転する観光タクシーだ。

 BMWの運転席から新居さんが降りてくる。

「お二人とも、お待ちしておりました。さあ、ホテルへ参りましょう。雷鳴様がお待ちです」

 新居さんは笑顔で成行と見事を迎えてくれる。


 こうして成行と見事は、新居さんのタクシーと合流。一路、静岡市内のホテルを目指すことになる。



                








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