11. ナズナ村へ
氷の全元晶は薄水色に光り輝きだした。
〈久しぶりね、ユフリッズ〉
氷の魂の声が辺りに響き渡る。隣にいるニティカは緊張しているのか、顔が強張っていた。しっかりと自分がナズナ村の状況を伝えなければ。
〈隣にいる者は陽の妖精ですね。フリゼルス雪山へようこそ〉
突然、氷の魂に話しかけられて驚いたのか、ニティカの両手は震えていた。
「は、初めまして! ひ、ひの、陽の妖精のニティカと申します!」
こんなに言葉を噛んでいるニティカは初めて見る。何故、緊張しているのか自分にはさっぱり分からない。
〈ニティカ、フリゼルス雪山へ何の用で?〉
「それは僕が話します」
氷の魂は自分に喋らせないようにしているような気がする。もしかしたら……フリゼルス雪山から出たいことに気が付いているのかもしれない。自分から話さなければ、氷の魂はニティカの頼みを断ってしまうかもしれない。
「ニティカが住んでいるナズナ村に雨が降らなくて、作物が育たず村人が困っているようなんです。氷の全元晶なら助けてくれるのではと考え、フリゼルス雪山まで来てくれたようです。どうしますか?」
〈……〉
氷の魂は何故か黙ってしまった。自分をナズナ村へ向かわせるのだろうか。それとも……氷の魂自身がナズナ村へ向かうのだろうか。だが、氷の魂がフリゼルス雪山から離れるとは思えない。きっと、自分にナズナ村へ向かえと言ってくれる筈。
〈ニティカ、申し訳ないけど、水の全元晶に頼んでもらえませんか。私から水の全元晶に伝えておきます。ユフリッズ、ニティカをフリゼルス雪山の麓まで見送りなさい〉
「え……」
自分とニティカは驚いた表情で氷の全元晶を見ていた。ショックを受けたのか、ニティカは顔を俯かせてしまう。
フリゼルス雪山から水の全元晶がいる場所まではかなりの距離がある筈。またニティカは数日かけて水の全元晶がいる場所まで向かわなければならない。その間にも、ナズナ村の村人達は困っているだろう。普段は全く怒らない自分だが、さすがに黙ってはいられない。何もしないなんてあまりにも酷すぎる。
「……何でですか」
小声で呟く。
〈聞こえませんでしたか? ニティカをフリゼルス雪山の麓まで見送りなさいと言いました〉
真っ直ぐ氷の全元晶を見ていた。
「あなたが何もしないのなら、僕がナズナ村へ行きます! 僕が使える変元力でも、できる事がある筈です!」
ニティカが焦りながら小声で話しかけてくる。
「ちょ、ちょっと、もういいから! あたしが何とかするから! 失礼な態度はダメだよ!」
黄金色の瞳は氷の全元晶から視線を逸らそうとしない。
〈ダメです。ユフリッズ、フリゼルス雪山から出ることは許しません〉
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