10. 氷の全元晶
「あっ、山頂が見えてきたね」
自分の背中からニティカも顔を覗かせ前を見る。ニティカは目を輝かせながら山頂を見ていた。
「わぁ……す、凄い綺麗な水晶」
フリゼルス雪山の山頂に浮かぶライトブルーの色の"小さな四角形の水晶"。
あれが六大始源の一つである氷の全元晶だ。
過去に多くの盗賊や山賊が水晶を狙ってフリゼルス雪山の山頂を目指し登っている。だが、辿り着けずに皆凍死していった。仮に山頂に辿り着けたとしても氷の全元晶を手に入れることは不可能だ。
「ニティカ、あの水晶が氷の全元晶なんだけど、絶対に触れないで」
驚いた表情でニティカはこちらを見ていた。まさか……水晶に触ろうとしていたのだろうか。先に注意しておいてよかったのかもしれない。
「そ、そんな失礼な事するわけないじゃない! ……何で触っちゃいけないの?」
歩いていた足を止めた。
「凍りついて死ぬよ。絶対に触らないって約束してほしい」
自分がそう言うと、ニティカは呆然とした表情で山頂に視線を向ける。暫くしてから小さくニティカは頷いた。
「分かった、氷の全元晶に触るだなんてそんな失礼なことはしない。でも、ナズナ村を助けてって伝えてほしいの」
小さく自分は頷いた。もちろん、ナズナ村を助けてほしいことは必ず伝えるつもりだ。
自分がナズナ村へ行けないかどうかも、氷の全元晶に聞きたい。
氷の全元晶はフリゼルス雪山から動くつもりはないだろう。だとしたら、間違いなく自分にナズナ村に行くように言ってくる筈だ。
〈そうすれば……やっとフリゼルス雪山から外へ行ける。僕は外の景色を見れるんだ! 絶対にノートに外で見た物を書いておこう。帰ってきた時にまた思い出せるように〉
まだ氷の全元晶から何も言われていないが、外へ行けると勝手に想像しただけで自然と笑みがこぼれる。ショルダーバッグにノートを入れておいてよかった。
突然、笑みを浮かべた自分をニティカは冷たい視線で見ていた。
「何で笑ってるのよ?」
「ニティカは自由に外を歩き回れて羨ましいなぁ〜て思っただけだよ」
「ど、どういう意味?」
首を傾げるニティカを見て小さく笑うと、再び山頂に向かって歩き出す。
フリゼルス雪山の山頂である開けた場所に着いた。
目の前に浮かぶ氷の全元晶……自分も久々に氷の魂と話す。
慌ててニティカは自分の背中から降りると、小声で話し掛けてきた。
「ちょっと、さすがに上半身が裸だとマズイんじゃないの! このシャツ返すから早く着て」
「そ、そうだね。でも、寒さは大丈夫?」
「いいから、早く早く!」
そう言うと、ニティカは慌てて纏っていた自分の半袖のシャツを返してきた。自分も急いで半袖のシャツを着て前を向く。
「お久しぶりです。氷の魂」
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