9. 雪が降る前に
「ハァ……ハァ……」
息切れしているニティカを心配しながら見ていた。身長が低いニティカが深い雪の中を歩くにはかなりの体力を使いそうだ。山頂まではまだまだ距離がある、やはり自分が少し手助けしてあげた方がいいのかもしれない。
「ニティカ、僕が君を背負うよ。このままだと山頂に着く前に歩けなくなってしまう」
「い、いいってば! 男の人の背中になんて乗れるわけないでしょ!」
ニティカが嫌がっていても、自分はニティカの前で背中を向けてしゃがんだ。
「嫌だろうけど……早く登らないと雪が降り始めたりしたらもっと進むのが大変になるよ」
まだ吹雪が吹かないうちに早く山頂を目指さなければならない。雪が降り始めたら、今積もっている雪は更に深くなり雪崩も起きかねない。フリゼルス雪山でニティカには死んでほしくない、そんな一心でいつの間にか自分の身体は勝手に動いていた。
「……重いわよ? いいの?」
体重の事を言っているのだろうか……どう見ても重くなさそうに見える。
「全然大丈夫。僕、こう見えても体力はあるから!」
「悪いけど、ユフリッズは全然体力があるように見えない」
……心が傷つくような事ばかり言ってくる。
「ちょ、ちょっとは僕だって鍛えてるよ。とりあえず早く乗って。行こう」
「……分かった。急に降ろしたりしないでよ」
ニティカを背負うと雪が積もっている道の中を再び歩き出した。
自分は寒さを全く感じていない。だが、触れて気付いたがニティカの身体は少し震えている。もしかしたら、寒さを感じてしまっているのかもしれない。山頂に近付けば近付く程、更に気温は下がっていく。変元力でニティカの身体を寒さから守ってはいるが、やはりフリゼルス雪山を覆う氷の全元晶の力には敵わない。
「ニティカ、大丈夫? 寒い?」
「だ、大丈夫……」
……大丈夫ではなさそうだ。山頂まではあと少し距離があるので、気温はまだ下がるだろう。
ニティカを一旦降ろすと、慌てて自分が着ている半袖のシャツを脱いだ。
「キャー!! ちょ、ちょっと急に何なのよ!?」
自分のシャツをニティカの身体に纏わせた。上半身は裸の状態だが、変わらず寒さは感じない。
「ニティカ、君を絶対に死なせたりはしない。フリゼルス雪山から必ず生きて帰らせてあげるから」
「……あんたは、だ、大丈夫なの? 全く寒くないの?」
小さく微笑みながら頷いた。全く寒さを感じないので、自分が本当に生きているのか不安になるぐらいだ。
〈氷の魂はどうして……僕について何も教えてくれないんだろ〉
山頂をジッと見つめていた。
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