8. 何の力?


 「お待たせ。えっと……」


 何故か二ティカは山窟の入り口から外に出ようとしない。身震いをしながら外をジッと見ている。自分は首を傾げながら二ティカを見ていた。

「さっきのあんまり冷たく感じなくなるやつ! ほら、あたしの身体に何かしてたでしょ? あれ、もう一回やってよ」

二ティカの身体を薄い氷で覆っていたことを言っているのだろうか。言われなくても、もちろん覆うつもりだ。そうしなければ、極寒のフリゼルス雪山の山頂に登るどころか、少し移動しただけで二ティカの身体の感覚はなくなってしまうだろう。


 「分かった。もう少し僕の近くに寄ってもらっていいかな?」

自分の前に二ティカが立つ。右手を翳し目を瞑ると、二ティカの身体を薄い氷が再び覆い出した。

「す、凄い、何なのこれ!? 本当にあまり寒さを感じなくなるんだけど!?」

「何って言われても……」

自分にも変元力が何なのかは分からない。だが、変元力のおかげで二ティカが凍死しないのならば使えてよかったと安堵する。


 「よーし、登るわよ!」

動きやすくなったのか、二ティカは何度も地面を飛び跳ねていた。飛び跳ねる程の元気があるのならば、フリゼルス雪山の山頂に登れるだろう。


 〈氷の全元晶に会うのも久しぶりだなぁ。今度こそ全元晶に言わないと、僕は……〉


 「ユフリッズ、何してるの? 早く行こうよ」

自分の顔を覗き込むように二ティカは下からジッと見ていた。

「う、うん。行こっか」

山窟の入り口を覆っていた氷を割ると二ティカは勢いよく外へと飛び出した。自分も山窟から出て山頂に視線を向ける。二ティカが住んでいるというナズナ村を氷の全元晶は助けてくれるのだろうか。


 ──ザッ、ザッ


 積もっている雪の中を歩いて行く。山頂へ向かう為の山道は積もった雪によって道がどこにあるか分からなくなっているだろう。もうフリゼルス雪山の山道を使う登山家達はいない……。多くの登山家達がフリゼルス雪山に来てくれていたら、雪に覆われることなく道は残っていただろう。


 今……目の前に映るのは真っ白に積もった雪のみ。


 「もう、歩きにくーい! 雪が深すぎる!」

確かに、二ティカの身長ではこの積もった雪の中を歩くのは大変そうだ。……かと言って、自分に抱えてもらっているのも嫌なのではないだろうか。一応、どうしてほしいのか聞いてみるべきだろう。

「だ、大丈夫? 僕の背中に乗る?」

「え……別にいい」

何故か二ティカは冷たい視線でこちらを見てから、先に進み始めた。


 ……言わなければよかった、と後悔する。

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