7. 疑い
……時間がない? 氷の全元晶に急用でもあるのだろうか。
急用だとしても聞いておかなければならない。
「あの……疑っているつもりはないんだけど、二ティカは氷の全元晶を盗……もうとは考えていないよね?」
「疑ってるから聞いてくるんでしょ?」
二ティカはジッとこちらを見ている。二ティカに嫌われているのに、こんな事を聞いてしまったら更に嫌われてしまうかもしれない。久しぶりにとても緊張している状態だ。
だが、自分は氷の魂が宿る全元晶を護らなければならない。それが、
〈氷の全元晶に何かあれば……僕だけじゃない、パノアケル中の人々が危険にさらされる。それだけは、絶対に……〉
「ごめん……僕も一応氷の
視線を逸さずにジッと真っ直ぐ二ティカを見る。いつもの自分なら恐怖を感じると視線を逸らしてしまうが、今は逃げるわけにはいかない。
二ティカは何故か驚いていた。
自分は何も変な事など言っていないのだが。
「え、えっと、だから……」
焦りながらもう一度同じ事を話すべきか迷っていた。少し言い方がきつかっただろうか。
「何か、ちょっとびっくりしちゃった。何も考えていない唯のもやし男かと思っていたけど、氷の全元晶を護る気はあったのね。少し……見直した」
「えっ」
今、確かに二ティカは見直したと言っていた。もしかしたら、少しは自分の事を信頼してくれたのだろうか。
「氷の全元晶を盗むつもりは全くない。あたしが住んでいる……ナズナ村を助けてほしいの。雨が全く降らなくなってしまって作物が実らない。このままだと村の皆が……」
二ティカの目には涙が浮かんでいた。雨ならば氷の全元晶ではなく、水の全元晶に相談するべきだとは思うが……。
〈水の全元晶がいる場所は、二ティカのいる村から遠かったのかな。確かに氷は溶かせば水になるから〉
二ティカが嘘をついているとは思えない。
「……分かった。僕も一緒に山頂に行って氷の魂に何か出来ないかお願いしてみるよ」
「ユフリッズ……」
氷の魂はフリゼルス雪山から離れるつもりはないだろう。ならば、変元力を使える自分が二ティカと共にナズナ村へ行けないかお願いしてみようと考えていた。
「二ティカ、ちょっと待ってて」
「?」
慌てて山窟の奥へ行き、地面に置いていた白色のショルダーバッグを肩に掛けてから、入り口に置いていた日記と鉛筆をショルダーバッグの中へと入れた。
このショルダーバッグは、自分がフリゼルス雪山で倒れていた時に肩に掛けていた物らしいが……何故か、バッグの中には何も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます