6. 山頂へ


 ──ヒュウゥゥゥ


 外の冷気が再び山窟内へと流れ込んでくる。あまりの寒さに小人の女性の身体はまた震えだしていた。こんな状態で山頂まで行けるとはとても思えない。

「さ、さむっーい! どうしよう……歩けない」

あまりの寒さに小人の女性は動けないようで、自身の両腕を両手で摩っている。見ていられず、再び山窟の入り口を氷で覆うと冷気の流れは止まった。

「僕も行こうか?」

「……」

小人の女性はムスッと不機嫌そうな表情をしている。


 「小人さん一人だと……多分、凍死してしまうと思うから」

「……」

何故か無視されているようだ。急に護衛人ガドラールだと言い出した自分を信頼出来ないのだろう……だが、このままずっと山窟にいるわけにもいかない。困り果て、また小さなため息をついてしまう。

「僕は何もしな……」

「いいわ、一緒に登って。あんたがいないと無事に山頂に着けないと思うし」

「う、うん」

やっと返事をしてくれたようで安心していた。


 ……名前を聞けないだろうか。


 「あの、よければ小人さんの名前を教えてもらえないかな?」

「えー」

物凄く嫌そうな表情をしている。その表情を見てしまうと、もうこれ以上は聞きづらい。

〈何で、小人さんにこんなに嫌われているんだろ〉

ショックで俯いていると、小人の女性から話しかけてきた。


 「あたしは陽の妖精の"ニティカ"よ。あんたは?」


 陽の妖精……確かに、自分からしたら二ティカは外の風景を教えてくれるかもしれない希望の光のような存在だ。

〈やっと生きている人に会えたんだ。フリゼルス雪山から出られない僕に、少しでも外の街の風景とか教えてくれたら嬉しいんだけどね〉


 「僕はユフリッズ。よろしく」

「ユフリッズね、早く山頂に行きましょ。あたし、氷の全元晶に早く会いたいの」

二ティカは氷の全元晶に会う為にフリゼルス雪山へ来たようだが、何故そんなにも氷の全元晶に会いたがっているのだろう?


 ……あまり考えたくはないが、氷の全元晶を盗むつもりはないだろうか。


 本来なら山頂へ着く前に、氷の全元晶を狙う盗賊や山賊はフリゼルス雪山の極寒の気温によって山麓の辺りで凍死してしまう。二ティカは自分が助けたことによって、山腹まで来ても生きていられる状態だ。


 もし、氷の魂が宿る全元晶に何かあれば……護衛人ガドラールである自分の身にも危険が及ぶ。


 「……二ティカさんは、何しにフリゼルス雪山へ来たの?」

疑いたくはないが、一応聞いておくべきだろう。

「二ティカでいい。あたしもユフリッズって呼ばせてもらうから」

「わ、分かった。二ティカ」


 「氷の魂に会ってから話す。もう、時間がないの……」

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