5. もやし


 無事に山腹に着いた。


 小人の女性の身体に薄い氷を張ったのは自分だ。自分が使った変元力の氷は冷たくはなく、薄い氷は小人の女性の身体に冷気を当てないようにする為の盾のような役割をする。身体に薄い氷を張っている状態ならば、十分程は雪山にいても凍死しない。自分は山腹に向かって走ってきていた。


 慌てて山窟の中へ入ると、入り口を氷で覆った。

「ふぅ……これなら、少しは寒さも緩和出来るかな。小人さん、大丈夫?」

小人の女性は自身の両手に息を吹きかけていた。先程よりも動けるようになったようだ。

「まぁ、少しは暖かくなったような気がする。それよりも、あんた、その格好でよくこの雪山を歩けるわね。人間なの?」


 ……自分は、人間なのだろうか。


 「……分からない。僕も気付いた時には、氷の全元晶の護衛人ガドラールになっていたんだ……」

驚いた表情で小人の女性はこちらを見ていた。何も変な事は言っていないが……何故、驚いているのだろう。

「うっそぉ! あんたみたいなもやし男が護衛人ガドラール!? 冗談でしょ、何で!? 氷の魂はどうしちゃったの!?」

「も、もやし……?」

もやし男とは何なのだろう……自分はどう見ても、もやしではないが。


 「ありえない、ぜっーたいにありえない!! 氷の全元晶に何かあったのね……。あんたが何かしたんでしょ!」

小人の女性は何故か怒っている。何故、そんなにも怒っているのか分からず自分は困惑していた。

「僕は何もしていない。氷の魂が勝手に僕を護衛人ガドラールに選んだんだよ。も、もし、信じられないなら氷の魂に聞いてみなよ」

自分は山頂の方角を指差した。氷の全元晶はフリゼルス雪山の山頂にある。信じられないのならば、直接聞いてほしいところだ。小人の女性は呆れた表情で大きなため息をついていた。


 「そうね、じゃあ、山頂に行くわ。助けてくれたのは感謝するけど、あんたみたいなヒョロヒョロが護衛人ガドラールだなんて信じられない。嘘をつくのはやめてよね」

小人の女性は本気で山頂に行くつもりのようだ。このまま外に出てしまったら、また極寒の冷気が小人の女性を襲うだろう。自分は困り果てていた……このまま、小人の女性を行かせてしまっていいのだろうか。


 「ま、待って、僕も山頂に行くよ。小人さんだけで外に出たら凍死してしまうよ」

「結構です。あたしも氷の全元晶に用事があるの。あたし一人だけで行くわ」

「で、でも……」

入り口を覆っている氷を小人の女性は強く叩いていた。早く開けろ、という意味なのだろうか。

「……待ってて。今、氷を退けるから」


 山窟の入り口を覆っていた氷を割った瞬間、山窟の中に極寒の冷気が入り込んできた。

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