【悲報】ts転生して勇者パーティーの聖女になったオレ、未だに言語が理解できない

まるべー

第1話

ボクの名前はナーシャ。何の因果か異世界にts転生した元男だ。

正直前世のことなんてほぼほぼ思い出せないし、何で死んだのかも分からない。

が、一つだけ困っていることがある。そう、それは。



……言語がわからないことだ。



この世界に転生して早15年。そう、もう15年も経ったというのに、未だに言語がわからないのだ。

どうしたものだろう。今更言語を教えてというのは恥ずかしいし…。


「ナーシャ、どうした?何か、あった?」(ナーシャ、どうかしたのかい?何かあった?)


心配そうに見てくるのは金髪の男。190センチメートルはありそうなその男は、今代の勇者である。あと、超絶イケメン。

名前は確か……ルシウスさん?いや、ルーシャウスさん、だったか?

あ、思い出した。ルシーラさんだ。言語がわからないから、名前すらあやふやだ。


「何かあった、もし、言う、すぐ。回復、危ない」

(何かあったらすぐに言うのよ。聖女様が怪我でもしたら、あたしたちの危険にも直結するんだからね)


鮮やかな赤い色の髪を靡かせて話しかけてくるのは、魔法使いの……えっと、確か、ファウズさんだった気がする。美少女だけど胸が小さい。どんまいである。

あと、文章量が多すぎて聞き取れない。


「ハッハッハッ!!何かあった、私、すぐ。見える、妹!!」

(ハッハッハッ!何かあったのなら、すぐに私に相談するがいい!!こう見えても、私は妹から頼りにされていたのだぞ!!)


肩をバシバシと叩きながら大きな声で話してくるのは、黒髪の女剣士、マーリャさんだ。身長はおよそ150センチメートル。

ボクはこの人に妹として見られているらしい。失敬な。

まあ、声が大きくて聞き取りやすいのは助かるけど。


「ナーシャ、体、悪い、休憩?」

(ナーシャさん、体調でも悪いのでしたら、どこかで休憩でも入れましょうか?)


そして最後。休憩を提案してくれたのはシグ。見た目は素晴らしい美少女だ。なのに男の子。この前間違えて見てしまった時は、前世のボクよりもデカかった。少し凹んだ。

交渉から道案内、荷物持ちなど戦闘には関わらないが、重要なポジシャンについている。


「いいえ、特に何もありません」

(ううん、別に何も)


そして最後。この勇者パーティーの回復の要を担っている聖女。肩にかかる程度の水色の髪を靡かせるのは、このボク、ナーシャである。

そう、何の因果か、ボクはts転生して挙げ句の果てに聖女として勇者パーティーの一員となったのだ。


正直言って、勘弁して欲しい。だって、TSだよ?TS。しかも聖女。つまりヒーラー。

確かに回復魔法は使える。しかし、それだけなのだ。

ボクができることと言えば、せいぜい傷を癒すことくらい。死者蘇生とかできない。

それに、何よりの問題はボクが弱すぎること。実際、このパーティーに入ってから、何度死にかけたことか。


え?そんなに言うなら、勇者パーティーに入らなければよかったじゃないかって?


そうなんだよなぁ、"王様に緊張"プラス"言語が分からない"がなかったら、ちゃんと断れたたんだろうなぁ。

……過ぎたことを悔やんでも仕方がない。これから魔族の討伐なんだ。しっかりしないと。



「もし、行こう」(それなら、すぐにでも向かいましょう)

こうして今日も、ボクたちは魔王軍の幹部がいるという森へと向かう。

はあ……不安だな……。




「これが城か?アルコの」

(これがあの四天王、吸血鬼のアルコで知られている城なの?)


「その通りです。注意。周囲」

(その通りです。ただし、注意してください。アルコは本人の強さもさながら、周囲の眷属の強さも尋常ではないそうで、幾人もの冒険者たちが犠牲になったようです)


……何も状況がわからねえ。とりあえず、この城がアルコのってのは分かった。

打ち合わせもしてたけど、わからないから意味なかったし。でもテキトウに返事しちゃったから今更聞けないし。



「行く、皆。するな」(それでは行こうか。皆も油断をしないようにしてね)

そうこうしているうちに、勇者一行は城の門をくぐる。

とりあえず、テトテトとボクもついて行くこととした。


城内はがらんどうだった。ただし、手入れだけはされているようで、埃などはなく隅々まできれいな状態であった。


「なぜ?いない」(どういうこと?誰もいないわよ)


「はい、そうです。何故?」(ええ、そうですね。どう言うことでしょう)


ふむ?つまりこれはあれか?森の中にいる伝説の鍛治師に強い剣を作ってもらうとか言うやつか?

おお、ワクワクしてきた!


「行きましょう!」(行きましょう!)


それなら、こんなところでもたついていても意味がない。よし、ボクが先陣を切ってあげよう。そしてあわよくばボクにも剣を……。ぐふふ。


「待て。敵だ」

(待ちなさい。敵よ)


「え!?」

(えっ!!)


思わず振り返る。するとそこには、滑らかな長い白金の髪を持つ、一度も日に焼けたことのないような白い肌の幼女がいた。


「皆、注意!」

(皆さん!気をつけてください!吸血鬼ですよ!!)


そのシグの言葉に、なぜか皆があの幼女に向かって臨戦体制をとる。


何故だ?見たところ、あの子は10歳とかそこら辺で、完全な迷子か何かだ。そんなことをしてたら怯えてしまうだろうに。

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