有隣堂怪奇事変

夜明

第1話 目覚め

ゴウウウーーーーーーーン



響き渡る無機質な音でオレンジ色の木兎は目を覚す。

「・・・・どこだここ?」

(確か、Pに呼び出されたはずだが・・・・)

漆黒の中で目と耳を研ぎ澄ます。




ウィいいん・・・・・

         ピキ・・・パキ




聞き覚えがあるような機械音と僅かに混じる薄い氷を割るような音が耳に響く。


(なんなんだここは・・・・夢でもみているのか・・・)

木兎の目を持ってしてもあたりは何もない空間がただただ広がっていた。


声を出そうにも、危険がないという確信がもてない。

無意識に手でスマホを探すが、スマホは控え室に置いてきてしまっていた。

異常なこの空間。絶望感がじわじわと広がる。無闇に動いていいものが木兎は考える。本来であればプロデューサーや有隣堂社員数名がいるはずだが・・・いつもの気配がない。いったいなんなのだろうか。何かしらの事件に俺は巻きこれてしまっているのか夢なのか様々な想像を掻き立てる。通常ではないのは確かで迂闊に声も出せない。


その状態からしばらく経った。


(そろそろ動いてみるか・・・)

相変わらずの状態ではあったが、埒が開かないため木兎はそろりそろりと機械音がする方に進み始た。音の位置を正確に把握できる木兎は迷うことなくゆっくりと自身の音が出ないように進んだ。

音は一定のリズム流れている。一定の感覚は長い。

音の方に近づくにつれ、どこか聞いたことがあるようなが確信に変わった。


(これ、あれじゃん。本店のエレベーターの音・・・・)


しかし、機械音の近くには人の気配はしない。

(チクショー、なんなんだよ。帰りてえよ。)

確信に変わったら歩を早めた。目は相変わらずあたりは見えないままだ。

茶色のふかふかした手を恐る恐る音がする方に差し出す。ヒヤリと冷たい鉄の感触。

手の位置をずらしていくと、一定の形の凸凹を感じる。扉の窪みだ。

(やっぱそうだ・・・・まじでなんなんだ。俺の目はどうなっているんだ)

恐怖を感じながらも、扉を横にスライドさせる。ブワリとホーンテッドマンションの香りが鼻を掠め、羽角を揺らした。

(なんで扉開けただけで風感じるんだよ。おかしいだろ。俺は夢を見てるのか。キモチワルイ。)

ここは上階なのかそれとも一階なのかさえわからない・・・。

一定に続けられるこの音は、エレベーターが上り下りを繰り返しているようだった。とりあえず様子をみて行動しようと思い、観察を開始する。乗客がいるのであれば助けを乞おう。敵か味方かはわからないが、すぐに攻撃されることはないだろうと見張っていたが、ただただ無機質に一定に上り降りをするだけである。


冒頭の薄い氷を割るような音が心なしか近づいているような気がする。


(こええよ、ここ・・・。でもなんかこれも聞き覚えがある。これはあの時のラップ音なのか・・・ここは6Fか?)


事実、ここは有隣堂伊勢崎町本店の6Fであった。

あの時というのは、「夜の書店を徘徊する」という企画の時である。


暗闇の中で、ラップ音はさらに近づいてきた。


パリッ・・・


(ウワアアアアアアめっちゃ近くなってるよこれ。えーどうすればどうすれば、それになんだか寒くなってきてるなんだこれ)


パキッ・・・・・・・パキッメッキ

メキョ・・・パリパリッ・・パキッメッキメキョ・・・カチッ

・・・・・・ッコロー


(なんか呼ばれている?あれ?え?え?え?え?え?え?え?)


呼ばれた方角に顔を向けた。


「・・・・ブッコローーーーーーーーー」


見えなかった視界が、突如緑色に光る


「!?っっっっっ」


そこにいたのは、首が不自然な形に傾いた文房具バイヤー間仁田だった。


「っっっっっっウワあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


心臓がギュンっと掴まれているような悪寒が駆け巡る。


間仁田は異様な形で形成されていた。

目は空で生気はなく、首が捩れ、関節が硬直しているのかカタカタと壊れた機械仕掛けの人形のような動きをしている。

後ろからは白いもやが発生して、もやの奥からは間仁田のような異形な姿になってしまった書店員達がゾロゾロと発生していた。


「「「「「「ブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコロー

ブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコロー

ブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコローブッコロー」」」」」



声が増える。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!あああああああああ!!」


叫びながら咄嗟に目の前のエレベーターに飛び乗る。訳もわからずボタンを連打した。エレベータは閉まる。


ゴウウウーーーーーーーン





「エ、え、エ。エ、え、エ。エ、え、エ。エ、え、エ。どうするどうするんだこれ。」

心臓の早鐘が止まらない。現実的ではない現実に脳が追いつかない。


「はははははははははははははははハハハハハはゾンビものかこれ。皆ゾンビになったのか。あー夢だなこれ。夢だ。」


焦点が合わない大きな瞳をグルンと回し、思案する。


「サメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロサメロ」


エレベーターに頭をぶつける。


「・・・・・・・・夢なら覚めてくれよお」


ガタンッッ


エレベータは止まった。ブッコローは恐る恐る扉を開けた。

何階かはわからない。ただ当たりは暗いままだが。あの音はもうしなかった。


そっとエレベーターから降りると

何かがブッコローに触れた・・・


「ヒイッ」


思わず出てしまった声に思わず口を塞ぎ。あたりを見渡す。するとそこにいたのは

光る棒を持つ岡崎弘子だった。


「岡崎さんっっ!」


安心感から思わず叫ぶが、弘子に制される。


「しっっ!早くこっちへ」


弘子はブッコローの手を掴み歩いていく。

すぐに話をしたかったが、素直に従い進む。


「ここなら大丈夫よ」


到着した場所でようやく弘子とブッコローは向かいあった。


「岡崎さんですよね?いったいどうなってるんすか!?」


「あんまり大きな声を出さないで!気づかれる!」


ブッコローの口を塞ぎ、周囲を警戒しながら弘子は声を潜めるよう促した。


「ーーーーーーーざきさん、どうなっているんですか?皆無事なんですか?」


「ーーーー私もよくわからない。ブッコローが来る前に複数の同僚といたんだけど、偵察に行ったきり帰ってこないの・・・。いつも通り仕事をしていた

はずが、急に意識を失ってしまって。スマホも繋がらないし・・・」


「僕も目が覚めたら、あそこにいて・・・・間仁田さんが・・・・うっ」


「あれに会ってしまったのね・・・・」


「ザキさんもあったんですか!?」


「ええ。最近入ったバイトの子なんだけど様子がおかしくてゾンビみたいになっていたわ。間仁田さんはその子を助けようとして・・・・救えなかった・・・・」


弘子は顔を覆う。疲れ果てた様子にブッコローも項垂れた。


「私たちどうなるのかしら・・・・。本当はここから動きたくないけど、いつ奴らが来るかわからない・・・・」


「あのゾンビみたいなやつらですよね・・・・・捕まったらゾンビ化するのか・・・・・くそっ、外に助けを・・・・・・・・・あれ?そういえばザキさんスマホ持ってるって言ってましたよね?ちょっと借りていいすか?」


「ええ。」


弘子はブッコローにスマホを手渡す。


「アー、やっぱ電波死んでますね。だめすね・・・。でもいい光源だな。てかザキさんよく生きてましたね」


「そうなのよ!囲まれたんだけど何故か私は無事だったのよね」


「エエエ!なんかスマホ以外になんか持ってたり、何かしたんですか?」


「う〜んそうねえ・・・・・あ、そういえば、これを振り回したら皆逃げて行ったわ。」


弘子はポケットから光る棒を取り出した。


「蓄光ガラスペンじゃないすか!?え!?それ!!なんで?」


「なんでかはよくわからないけど」


「ザキさ〜ん、本当ですかあ?」


「む。じゃあ試しに行ってみる?」


「何ムキになってんですか!そんな状況じゃないでしょうよ!」


「本当なんだって!!」


「え〜。じゃあ何かあったときお願いしますよ。僕は逃げますよ。」


なんとなく和んだ後、今後の動きの相談を始めた。


「ザキさん、とりあえず、この建物から脱出しません?」


「そうね、出たいわ。」


「まあ、間仁田出てもザキさんがなんとかしてくれるっていうんで〜お願いしますよ〜」


「もう〜!」


弘子とブッコローは脱出作戦会議を始める。

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