第102話 ダンジョンの神秘配信者・スタンドバイミィ(32) その参
こんにちは。SBMと申します。
一つご質問がございます。湊本四葉のグッズが近日発売となっていますが、その近日とはいつでしょうか。〝近日〟の意味を調べますと、〝将来のごく近い時〟、あるいは〝今から数日の間〟となっていますが、後者の意味で捉えて宜しいでしょうか。いえ、捉えます。
次に〝数日〟の意味を調べますと、二、三日から六日程度となっております。長くても九日ですね。〝オフィシャルストアにて湊本四葉のグッズ近日発売!!〟のお知らせがでたのが、五日前。つまり遅くてもあと四日で発売されるということで宜しいでしょうか。
貴社が自ら発信したお知らせに責任を持つ誠実な企業であれば、四日後には湊本四葉のグッズがラインナップに加わるわけですが、ここでもう一つ質問です。そのラインナップに【湊本四葉の等身大の抱き枕】はありますでしょうか。もしあるならば、先行予約という形を取ることは可能でしょうか。
回答、お待ちしております。
それでは失礼いたします。
「……よし」
お問い合わせ内容を確認したスタンドバイミィは、プライバシーポリシーへの同意欄にチェックしたあと、送信をクリック。
これであとは、運営からの回答を待つのみだ。
三日経っても返信がなかったら、催促のメールを送ってやろう。
スタンドバイミィはメインディスプレイに視線を移すと、動画を再生する。
動画のタイトルは、
【渋谷Bの未踏の領域に落ちちゃいました! でも無事に脱出でけたよっ】
〝でけたよ〟のけが絶対誤字だと思うが、それはさておき。
ライブ配信で観た内容だが、こうやって編集された動画を安心して観れるようになると、女性陣の可愛さがひと際、目に付く。
まずはルカ。
フルネームは、
スラっとした細身の体躯ながらも女性特有のしなやかさ、及び躍動感を覚えさせる肢体は、なかなかどうしてグッとくるものがある。大人の雰囲気から醸し出される色気の虜になった男性も多いはずだ。
次にナユタ王女。
本名はナユタ・アクレシア。
邪気のない奔放さで回りを巻き込む迷惑系王女様ではあるが、可憐な見た目が世の男性の目を引くのは間違いない。出るところの出た程よい肉付きも相まって、成人に達したらとんでもない美女に化けるのは間違いない。
そしてソーラ。
本名はソーラ・ヒューイ
寡黙にて冷静沈着な戦う侍女。その表情の乏しさがある種のダウナー系を想起させ、その方面を好む男性にとってはたまらないだろう。あの恰好での塩対応攻めは、もはやそういったプレイである。
最後はよっちゃん。
シーカーネームは、湊本四葉。
とにかく可愛い。
可愛すぎてやばい。
やばすぎて死ねる。
推ししか勝たん。
はい、優勝。
優 勝
「ああああああぁぁぁぁぁぁ……よっちゃんっ!!!」
スタンドバイミィの声がまたしても部屋に響く。
そして前と同じように、はっと我に返る。
まただ。
また自分が17歳の時に赤ん坊だった少女に、一線を超えるかのような邪欲を抱きそうになってしまった。
こんな状態の自分が湊本四葉の等身大の抱き枕を手に入れて、自我を保つことができるのだろうか。
抱き枕を相手に、あんなことやこんなことをしたりしないだろうか。
って、あんなことやこんなことを想像している自分は、控えめに言って
「俺ってやつはっ、俺ってやつはあああああああっ!!」
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダブスッ!
指と指の間を鉛筆で連続トントンして、親指に刺さったところで自分を赦す。
つーか、普通に痛い。
スタンドバイミィは指に絆創膏を貼ったのち、動画の終盤を再生。
湊本四葉の魔力が完全に回復した状態からの、怒涛の聖魔法。
最後はあのホーリーヴァレスティを使用して、ゲルダムバーストレプリカを完全撃破。
――感嘆の声しかでない。
湊本四葉の今後の成長と飛躍を考えると、ファンとしては嬉しい限りだ。
ファンと言えば、もう一人。
言わずもがなの鳳条星波。
今回、彼女はダンジョンこそ潜らなかったが、赤スぺという手段を使って湊本四葉をサポートしてくれた。
彼女の助力がなければ、もしかしたら5人は全滅していたかもしれない。
湊本四葉と鳳条星波。
甲乙つけることのできない俺の推し。
この2人のダンジョン踏破、名付けて〝白と黒のランデブー〟をまた見たくて、先日スタンドバイミィは剣聖にメールを送っていた。
剣聖から、〝白と黒のランデブー〟を見るために必要なお宝情報を仕入れるためだった。
そのメールの返信が昨日あり、スタンドバイミィはそのお宝情報に歓喜し、興奮し、ちびった。
あとはこのお宝情報を潜姫ネクストの社長に伝えて、湊本四葉と鳳条星波のダンジョン踏破を約束させるだけだ。
あのアフロは食いつくだろうか。
彼女は奇抜ないで立ちをしてはいるが、類まれなる商才を持ち合わせている。
それはダンチューバーを商品として考えれば、分かりやすい。
鳳凰星波。
鉞すもも。
愛染鋳薔薇。
そして、特別枠ではあるが、湊本四葉。
この4人を事務所に招き入れるアフロの審美眼が、大手事務所のそれを上回っているのは確かだ。
ならば、食いつくだろう。
あのお宝情報は使い方によっては莫大な金を生む。
そこは、それこそアフロの商才を生かせばいい。
というより、お宝情報をなんとか生かしてくれという自分自身の切なる願いでもあった。
「ん? メールが来てるな」
誰からだろうか。
見れば、
【潜姫ネクスト】
SBM様 お問い合わせについての回答を申し上げます。
と書かれていた。
10分前に送ったメールの返信がもうきた。
仕事の速さに驚愕しつつ、スタンドバイミィはメールを開く。
SBM様
いつもお世話になっております。
先ほどの問い合わせの件についてお答えさせていただきます。
一つ目の質問に対する回答ですが、湊本四葉のグッズは六月三十日にオフィシャルストアに並ぶ予定となっております。SBM様の認識する近日より三日ほど後ろになりますが、ご了承ください。
二つ目の質問に対する回答ですが、『湊本四葉の等身大抱き枕』は商品ラインナップにございます。尚、受注生産となりますので、予約のみの販売となります。
『湊本四葉の等身大抱き枕』には三タイプございまして、A・エンシェントシリーズ着用タイプ。B・私服着用タイプ。C・シークレット着用タイプ(各19,800円)となっております。六月三十日に予約開始となりますのでよろしくお願い致します。
Cのシークレットが知りたくてしょうがないスタンドバイミィだった。
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