第49話 2人で付けなければ意味のないイヤリングのようです。


「片割れの生を願うとき、力を与ぇることができるだろう……ぇすか。えっと、つまり、このイヤリングは2人が付けるものでぁり、もう一方の相手がピンチのときに助けてあげたぃって願うと、その相手に力を与えることができる――ってことでしょうか」


「多分そうだと思う。というのも、実はわたしもこのアイテムは初めてなんだ」


「星波ちゃんでも初めてぇすか?」


「うん。だって、ダンジョン遺物って今この瞬間にもどんどん、新しい物が世に出てきているからね。だから、わたしどころかダンジョン遺物の研究者も、このイヤリングは未知のアイテムだと思う」



【コメント】

 ・確かに毎日のように知らんアイテムでてくるな

 ・終わりのない未知がロマンを掻き立てる

 ・クラスA以上じゃ、モンスターもお初の奴いるし

 ・鑑定士も仕事にあぶれなくていいよなw

 ・そもそもダンジョン自体がまだ発生している

 ・よっちゃん、ダンジョンは未知の宝庫やで

 


 そうだった。

 ダンジョンは未知の宝庫だ。

 これは世界中の共通認識であり、完全なるダンジョンの解明は不可能とすら言われている。


 実際エンドラさんは、ダンジョンの発生は〝神によるもの〟と断定していた。

 だったら、神の真意を人間が図り知るのが不可能なように、その神が造ったダンジョンの解明も到底無理であるとの結論になるわけで。


「はぁ、そうぇすか。ただ、良さそうなアイテムではぁりますね」


「うん。でも発動の条件が身に着けて願うだけでいいのか、あるいは触れながら願うなのか、そこは試してみないとわからないね。あ、ちなみに名前は、〝つがいのイヤリング、だって。どうやら2人で付けなければ意味のないイヤリングっぽいね」


 2人で付けなければ意味のないイヤリング……。


「……ってことは、私はこれを誰かに付けてもらわなぃといけないんぇすね」


「当然、そういうことになるね」


 こくりと頷く星波ちゃん。


 誰か。

 現状、私の知り合いでダンジョンシーカーなのは星波ちゃんと、鋳薔薇さんと、ももちんさんの3人。


 私がダンジョンシーカーである限り、これからも誰かと知り合うことは間違いなくあると思うのだけど、やっぱりこの3人から選ぶべきだと思う。


 とはいっても、鋳薔薇さんやももちんさんとは挨拶した程度の仲だ。

 いい人なのは分かっているけれど、イヤリングの片割れをあげるのは違うような気がする。


 そうなると残ったのは一人……。


 私は星波ちゃんを見る。

 彼女は、どうしたの? って感じで小首をかしげる。

 さっと視線を逸らす私。


 でも星波ちゃんしかいないので、もう一度見る。


「どうかしたの? よっつ」


「あ……あ、あの……っ!」


 なにやら鼓動がうるさい。

 このドキドキは覚えがある。

 そしてその理由も分かってる。


〝星波ちゃんしかいない〟のではなくて、〝星波ちゃんに渡したい〟からなんだって。


「よっつ?」


「あのっ、星波ちゃんっ!!」


「は、はいっ?」


「も、もも、もしよかったら、この番のネックレスの片割れ、もらってくれませんかっ? お、おぉぉ願ぃしますっ!!」


 私は90度のお辞儀をしながら、片割れのイヤリングを両手で差し出す。



【コメント】

 ・完全に好きな人にチョコを渡す女子www

 ・ラブレター渡すんじゃないんだからw

 ・勇気ふり絞った感が草

 ・いや、ネックレスじゃなくてイヤリングな。そこ重要

 ・妙な緊張感がこっちまで伝わってくる

 ・ダンジョンで始まる青春百合ラブコメかw



「え? わ、わたしでいいの?」


 ちょっとびっくりしている星波ちゃん。

 まさか貰うのが自分とは思っていなかったようだ。


「はいっ。せ、星波ちゃんに貰ってほしぃんですっ。も、もちろん、嫌だったら諦めますけど……だめ、ですか?」


「だめ」


「え……?」


「なんてわたしが言うと思う? よっつからのプレゼントを」星波ちゃんが番のイヤリングを手にすると、耳に付けた。「どう? 似合ってる? こういうの付けるの初めてなんだけど」


「は、はいっ、めちゃんこ似合ってますっ」


「ありがとうね、よっつ。わたしを選んでくれて。大事にするね」


 私をまっすぐに見詰める星波ちゃん。

 隻眼のオゥガの目から光線とは別の意味で焼け死にそうなので、私はさっと目を逸らした。


「い、いえっ、そんな……あ、わ、私も付けないとぇすねっ」


 私は番のイヤリングを耳に付ける。

 私も星波ちゃん同様に、ピアスとかイヤリングとか一切したことはなかったのだけど、似合っているのだろうか。


 と、星波ちゃんに聞いてみると、


「うんっ、めちゃんこ似合ってる」


 って、無邪気な笑顔を浮かべて褒めてくれた。


「え、えっと視聴者のみなさん。といぅことでして、番のイヤリングの片割れは星波ちゃんに付けてもらぅことにしました。あの、付帯効果とかはまだ使ってなぃのでよくわからないんぇすけど……似合ってますか? 視聴者のみなさんの感想も聞いてみたぃですっ」



【コメント】

 ・似合いすぎて専用品かと

 ・さりげないオシャレって感じなのがgood

 ・二人ともめちゃんこ似合ってるよっ!

 ・よっちゃんも星波様もいい感じ♪

 ・ポタラ的な合体も期待。超戦士せつばとかw

 ・二人はどこにいても繋がってる感じがいいね!



「良かったね、よっつ。視聴者のみなさんにも大好評で」


「はいっ。良かったですっ」


 ――でも、何よりも良かったのは、星波ちゃんが喜んでくれたこと。


 画面越しでしか会うことのできなかった鳳条星波。

 でもそれでいいと私はそれ以上を望まなかった。

 だって憧れの存在って、本来そういうものだと思っていたから。


 なのに私は今日、星波ちゃんと会い、星波ちゃんを知り、星波ちゃんと一緒にモンスターと戦い、星波ちゃんとお揃いのイヤリングまでしている。

 

 まるで夢のような1日だ。


「じゃあ、台東C出よっか?」


「はいっ」


 私と星波ちゃんは転移門の中に入る。


「わたし、鳳条星波をスタート地点へ」


「私、湊本四葉をスタート地点へ」

 

 同時に転移発動の言葉を述べる私と星波ちゃん。

 次の瞬間には、台東Cのスタート地点へと立っていた。



 私は今日、初めてダンジョンを踏破した。

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