第47話 星波ちゃんのウロボロスシューズは凄いんです。
「よっつ、ナイスバトルっ」
星波ちゃんが駆け寄ってくる。
両手を私のほうへ上げているので、私も同様に両手を上げてハイタッチした。
「ありがとう、星波ちゃん。なんとか一人で勝つことができましたっ。これも星波ちゃんの指導のぉかげです。本当にありがとうござぃましたっ」
「そう言ってもらえるとわたしも嬉しい。でも一番はよっつの、隻眼のオゥガに勝ちたいっていう強い気持ちがあったからこそだと思う。台東Cの踏破おめでとう」
「はいっ、ありがとぅございますっ」
台東Cでバトルをしたいと思ったときは、踏破までは考えていなかった。
バトルに少しでも慣れればそれでいいと思っていて――。
それがいつのまにか踏破が目標になっていて、実際に踏破してしまった。
あー、嬉しいっ。
今日の夜は寿司にしよう、うんっ。
「ところで、よく弱点が分かったね」
「あ、あれは直――第六感が働ぃたんです。眼帯で隠すほど大事な目ならもしかしてって」
「うん。バトルではそういった、第六感?が大事なときもあるから、その感覚は大事にね」
「はいっ、星波老師っ」
【コメント】
・老師って!!
・そこは先生だろ
・師匠の言い間違いか
・まだ第六感に拘っているのも草
・武天老師なら知ってる
・ピチピチの星波様に老師の要素ないw
間違えた!
「あ、星波師匠っ」
「や、止めてよ、師匠とか。ほら、隻眼のオゥガ倒したから奥の扉が開いてる。転移門とダンジョン遺物があるはずだから行こう」
「はいっ」
隻眼のオゥガを倒したご褒美のダンジョン遺物。
いくらなんでも、ひのきの棒切れってことはないだろうと思った瞬間――
地面に再び、赤く大きな魔法陣が浮かび上がる。
え? これって…………っ。
「よっつ、離れてっ」
星波ちゃんが叫んで、私の腕をつかむ。
そのまま猛ダッシュで魔法陣から離れると、その魔法陣からまた隻眼のオゥガが出てきた。
「な、なんで、また……?」
混乱する私は、答えを求めるように星波ちゃんを見る。
「ダンジョンバグ」
「ダンジョン、バグ?」
「うん。本来ダンジョンでは起こりえないことが起きた場合、そういった表現をすることがあるの。ほら、コンピュータのプログラム上の誤りや不具合をバグっていうでしょ? あれと同じ」
【コメント】
・ダンジョンバグか。珍しい
・そんなことあるんだな
・ダンジョンってどこまでもゲームっぽいよな
・デバッカーちゃんと仕事しろ
・自分が死んでる光景を目撃する隻眼のオゥガwww
隻眼のオゥガが、体の全てを地上にさらけ出す。
その隻眼のオゥガの足元には、私が倒した隻眼のオゥガ。
とてもおかしな光景。確かにバグという表現がしっくりくる。
「い、一応、聞きますけど、双子ってことはないぇすよね?」
「双子じゃないけど2体で現れるボスがいるの確か。でもその場合は一緒に発生するし、そもそも後から発生となると、転移門への扉が開いている説明が付かない」
そうだ。
奥の扉は完全にボスを倒さないと開かない。
だからこその、ご褒美という名のダンジョン遺物であり出口なのだから。
ダンジョンバグというのは分かった。
問題はこのあとである。
「あ、あの……もしかしてもぅ一回倒さないといけなぃのでしょうか」
「ううん。このまま奥の扉から出ていけるよ。台東Cを踏破したのは間違いないからね」
「じゃあ、この隻眼のオゥガは放置で?」
「ウボオオオォォッ」
放置するな。俺と戦え。
そんな風に聞こえたけど勘違いだろう。
「別にそれでもいいけど、ついでだから倒しちゃおう」
「ええっ!? つ、つぃでもう一回、隻眼のオゥガ倒すんぇすかっ?」
ど、どうしようぉぉぉっ。
気力の使い過ぎで、けっこうな倦怠感に襲われていて辛かった。
星波ちゃんや視聴者もみなさんの前では、極力そんな風に見せなかったけど。
……ここはお断りするべきだよね。
そう結論を下したとき、
「だからよっつは壁に寄っていて。ちゃちゃっと済ませちゃうから」
え?
あ、私じゃないんだっ。良かったあぁぁっ!
「は、はいっ、よぉろしくお願いしまぁぁすッ!!」
私はビシッと90度のおじぎをすると、全速力で壁に退避した。
【コメント】
・絶望から安堵の表情に変わるよっちゃんw
・逃げるように退避してんのがほんまに草
・気力がやばいと顔に書いてあるのが見えたw
・星波様マジで鬼教官かと思いきや
・ラストバトルに星波様とかサプライズかよ
・バグで出されて星波様に瞬殺予定のオーガwww
うん、サプライズといえばサプライズですよね。
私が隻眼のオゥガを倒して終わりだと思ってましたから。
そういった意味では、ダンジョンバグありがとうー、でしょうか。
「ウボオオオォォッ」
星波ちゃんがタゲを取ったかのように、隻眼のオゥガの敵意は彼女一人に向いている。
「おいで。オゥガちゃん」
オゥガちゃん。
その一言で確信する、圧倒的な勝利の結末。
「ウガアアアアアアアアッ!!」
舐められたことに対しての憤りなのだろうか。
心なしか、私のときよりも鬼の形相の隻眼のオゥガ。
って、私が倒した隻眼のオゥガは地面でのびているので、別のやつなのだけど。
そのバグで発生した隻眼のオゥガが、こん棒を振り上げ――降ろす。
そこには星波ちゃんがいる。
いや、いたはずだった。
誰もいない場所にこん棒を打ち下ろす隻眼のオゥガ。
壁に寄っていても僅かな振動を感じるくらいの、凄まじい一撃。
当然、粉々になったのはダンジョンの地面であり星波ちゃんではない。
では星波ちゃんは一体どこへ――あ、いた!
彼女は隻眼のオゥガの体を走り上へと駆け上がっていく。
そして隻眼のオゥガの後頭部を踏み台にすると、天井へジャンプ。
すると反転して足で立った。天井に。
全身漆黒で艶やかな黒髪ということもあり、まるで蝙蝠がぶら下がっているようにも見えた。
【コメント】
・星波様の忍者モードキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
・やっと見れたか、ウロボロスシューズの真骨頂!
・相変わらず安定の吸着力やなw
・絶世の美蝙蝠www
・星波様に重力という概念は存在しない
自在重力。
それが特級武具、
あの靴を履いてさえいれば、地球の引力と自転の影響を受けないらしい。
つまり、どこに立ち、歩き、走ろうがそこが地面となる。
だからあのような、天井に立つというのも可能となっていた。
奥義やウロボロスガントレットのガス吸引と同じく、初めて生で見る自在重力。
ダンジョンバグじゃないけど、頭がバグってきそうな光景ではあった。
ところで星波ちゃんはあの状態から何をする気なのだろうか。
まさか――っ!?
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