第20話 皆さんへ大事なご報告があります。
あと10分でライブ配信の開始だ。
タイトルは、【みなさんへ大事なご報告があります。】
ちょっとタイトルが固いけど実際、大事な話をするのだからこれでいい……はず。
「せ、せめて背景どうにかしよぅかなっ」
配信場所はダンジョンではなくアパートの自室。
真っ白な壁を背にして配信しようかと思ったけど、どうにも地味すぎる。
楽だからと正座もしているので、まるで悪いことしたあとの謝罪配信のようだ。
配信をちゃんと終えることができなかった謝罪はするけども。
私はいつも一緒に寝ているぬいぐるみ、クマのぐっさんを抱いてみる。
……。
配信内容になんら関係がないので、違和感しかない。
あれやこれやと悩んだ末、観葉植物を右端に映るようにしておいた。
それと腰から下は見えないようにした。
これで正座しているかどうかは分からないはずだ。
私はスマホを確認する。
【みなさんに大事なご報告があります】
8.856人が待機中 20XX/06/18 10時00分公開予定
待機人数は9,000に達しそうだ。
とてつもない人数だから、もちろん緊張はする。
でもその9,000人の前で喋るわけではない。私が向き合うのは小さなスマホの画面。いるのは六畳間の部屋。そう考えると緊張感も和らいできた。
舌足らずでもいい。噛んでもいい。
視聴者のみんなに伝えるべきことをちゃんと口にできればそれで――。
時刻は10時。
私はライブ配信を開始した。
「み、みなさんおはよぅございます。ダンチューバー四葉でーす。うぇいうぇいっ」
【コメント】
・おはよーよっちゃん、うぇいうぇい!
・うぇいうぇいっ
・朝からよっちゃん見れて幸せうぇいうぇいっ
・あざあああああすっ、うぇいうぇい!!
・うぇいうぇいっ、おはようございます、よっちゃん
・うぇいうぇい!!!!
・待ってたよ!うぇいうぇい!
いつの間にか私の挨拶である〝うぇいうぇい〟に、視聴者のみんなも〝うぇいうぇい〟で返してくれるようになっている。ライブ配信が始まった瞬間に、この一体感は嬉しい。
そして最初は――。
「ま、まずはみなさんに、感謝の言葉を述べたいと思ぃます。私みたいな駆け出しダンチューバーのために時間を割ぃてくださって本当にありがとぅございます。い、いつかはこんな風に大勢の皆さんの前でとは思ってぃたけれど、あまりにも急で……。だから色々至らないところもぁりますけど、これからも応援してくれると嬉しぃです」
【コメント】
・よっちゃんに会いたいからきてるだけだよ!
・こちらこそよっちゃんに会えて感謝
・駆け出しなのに特級武具持ちのギャップもまたいい
・よっちゃんは最高の推し♥
・これからもずっと応援するぜ!!
・初めての推しがよっちゃんな俺は応援するしかない
・何を犠牲にしても時間は割く!
「コメントが嬉しすぎます。みんなありがとーっ。そ、それで次なんぇすけど、皆さんに謝らないといけなぃことがあります。昨日のライブ配信ですけど、私がガス欠になったばっかりに、最後までちゃんとやりきることができませんでした。本当にすぃませんでしたっ」
私は深々と頭を下げる。
その間5秒。時間の問題じゃないけれど、それだけ反省していることを伝えたかった。
恐る恐る顔を上げて、コメントを見る。
【コメント】
・気にしなくていいって。無事でいてくれればそれでよし!
・今日よっちゃんに会えたことが大事
・無問題だぜ、よっちゃんっ。大技見れたしな
・助けにいけなくてごめん!
・誰も気にしてないよ、そんなこと
・問題なし。星波様が来てびっくりしたけど
・え? 星波様がやりきってくれたよ!!
私はほっと胸をなでおろす。
見た感じではみんなが許してくれている。
ガス欠で配信中断なんてあってはならないミスなんだろうけど、みんなが優しくてよかった。
そしてこの流れでやっぱりきた星波様。
「そぅなんですよ! ……あのぉ、私、実はあのぁと目が覚めたらなんと潜姫ネクストの事務所にぃたんです。え? なんで? って驚いて混乱していたら、そこに社長さんが現れまして教ぇてくれたんです。星波様が私を助けてここまで連れてきたって」
【コメント】
・目が覚めたら潜姫ネクストの事務所って驚くわな
・これは脳の理解が追い付かないw
・あそこの社長ってなんか個性がすごいよな
・出たピンクアフロwwwwwwww
・潜ネクの社長キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
・あの社長、星波様より目立ってて草
一番合戦さん、けっこう有名な社長だったらしい。
だよね、あの見た目だもん。
それはさておき――、
「はい。で、私、えええええええってなっちゃぃまして。といぅのも私、星波様推しなんです。だから本当に驚ぃちゃって。残念ながらそのとき事務所に星波様はぃなくて、のちほどちゃんと会ってありがとうござぃますって伝えに行くつもりです。でもこの場でも言わせてもらぃます。鳳条星波さん、その節はありがとうござぃました」
私は再び、5秒間のお辞儀。
星波様がもしかしたらまた見ているかもしれない――。
そう思ったら恐縮してしまい、心臓が早鐘を打つ。
【コメント】
・俺の推しが推しに救われるというドラマ
・推しなの知ってた。エンドラとのバトルで叫んでたもんw
・この配信、星波様も見てるといいね ^^)
・知ってる。星波様みたいになるんだからぁぁって言ってた
・ちゃんと伝わってるはずだよ!
・そういう律儀なところもすこ
・ええ関係やね。ほっこりやわぁ
そういえば私、エンシェントドラゴンとのバトルで、「星波様のようなダンチューバーになるまで、絶対に死ねないんだからぁぁぁっ!!」って言ったような気がする。いや言った。
急に顔がほてってくる。
その時点で私が星波様推しなのは、多くの視聴者に知れ渡っていたのかもしれない。
なんにしても謝罪と感謝を伝えることは終わった。
残されたのは、〝ご報告〟のみだ。
私は一度深呼吸をする。
「そ、それでそのぉ、えっとですね。タイトルにもある大事な報告のことなんぇすけど……」
【コメント】
・タイトルの回収に入ったか
・何の報告?
・いい報告だよね??
・え? 結婚?
・き、聞かないほうがいいのか
・いいか悪いかよっちゃんの表情から読み取れない!
・わいの心臓、ばっくんばっくん言っとるで
今から口にするのが、いい報告なのか悪い報告なのかは分からない。
メリットとかデメリットとか、あと視聴者のみんながどう思うかも考えたけど止めた。
結局、答えはあのときに決まっていたんだと思う。
「私はずっと、といっても2ヵ月ちょっとぇすけど、ダンチューバーを続けてきてぃます。お、お金がなくてドローンも買えなぃし、鉄潜章持ちでモンスターも怖ぃもんだから、配信といったらクラスDのダンジョンで散歩しかできなくて。
でも一昨日、私に大きな出来事がぁりました。エンドラさんとの出会い、バトル、そしてエンシェントマスターの称号を頂きました。そ、それから次の日には所沢Dでケルベロスとも戦って勝利しました。
でもガス欠で意識失って星波様に助けてもらって、潜姫ネクストの事務所で目が覚めて……。それで、そこの一番合戦社長に、うちに来てくれなぃかって誘われました」
「だ、だから私――潜姫ネクストに入ることに決めました。あ、入るといっても私個人の活動を制限しなぃ特別枠ですけど。……なんとなくぇすけど、エンドラさんと会ってからのことは全てここにつながってぃたような気がするんです。だから、もう一度言ぃます。私、湊本四葉は潜姫ネクストに入ることに決めました」
大好きな鳳条星波と一緒に仕事がしたかった。
◇◆◇
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
特別枠ですが潜姫ネクストに入る決意をした湊本四葉。彼女を応援したいと思ってくれた方、もしよろしければ★での評価をしていただけると作者のモチベーションがグンッと上がります。すでに評価してくれた方、ありがとうございます! それでは引き続きお楽しみください♪
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