第28話 其の者金色の稲穂畑に降り立ち自らを救う

「コアコア。なかなか面白かったがそろそろ終わりにしよう。ではさらばだ。人類の諸君」


 その時であった。二人の視界が瞬時に切り替わった。ウィンゲートとリーファがいるのは黄金色の稲穂の実る稲田。植物で造られた竪穴式住居。高床式倉庫。その奥にはやや立派な木材で造られた建物も見える。

 そこから一人の女性が歩いて来た。


「大丈夫。まだ打つ手は残っています」


 卑弥呼であった。安っぽい麻布をドレス風に着ている。足は草を編んで造ったらしきサンダル。顔には赤く刺青が施され髪には大陽を模した黄金の冠。

 そして眼鏡は外さない。


「おお!しんでしまうとはっ!わたしはなんとなさけないのだろう!これではマイルズさまにもうしわけがない!!」


「あ、お二人ともまだ死んでませんよ。凄く死ぬような状況ですけど」


「いや、卑弥呼さん。なんかここめっちゃ天国ぽい雰囲気に見えるんですけど?」


「エリザベスでも卑弥呼でもどっちでも構わないんですけどね。混ざってますから。ところでお二人とも。あれ、何に見えます?」


 卑弥呼・エリザベスは後方の稲穂畑を指差した。


「金色に光る植物が一杯ありますけど?」


「はい。オッケーです。実は今私はお二人の精神に直接語りかけているんです。具体的にはこういう風に」


 卑弥呼・エリザベスの前に半透明な脳味噌が出現した。卑弥呼はそれを両手で抱える。


「こうやってお二人の脳を直接コネコネしている状態ですね」


「それ、死にませんか?」


「本来は頭に矢尻が刺さった時に抜く為の医療魔術なので。やろうと思えば十人二十人一遍に殺せちゃきますが」


「じゃあその無敵の超魔術でであのコアラやっつけてくださいよーー!!」


「無理です。できません。なぜかというと私はコアラの脳を見たことがありません。リーファさんはありますか?」


「いや。私もない。そもそもコアラ自体を視たのはが今回が始めてだ。この世界にあの様な恐ろしい怪物がいたとは。頼む。私はここで朽ち果てるであろうが我が主君マイルズ様にコアラの脅威をお伝えしては貰えないだろうか?マイルズ様の居城の場所は」


「それは御自身でなさってください。私はお二人をここで死なすつもりはありません」


「なんだやっぱ出来るじゃん。よくわからないけどそのスーパーパワーで何とかしてくれよ!」


「これはお二人の認識能力を一時的に私と同調させているだけであって別に身体能力が強化されるわけではありません。しかし現状に活路を見出だす事は可能となります」


「何を言っているのだ。チート能力を使わないと勝てないのは当然だろう。マイルズ様もおっしやっていた。やはりチート。チートこそがすべてを解決するのだと」


「それは増税しなければ異次元の少子化対策が出来ないと発言する内閣総理大臣と変わりありません。実際には不要な特殊法人を廃止し、効果の上がらなかった政治政策を改めるだけで現状の医療年金制度を維持したまま更なる福祉制度の拡充が出来るのです」


「あーなるほど。予算の組み換えかー。極東の島国の黄色い猿には到底できそにない高尚な政治政策だな。まっ、僕らアメリカ人なら楽勝だけどね」


「なっ!ウィンゲート!!貴様今のわかるのかっ!!?」


「え?一応ミスカトニック大学で政治学一時限単位取得済みだし」


「な、なんという事だ・・・私には何がなんだかさっぱりだったなのに・・・。やはり魔法学校の生徒を伊達にやっているわけではなかったのか・・・」


「じゃあ。御二人とも心の準備は宜しいでしょうか?私が認識同調を解いたら。つまり元の世界に戻ったら私が指示した通りに行動してくださいね。そうすればたぶんなんとかなっちゃいますので」


「ああ。わかったよ」


「どうすればあのコアラという怪物を倒せるのだ?」


「とりあえず回れ右して全力で逃げてくださいね。はいスタート」


「回れ右して」


「全力で逃げるんだな。それでコアラとやらを。なにっ?」


 黄金の稲穂畑が消えた。代わりに緑の森林が現れる。

 そしてコアラ。


「太平洋に存在するネックカットアイランド!その原住民のピーチジャレン族が使っていたいう垂直移動からの連続攻撃を昇華したものだコア!平行移動からの連続攻撃では人間の視界にいつまでも留まってしまうが垂直移動なら瞬時に視界から消えるコア!捕らえる事はできんコア!!俺様の奥義であの世に送ってやるコア!!喰らえ!千切白菜爪(スラッシュキャベジクロウ)!!」


 コアラの姿が樹上に消えた。そして再び地上に降りる。振り下ろされる両手の爪。


「グアアアアアーーーン!!!グア?避けた、だと?」


 コアラの予想に反してウィンゲート達は真後ろを向いて逃げ出していた。


「コアコア。これはこれは。予想外コア。だが次は外さないコア。死ね」


 再び千切白菜爪を放つコアラ。樹上に飛び上がる。

 ウィンゲート達は再び黄金の稲穂畑に招かれた。眼の前に眼鏡をかけた卑弥呼がいる。


「あ、ちゃんと御二人とも生きてますね。よかったぁ」


「よかったぁ。じゃない!」


「じゃあ次は左に逃げてくださいね。あ、右だとすぐに木にぶつかっちゃいますんで」


「左?」


 黄金の稲穂畑が消えた。代わりに緑の森林が現れる。

 そして。


「千切白菜爪!!」


「うああああ!!!」


「コア?ほぉ?いい感をしているではないか。だが逃げてばかりでは勝てんぞ」


「なんだと?!では戦ってやるっ!!」


「やめろっ!」


 再び黄金の稲穂畑。


「あ、今度は右に曲がってください。でないとみじん切りになります」


「邪魔をするなウィンゲート!」


「いいから右に行くぞ!」


 緑の森林が出現。


「千切白菜爪!!」


「うおおおお!右いいいい!!」


「コアラよ!私は貴様と戦う意思がある!だがこのウィンゲートがどうしても逃げたいというから仕方なく逃げるのだ!!私のせいではないっ!!」


 また黄金の稲穂畑。


「その場で十秒静止してください。すると三十秒間木の枝が揺れる音も葉っぱが落ちる事もなくなりますので直後に前方にスライディング」


 森が出現。


「十秒待つ」


「木の枝が揺れなくなった・・・。葉っぱの落ちる事も・・・。コアラの気配が完全に消えた!!?もしもしマイルズ様ーーーっ!!!!」


「えっと、三十秒待つ」


 時計を出すウィンゲート。


「五、四、三、二、一。前方にスライディング!!」


「千切白菜爪!!コア?!!なぜ外れる?!!貴様ら、思ったよりやるなっ!!!」


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