第27話 有袋類との死闘



「まさかお前達。『有効射程内で攻撃する。射撃にしろ格闘にそれで自動的に命中する筈だ』だなんてね。思っているんじゃあ、ないだろうなコア?だから貴様ら人類の文明は滅びるのだよ。オセロト、いやテフタポリトカ。この前血祭りにしてやった人類はなんと名乗っていたか。まあ既に殺したヤツの名前などどうでもいい。ああ、お前達も名乗らなくていい。直ぐに殺してやろう。ミクトランとか言ってたか。地獄と言う意味らしいが其処まで直ぐに送ってやろう」


「た、たいした自信じゃないかっ!お前は滅びないとでも言うのかっ!!」


「如何にも。お前達はヨーロッパからこの大陸に来た。それがお前達人類史のスタート地点。そしてこの大陸に渡り文明のみならず多くの野生動物達を滅ぼした。だが我が故郷オーストラリアに貴様らが辿り着いたのはそのあと!更にお前達はオーストラリアでは文明を滅ぼしていない!何しろ滅ぼすべき文明がなかったからな」


「あ、いやまあそうなんだけれどな」


「そして何より、偉大なる我がコアラ族は貴様ら人類によって滅ぼされていない!よって我らは人類よりかは優秀!!」


「いやそんな理屈で」


「確かにそうだ、マイルズ様も仰っていた。最終エリアに近付くほどエネミーは強化されるものであると。ヨーロッパよりこの大陸。この地よりオーストラリアの方が強いのは当然の理!!」


「コアラの肩持っちゃうのリーファ?!」


「何と言うことだ。オーストラリアという超高難易度エリアからこの地にわざわざ訪れて無双するとはっ!言うなればヤツはラストダンジョン内のモンスターが最初の街までわざわざやって来て無双しているようなものてまはないかっ!こんなことがあるなんて、想像していたなかった!いや、マイルズ様は予期なされていのかっ?!このような危機もあることを?流石はマイルズ様ですっ!!」


「どうせ必ずマイルズ様になるっ!!」


「コアコア。お前達の攻撃が何故命中しないのか。今から説明してやろうコア。別にそれを知ったところでお前達が有利になることはないのだからな」


「何を愚かな。ちゃんとヒットアップの魔法を使えば命中。いや、一応ハイハットにしておこう。これでよし。ふははは!命中率が百二十パーセントになってしまたようだな!どうやら少々上げすぎたようだ!だが今度こそ貴様の最後だっ!!」


「グァーン。コアコア。ではやってみるがよい」


 再びコアラはリーファの二メートル手前に移動した。


「め、命中させるぞおおお!!!クリティカルアップも使うぞおおお!アタックアップもだあ!!そして力ためめめめめ!!!はあーはあっはっはっ!!マイルズ様主催の御前大会で四百六十五万四千九百二十七ポイントダメージを叩き出して優勝した私の一撃を受け取り、我が主君を嘲笑した後悔するが」


 長々と話を説明している間に姿を消すコアラ。首を撥ね飛ばす余裕すらあったのだが格下の相手と判断して、弄んでくれる事を選んでくれたようだ。幸いと言うべきであろうか。振り下ろした手斧の上にコアラが乗っていた。


「コアコア。そんなゆっくりとした動きではアメリカミズアブすら殺せんぞ?」


「マ、マイルズ様より素早く動いただとっ!?」


「コ、コアラがしていい動きジャネエエエ!!」


「どうやら全力でその程度なのか。所詮人類。滅びゆく種族。ゆっくりと眠れるよう子守唄代わりに聴かせてやる」


「や、やめてくれエエ」


「お前たち人類が何故勝てないのか。それはお前達が地面を這いずる種族に過ぎないからだ」


「ハァハァ。貴様は違うと言うのか?!」


 魔法の消耗と全力切りでふらつくリーファ。もっともウィンゲートは『魔法というものすら知らない』ので、ただ単に人語を話すコアラに彼女が怯えているようにしか見えなかった。


「貴様達人類の目は横についている。つまりその視界は横に広いコア。即ち常に映画を観ているに等しいのだよコア」


「ふん!映画くらいマイルズ様はご存知だ!もしもしマイルズ様ですか?映画って知ってますか?えっ?アマプラで充分?そうです!流石はマイルズ様です!!ふん!映画なんぞよりアマプラの方が良いに決まっているだろう!!」


「なあリーファ。お前映画みたことある?」


「ない!しかしマイルズ様が仰るのだからアマプラの方が良いに決まっておろう!!」


「じゃあもし生きて街に帰れたら映画館行こうぜー」


「マイルズ様はハッピーエンドよりもバットエンドの方がお好みだ!」


「ふざけんな!この世に存在意義のない映画なんて在りはしね~!!」


 かなり疲れた口調でウィンゲートは約束した。


「コアコア。映画のスクリーンというのは横に広い。しかし人間は縦の視野が生き物なのだコア。さあ。もう一度この俺に切りつけてみるがいいコア」


 消耗仕切った体力で手斧を震うリーファ。これではたとえ命中したところで効果的なダメージとはならないだろう。コアラの鋭い爪によって簡単に受け止められてしまう筈である。

 ・・・この表現に何ら不自然な点はない。

 それを見越してであろう。コアラは今までと違い、ゆるりと回避を行う。辛うじてウィンゲートが視界に捉えられる速度で。

 上に逃げている。


「ジャンプでにげているっ!!?」


「コアコア、その通り。お前達人類はどの様な武器を使っていても。どの様な流派の武術を学んだとしても。同じ地上にいる人類を相手に斬り合いをする事をしている。だが空を飛ぶ相手ならば?貴様らは洗濯物に使う物干し竿で燕を叩き落とす練習をしたことがあるのか?ないだろう?そう、貴様ら人類は空を飛び交う相手を切る事などできんのだっ!」


「くっ!そう言えばマイルズ様から以前に聞いた覚えがあった。近接戦の間合いに入って相手が切りつけてくる瞬間にジャンプすると振るう刃の斬撃、その全身や腕。刀身の移動方向から逃れられるという」


「マジかよ!マイルズ様すげえよ!!」


「近接攻撃?ガァーン。本当に近接攻撃だけかなコアコア。そのスタチューオブリバティーを満足させられるくらいでけえと自分では思ってる銃で俺を天国に行かせてみろ?できるもんならな。コアコア」


「な、なんだと?ふざけた事を言いやがって!だがしかし挑発の仕方が恐ろしくアメリカンだ、クソッ!!」


 ウィンゲートはジャンプで逃げるコアラに対応すべく予め銃口を斜め上に向けて発砲しようとした。だが。


「うっ、これはっ!!」


「ようやく気づいたのかコアコア?そう。ここは森の中。頭上見渡す限り木の枝と生い茂る葉だらけ。俺の姿を捉える事など不可能。よしんば捉えたところで分厚い樹葉が盾となり矢弾を防ぐのよっ!」


「く、くそう!」


「グアーン!コア!グアーン!コア!コア!グアーン!コア!グアーン!」

連続ジャンプと着地で移動を繰り返すコアラ。


「だ、駄目だ!ロックオンしようとしても直ぐに視界から消えてしまうっ!」


「コアコア。横移動なら簡単に目で追える。そして攻撃範囲もほぼ変わらない。だがこうやってジャンプしただけでお前達は攻撃を当てる事が出来なくなるのだコア。言っておくが俺は高速移動も瞬間移動も飛行魔法も時間停止も『していない』。つまり一切魔法とやらに頼らずにこれを行っているわけで」


「ブラッデイレイ!」


 声のする方に朱い一筋の光が延びて行く。

 枝の一本が折れて地面に落下した。


「ぐあーん?もしかして声のする方向を頼りに当てずっぽうで狙撃してみたのかコア?残念だったなコア。人類のように動いていれば命中していたかもしれないが。俺はコアラなのだ。もしかしてお前。『コアラが木にしがみついた所を見たことがない』のかな?じゃあ無理だコア。木の葉に隠された樹上の俺を殺すこと等『本当に不可能』なんだグアーン」


 額から。いや。全身から玉のような汗を吹き出し膝から崩れ落ちるリーファ。季節は春。うだる夏の熱気にはまだ遠い。


「申し訳御座いませんマイルズ様。どうやら私はここまでのようです。この世界には恐ろしく強いモンスターが存在しさいます。その者は自由自在に樹木を移動し、私を翻弄。まるで自動車の車輪にしがみついたかのやうに俊敏に移動し続けるのです。しかも一切魔法を使わずにです。かのものはコアラと言う名前の怪物でして非常に」


 ブツ!ツーツー。


 何故だか知らないがウィンゲートの耳にも届く受話器を叩きつける音と不通音。


「もしもしもしもし??!マイルズ様ーー??!!な、何と言うことだっ!念話すら妨害できる魔力があったとは・・・。マイルズ様にコアラの脅威をお伝えすることも叶わないのか・・・」


「イマジナリマイルズ様にも見捨てられたーー!!もうダメダアーー!!!」


 ウィンゲートもまた。頭を抱えて絶叫した。

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