第26話 有袋類、顕現
「ガァーン。よかろう。人の可能性とやらをせいぜい現物させて貰おうではないか。そのようなものがあるのならな。ガァーン」
「キャアア!喋ったアアアアーーー!!!」
「別に喋るモンスター位珍しくないだろういちいち騒ぐなみっともない」
「そうだよウィンゲート君。リーファ君の唾液を集めて呑んだらどうかね?少しは度胸がつくと思うがねえ」
「いや教授はともかくリーファには言われたくないです」
「ガァーン。冥土の土産だ。我が全貌を観るがよい。そして畏怖せよ。逃れらぬ死の姿を、な」
「ふん。我が主君マイルズ様ならいざ知らずその様な大口を叩いてただですむと・・・な、なんだその姿はっ!!」
リーファは。樹枝より降りてきたその怪物の姿に言葉を失なった。それは彼女が元いた世界で出会った如何なる生物とも似つかない風貌であった。
一体。この奇妙な生き物は。いや。これは本当はに生き物なのか。
ああ!ああ!その体躯は熊のようで!
ああ!ああ!その体毛は熊のようで!
ああ!ああ!その太い腕と脚は熊のようで!
ああ!ああ!その鋭い爪は熊のようで!
ああ!ああ!その丸い耳は熊のようで!
ああ!ああ!その鼻は熊のようで!
ああ!ああ!その瞳は熊のようで!
ああ! ああ!その姿はコモリグマ若しくはフクログマのようで!
「コアコア、愚かな人類種よ。貴様らの歴史もここでここで終わる。我が爪の前にひれ伏すのだコアコア」
コアラだった。
「コアラなんて嫌だあーーー!!ドラゴンだなんて贅沢は言わない!せめてリザードマンにしてくれえーーー!!」
「すみません。卑弥呼さん。ダイアー教授もう使えないみたいなんで車に押し込んでおいて貰えますか?」
「はい、分かりました」
卑弥呼は車から降りると、落ち葉の上で手足をバタつかせているダイアー教授を持ち上げて自動車の助手席に押し込んだ。そしてパタパタと戻ってくる。
「あ、ウィンゲートさん。これお使いになられますか?」
ダイアー教授が持っていたショットガンである。よし、武器を補充しよう。
「使います。有り難う御座います」
そして卑弥呼は再び車の運転席に戻った。
「コアコア、貴様。まさかその銃で俺と戦うつもりか?無駄な事はやめておけ」
「私は斧だぞ」
リーファは言った。
「どんな武器でも結果は同じだコア。お前達はそう。森の中で槍を構えたオークが顔を出しながら様子を伺っている。そんな戦いを思い描いているのではないのか?」
「いやいや。そんな事は」
「そそそはほんなんななななことことは」
「思い描いてたんかい」
「そして銃を持った貴様。貴様は何となく想像していたのではないのか?樹の幹から顔を出す相手に目掛けて銃を撃つも素早く陰に隠れられてしまい、キンキンキキキキキンと虚しい音を奏でる未来を」
「そ、そそそほそんんんなななこここのとともは」
「ふん、そんな炸裂の魔法を込めて鉄の弾を飛ばす道具に頼っているからだ。やはり闘いの基本は格闘だ。己の技量のみを頼るべきなのだ」
「残念だが貴様らの人類史はここで終わる。考える葦。自分達が滅びく種族だと理解したうえで滅せよ」
「うおい!コアラらしくない台詞だぞこれっ!!」
「確かにベンジャミンとは明らかに違うフンイキではあるが」
「と、とりあえず!!」
ウィンゲートはコルトガバメントを撃った。ベンジャミンはこの銃弾で仕留められた。なおベンジャミンは兎である。
しかし。
「消えたっ!?」
倒したわけではない。その場に死体がないからだ。
「たたた、倒したに決まっているにきまつまているじゃないかなあ倒したエネミーはその場で消滅するんだ今回はドロップアイテムがないからすぐにキエタんだマイルズ様もオッシヤッテイタ」
「リーファ、後ろだ!」
鋭い爪の一撃。
前のめりに倒れふすリーファ。
「コアコア。まずは一匹、がぁーん?」
直後の斜め下段から放たれた斧の一撃を鋭い爪で受け止める。
「ガァーン?確かに骨までえぐった刀身思ったがな?」
リーファはゆっくりと立ち上がりながら背中にくくりつけた縄を外した。取り付けていたランスが外れて地面に落ちる。その刀身は鋭い爪で抉られた痕があった。
「ガァーン。妙な形の盾だな。だが次はないコア」
「こいつ、まさか瞬間転移の魔法を?!」
「コアコア。我が力は瞬間移動だの時間停止だの高速移動だの催眠術だなんていうチャチなもんではない。もっと恐ろしい存在だ、グァーン」
「もっと恐ろしい存在?」
「貴様ら人類は所詮地べたを這いずるだけの存在。つまり何処まで行っても二次元の生物なのだ。永遠にな」
「キッサマア!我が主君マイルズ様を愚弄するつもりかっ!!マイルズ様は仰っていたぞ!!二次元は素晴らしいものだと!!二次元を愛せよと!!それを貴様はっ!!」
「グァーン。ジョークが下手な生き物なのだな。じるいという種族は。では俺に攻撃を加える事を許可しよう。ルールは簡単。俺を殺せば貴様らの勝ち。カモノハシ以下の脳ミソしか持たない貴様ら人類でも理解出来るだろう?」
「か、かものはし?カモノハシとはナンダアーー、!!」
「お、おちつくんだリーファー!!カモノハシなら中国にもいる、じゃあないかぁっ!!」
「ふふ、カモノハシも知らないのか。やはり貴様ら人類は脳が小さいと見えるな」
「だ、だまれえーー!!カモノハシは鳥類ッーー!!マイルズ様もおっしゃている!!」
「落ち着けリーファー!!カモノハシは哺乳類だぞーーー!!!」
リーファは手斧を振るう。しかし。
その刃は虚しく宙を切る。
「だ、ダブルロッククラッシュが確かに決まったはずなのにぃーー」
「コアコア。まさか貴様。この距離二メートルは自分の間合いだ。入ってきたが最後おまえそんの最後だぜ?だなんてね思っていたりする?コア」
「くっそ!」
ウィンゲートがショットガンを撃った。
「ガァーン。いくら素早く避けても散弾なら当たる筈だ。とか考えたのかな?ガァーン」
「か、掠りもしないだと!!」
動揺しつつも、ウィンゲートは次弾の装填を開始した。戦いはまだ始まったばかりだ。まだ弾丸の余裕はあるのだ。落ち着け。落ち着くんだ。ウィンゲート。彼はそうやって自分を励ましていた。
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