第24話 依頼(クエスト)ではなく義勇兵(ボランティア)
朝食を終えたウィンゲート達。明るくなるのを待ってからベンジャミン邸から出立し、車で北上する。北に行けばミスカトニック河にぶつかるはずなのでそこから河に沿って下りアーカムに戻るのだ。
森を通過するがおそらくはクラークス・コナーズの道を通るよりかは安全であろう。
「外はもう暗くなっていたからとりあえずベンジャミンの屋敷で一晩過ごす。それはわかる。凄いわかる。夕食、朝食も食べるのもわかる。だが不気味なマネキン人形の隣でシャワーを浴びるのはどーなの?二人とも?!」
と。運転席のウィンゲートは卑弥呼とリーファに文句を言った。
「フッ、ウィンゲートよ。貴様は所詮愚かな人間に過ぎないようだな!ナイフを片手に水浴びすればいい話だ!私は故郷でいつもそうしてきたぞ」
「イヤですねえリーファさん。ナイフなんて野蛮ですよ。覗きをする人は変化の魔法をかけて鹿とかに変えて犬をけしかけてあげればいいんですから」
「なっ!?自分ではなくっ相手に変身魔法を使うだトゥ!!その発想はなかった!卑弥呼!貴様は天才だ!マイルズ様の臣下になるというであれば私が推挙してやろう!!」
「それにリーファ、お前服の両袖変な毒のせいで破けてたじゃん。なんで直ってんの?」
「フッ!何を隠そう私は貴様のような下等生物と違って衣類を修復する魔術が使えるのだよ。まあお前には到底真似出来ないだほうがな、フッ!」
「洋服ダンスの中には男性用の他に女性用の物もあったのでそれを拝借しただけだよウィンゲート君」
「ああ、そういうことですか教授」
「な、ダイアー貴様!よくぞ我が魔術を見破ったな!!」
「サイズは様々。老婆が着るようなデザインでかなり大きめの物もあった。たぶんベンジャミンが着用したうえで背後から人形を動かし、独り暮らしの老婆だと油断させてぐっさり。だよ」
「いやいや。それだとかなり体格の立派なおばあちゃんになっちゃいますよ。そんなのにひっかるヤツなんて」
「なんということだ!ベンジャミンは変身魔法の使い手だったのかっー!もしもしマイルズ様ーー!!」
「わりといそうですね」
「うむ。だろう?」
やがてミスカトニック河が見えてくる。広い河川敷にやや離れた場所にはかなり立派な丸太小屋。
「バーベキューが楽しめるキャンプ場か。季節としてはまだ早いな」
一応覗いて見る。丸太小屋の中には人がいた。
「いらっしゃい。キャンプの時期としては少々早いと思いますがね」
管理人の男性は入店したウィンゲート達にそう切り出した。
「とりあえずコーヒーを人数分。あと出せるなら簡単な食事を頼む」
「トーストと缶詰めのスープ程度で宜しければ。あと街中よりお高くなりますがガソリンもお売りできます。場所は裏側です」
「じゃあ私が入れてこよう。君達はくつろいでいてくれ」
ダイアー教授は車のキーを持って店内から出た。
管理人の男と、ウィンゲート。そしてリーファと卑弥呼が残される。
「ここバーベキューとかもできるキャンプ場ですよね。僕達みたいな変わり者はともかく確かに時期外れじゃないですか。こんな時期に店が開いてるなんて」
「魚釣りのポイントがあるらしくてね。それに春からは狩猟も解禁。冬と違って遭難の心配もなし。昔は森の中で凍死してる遺体が見つかることもあったらしいよ。今はうちの店で暖かいベッドを使うことも出来る。もちろん代金はアーカムのスィートルーム並み。嫌なら外の馬小屋で寝てもいいぜ。無料だ」
「もしもしマイルズ様ですか!?この世界ではホテルに宿泊する時値段によって回復する体力が違うのです!えっ?そんな事しってる?流石はマイルズ様ですっ!!」
「面白い嬢ちゃんだな。チャイニーズってのはみんなこうなのか?」
「僕もそう思う。多分そうなんだろ」
「にしても随分と到着が早いな。まさか夜中に森を突っ切って来たのかい?」
「いや、何を隠そう昨晩は手強い魔獣と出くわしてな。そいつと一戦交えたのだ」
「手強い魔獣?」
おいバカやめろ。
ウィンゲートがそう口にするよりも早く。
「ベンジャミンという名の兎の獣人だっ!!」
「そうか、そいつはさぞかし恐ろしかったろうな。ほれ、コーヒーだ。ミルクと砂糖は好きなだけ入れてくれ」
店主がリーファを見る目が酷く優しくなった。
「フッ!どうやら私の武譚を余程聴きたいらしいなっ!」
「ああ。聞かせてくれないか?そのコーヒー代はいらないよ・・・」
「スミマセン・・・」
ウィンゲートは自分のコーヒー皿の下にチップを挟んだ。全員分のコーヒー代金よりずっと多い。
「ベンジャミンというのは人間サイズの兎の獣人だ!ベンジャミンは人間の肉を食べない!ベンジャミンは私に対し妻になるか、ならねば殺して有り金全部奪ってやろうと二択を迫ってきたがもちろん私は断り、死闘の末にベンジャミンを打ち倒したのだ!!」
と、リーファは彼女が本来いた世界で偉大なるマイルズ様が酒場でしていた事を真似をしてみた。
「スミマセンスミマセンスミマセン」
トーストが置かれるとウィンゲートは多めに金を払った。
「兄ちゃん。アンタも苦労してるんだね。くじけちゃいけないよ」
「ガンバります」
「おいウィンゲート。なぜ貴様が金を払う?私が貰うのではないのか?」
「三十分か、一時間位休憩したらアーカムに戻るとしよう。トイレも含めて済ませておいてくれ」
ガソリンを給油し終えたダイアー教授が店内に戻った。
「アーカムにもどる?クラークスを通って南回りですか?」
店主が尋ねる。
「いや。ミスカトニック河に沿ってこのまま東に森を抜ける予定だが」
「それは止めておいた方がいいですよ。森の入り口付近の沼を越えた先に妙な化け物がもっぱらの評判で。ついこの間も沼に釣り人か何かの死体があがったんでよ。全身鋭い爪に引っ掻き傷。まあ熊か何かだと思うんですが。どのみち兎よりかは狂暴で」
「今すぐ沼を越えて森に向かうぞ諸君!」
「トースト、食べてからでいいですか教授?」
「あ、すみませんダイアー教授。私おトイレいいですか?沼や森の中でするのはちょっと」
「もしもしマイルズ様ですか?この世界にはコーンスープというのが存在するのです!牛乳ベースの汁に黄色い豆が浮いており大変美味で、えっ?!知ってる?流石はマイルズ様ですっ!!」
「本当に行くのかい?」
「無論だとも。もしかするとその化物がアーカムに被害をもたらすかも記しれんからね。その前に退治しておかないと」
「礼金だな?礼金が貰えるなっ!!」
「まだ街に被害は出ていないから謝礼金は出ないと思うがね。今回はボランティアだ」
リーファは露骨に残念そうな顔をした。
「それで、遺体はどんな損傷状態だったのかね?」
「どんなって。とにかく酷いありさま有り様でねえ。死んでいたのはズボンを履いていたからまあ男だろうな。脱がして確認したわけじゃないが背格好からして間違いない。それに臭いも酷かったしな。仮埋葬するまで大変だったよ。傷は上半身が主で内臓が随分抉られて。片腕がなかったな。残った腕にライフル、弾は一発だけ残ってた。あと妙な点は顔にパンサーから剥いだ生皮が被せられていたことだな。まあ臭いが酷いんで気の毒だがそのまま埋めさせて貰ったよ」
「運転免許とか身分証の類いはあったかね?」
「持ってなかったよ。大方森の中に荷物が在るんだろうが俺は探す気分にはなれんね」
「ふむ。ライフル銃を持っていた事から被害者は人間であるのは間違いない。猿は銃を使えないからな。だが被害者を殺害した鋭い爪を持つ何も者かは何故か被害者にパンサーの顔を被せた。明らかに知的な行為だ。野生の獣のすることではない」
「だから東の森に近づかない方がいいぞ」
「いや。やはり行く必要があるな。次にこの店に来た客が森の怪物は大学教授が退治した。そう言わなかったらこの店を一時閉店して街に行き、こう言うんだ。森に恐ろしい人食い怪物が住み着いたとな」
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