第23話 自爆装置のないボス拠点だとこうなる
その日はベンジャミンの屋敷の二階で一夜を明かすことにした。
リーファの提案で一応交代で見張りを立てながら寝る事にしたが、特に何も異常は起こらなかった。
そう。すべての危険は取り除かれていたのである。
「じゃあとりあえず兎の下処理をするぞ」
ついさっきプロポーズを受け入れた相手に対して肉切り包丁を向け、解体作業に入るリーファ。所詮は兎だった。
「あ、私お手伝いしますね」
「ちょっと待てお前ら!そのベンジャミンとかいう人間サイズの兎食うつもりかよっ!!!」
「何を言っているウィンゲート。動物の内臓は腐りやすいんだ。早く食べないと駄目になってしまう。骨は矢じりに。肉は乾燥させて保存食にするぞ」
「リーファさんの仰る通りです。毛皮はそのままでも暖かい服になりますよ!」
「まて卑弥呼とやら。毛皮はなめした方がいい。そのまま店に売るより高く買い取って貰える。余裕があればやっておくのだ」
「皮なめし。ですか?そう言えば海を越えた大陸にはそのような技術があると聞いたような・・・でもどうやるのでしょう?」
「私が教えてやろう。マイルズ様は仰っていた。自分が殺した相手は余すことなく活用せよ。それが命を奪ったものへの最大の感謝の示であると」
「最もらしい事言ってるよマイルズ様!!」
「じゃあ頸動脈を切って血抜きをするぞ。抜いた血は容器を用意して集めておく」
「え?捨てるんじゃないの?」
「血!飲まずにはいられないっ!!」
酒のようにグイグイとベンジャミン(兎)の血を飲み干すリーファ。
「いやお前が吸血鬼みたいなことやってどうするんだよっ!!」
「何言っているですかウィンゲートさん。動物の血液にはとっても栄養があるんですよ」
「彼女達の言う通りだよウィンゲート君。北極海に住むエスキモー達は寒さに耐える肉体を造り上げる為に狩りで仕留めた動物の血を酒のように飲む!そして自らの栄養として余す事なく利用するのだ。それはエスキモーだけではない。ヨーロッパの民の中にも同一の文化が存在する。それはブラッドソーセージ。通常のソーセージに血液を材料として混ぜ込んだもの。即ち、血を食用とするのは正しい行為なのだ!!」
「僕だけアウェイなんですかっ!!」
「次に首から腹、尾にかけて。さらに前足後ろ足に向けて刃物を入れていく。この時刃を深く入れすぎると内臓を傷つけてしまうと肉に不快な臭いがついてしまうからな。喰えなくはないが味がえぐくなるから注意だ。特に膀胱と大腸。排泄物が詰まっているから破いてはならない。皮をはいだら肉を食べやすい。或いは運びやすいサイズに切り分けていく」
「いやあ手慣れているな。まさに腕のいい肉屋の解体ショーだ。南極探検に行った時の事を思い出すよ」
「南極には肉屋なんてないでしょ教授」
「南極探検の話を君にはしてなかったかねウィンゲート君?私が遭遇したのは人間を食べるヒトデだったのだが。彼らは人間を調理するのだよ。人間が吊り下げられ、解体されている遺跡を発見した時の印象はまさに人肉食肉加工場だった。同時に彼らをこの地球上に解き放ってはならないと使命感に突き動かされた」
ピタリ。とリーファの腕が止まった。
「あ、リーファさん。それ大腸ですよ。ウンチ漏れてます」
「ああ!しまったっあああ!!!」
「でもまぁ幸い可食部位の多い動物ですし。その個所の肉や内臓を廃棄して調理を続けましょう」
「動物?!それ動物扱いでいいのっ!!?」
「ウィンゲート君。我々の前にいるのはただの兎だよ。まさか人語を介するキメラとでも言いたいのかね?」
「いいや!まだだ!まだ終わらんぞ!骨は砕いて割り、煮込んでスープの出汁にできるっ!眼球も柔らかくて美味!!デザートは冷やした脳味噌っ!!しかしどうしても大量の肉は食べきれない!やはりソーセージにする必要があるっ!!ウィンゲート!この兎の腸を洗うんだっ!ソーセージを造らればならないっ!!」
かくしてその日の夕食は謎肉の入った(人間の肉ではない)野菜スープとなった。
そして、夜が明けた。
「おはよう諸君」
「おはようございますダイアー教授」
「みんなよく眠れたようだな」
「それに引き換えウィンゲート。お前は眠れなかったようだな。目にクマができているぞ」
「ねえ。なんで皆そんなに爆睡できるの?」
「冒険者なら当然だ」
「え?私古墳で二千年ほど寝てたので寝るのは得意です」
「ヨーロッパの塹壕と比べれば雨も降らず暖かく快適だよ。戦車も来ないしいきなり長距離砲が飛んで来るかね?それに朝は暖かいコーヒーと缶詰ではない新鮮な野菜を用いた平常食。これ以上ない環境だ。ニュースペーパーがないのは我慢しよう」
モーニングコーヒーに口をつけながらダイアー教授は言った。
「ところでこの野菜はどうしたのかね?肉は昨日仕留めた兎が沢山残っているから解るのだが」
「屋敷の庭に畑があった。おそらくはベンジャミンが造ったものだろう」
「一応報告しておきたい事があります。畑の一部に何か所が掘った場所が。気になってスコップで掘り返してみると白骨死体が全部で十一体ありました。右腕がない遺体が二体、左腕がない遺体が一体、両腕がない遺体が四体ありました。軽く見て土の形状が違う場所を簡単に探しただけなのでもっとよく掘り返すと沢山出て来るかもしれませんが」
「腕のない死体がどういう風に死んだか考えたくねー」
例のマリア像か、木箱のトラップに引っ掛かり、腕を失った後でベンジャミンにザックリ。そんなところであろうか。
「不思議なのは死体が武器も防具も。いやそんなものどうでもいい。財布を持っていなくて金貨がまったく見当たらなかったことだ。大概死体の傍には金目の物が落ちているんだが」
厳密には銃や弾薬も埋まっていた。しかしそれらは土中に埋められて腐食が進んでおり、暴発の危険があるので使用はやめておいた方がいいと卑弥呼が止めた。
「それは簡単だな。おそらくあのベンジャミンとかいう兎が使ったのだろう」
「あの獣人が人間の金を使ったのか?」
「この辺りに石炭が採れるような場所は見当たらない。となれば街で購入したと考えるのが自然だろう。まさか旅行者が石炭を常日頃から背中に山と抱えて歩き回っているわけでもあるまい」
「そう言えば私も石炭を運んでくれなどと言うクエストは受けた事がないな」
「屋敷の中の家具には購入したばかりの物もあった。大方一夜の宿を求めて訪れた旅人を殺害し、金品を奪って生活していた。そんなところだろう。まあ昔からよくある話さ」
「いや金目当ての犯行ってのは解りましたけどあの兎がどうやって街で買い物を?」
「フッ!そんな事も分からないのかウィンゲート?所詮愚かな人間か!ならば教えてやろう!変身の魔法で人間に化けたのさ!まあ誰にでも出来る事ではないがな!フッ!」
「あー。説明するのを忘れていたよ。すまないなウィンゲート君。洋服ダンスの中に大きめのコートと帽子。それに手袋があった。おそらくはそれで全身の毛皮を隠していたのだろう。買い物は閉店間際の暗くなる時間帯か雨の降っている日を選んだに違いない。雨の日なら太陽がなくて薄暗く、更に雨傘も使える。顔を隠して買い物が出来ただろうからね」
「分かりやすい解説ありがとう御座います」
「あら?でも結局イエスとマリア像の仕掛けはなゆだったんでしょうねダイアー教授?」
卑弥呼は疑問点を口にした。
「そっちも解明しておいた。夜の見張りの時にね。じゃあちょっと地下室に行ってみようか」
四人は地下室に降りた。
イエス像は外した状態。さらに二階の子供部屋から玩具の機関車を持ってきた。ねじまき式でネジを巻くと前進するタイプである。
「予めマリア像からイエス様を外しておく。で、この玩具の機関車をベンジャミンがいた部屋の入り口に向かって前進させる」
ダイアー教授はネジを巻いた。機関車はネジ動力で入り口まで進んで行き。
入り口を通過した瞬間、落下してきたマリア像に押し潰された。そして落下したマリア像はチェーンで引き戻され、天井に登っていく。恐らくは一階の定位置に収納されるのだろう。
「ななねなななっっっつ!!!」
「木箱と同じ重量感知式のトラップだろう。猫くらいの重さの物でも作動する。極めて優秀。装置の仕組みは御覧の通りだ」
「僕らあの下何度も往復しましたよっ!!」
「ベンジャミンは草食動物だ。恐らくはな。故に人間を食べる必要はない。殺害手段は選ばない。きっと畑の隅まで掘り起こせば砕かれた人骨がみつかるだろう」
「なんと勿体ないことをするのだ!命が、命が、勿体ない!!マイルズ様はこの様な暴挙は決してお赦しはならないだろうっ!!」
「ただ、侵入者達が持っている現金は欲しいからな。この罠ならばかなりの確率で財布だけは手にすることが可能ということさ」
「なんて酷いことを!命だけ奪っておきながら金目の物を総て独り占めにするだなんてっ!ベンジャミンめっ!赦せん!、マイルズ様に代わりこの私が成敗してくれるわっ!!」
「ねえリーファ。それ単にお金が欲しいだけだよね?」
「それ以前にベンジャミンさんは昨日私達がやっつけて肉のスープにしてしまったのでもう退治できないと思うのですが」
ウィンゲートと卑弥呼はそれぞれそう言った。
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