第22話 さらばダイアー教授!地下室に死す!!
黄金のイエス像改め金メッキのイエス像を手に入れたウィンゲート達は一階の今まで戻って来た。
「ではイエス様をマリアの元に帰す事にしよう。おそらく何かが起こるはずだ」
「はい教授」
ウィンゲートはイエス像をマリア像の腕に戻した。機械的な作動音と共にマリア像の腕が軽く沈み、さらにマリア像自体が台座ごと床に深く沈んで行く。階下より大きな音が聞こえた。何処かで何かの仕掛けが作動したようだ。
「地下に何か大掛かりな装置が仕掛けられていたようだな」
「早速見に行きましょう」
ウィンゲート達は地下室に降りていく。
地下室は物流倉庫のような金属の棚が設置されていた。
アメリカ合衆国は日本の様な地震大国ではない。しかし何故か棚は床板に金属ネジで固定されていて容易に動かせないようにされて、地下室は迷路のような形状になっている。室内には大人が力いっぱい手で押せばようやく動かせるくらいの木箱が三つほど置かれていた。
「なんだこれ?」
「見たまえウィンゲート君」
ダイアー教授は地下倉庫の中央部を指し示す。棚が凹状に配置されている。
「あの部分の床が不自然に変色している。ちょうど木箱三つ分だ。きっと何かが置かれていたに違いない!」
「木箱を押してあそこまで運べってことですかぁ?」
「ウィンゲート君!君は寿命があと僅か二十二年しかない老い先短い老人に無理をさせるつもりなのかいっ!!」
「はいはいわかりましたよ」
ウィンゲートはいい加減な気持ちで木箱を押し始めた。木箱と木箱がぶつかり、つまってしまった。
「うっ!これではこれ以上押せない!」
「メンドクサイ。全部壊してしまえばよいではないか」
リーファは素早く手斧を手に取った。そして右手で力強く振りかぶる。
すると。
木箱に直撃した瞬間だった。
ああ!ああ!なんという事だろう!リーファのその右手の親指に!親指に!小さなおできのようなものが現れたのだ!そのおできは血走った瞳となり!無数の瞳となり!それらリーファの右腕から肩口へと広がっていくではないか!!リーファのドレスの右腕部分が内側から盛り上がり、布地が千切れ飛んでいく!!
その光景を目にしたウィンゲート達は!!
「はい。充血のお薬です」
卑弥呼は薬局で十二ドル五十セントで購入できる皮下注射器で肩にできた巨大な眼球に薬液を注射した。膨れ上がった肉塊が急速に萎み、皮膚にできた目玉の群れが消失していく。
「危なかったな。薬局で注射器を購入していなければ即死だった」
「注射一本で治るんですか?」
「ウィンゲート君。飲み薬より血管に直接投入する点滴や注射の方が即効性があるのは近代医学の常識だよ」
「くそっ!これでは手も足も出ないぞっ!!」
ドレスの両袖を失い、悪態をつくリーファ。
「やむを得んな。一度階段を登ろう」
「いや登ってどうするんですか教授」
「そして階段を降りるんだ」
ダイアー教授に言われるままウィンゲート達は階段を登って一階に行き、そしてまた階段を降りて地下室に戻った。
「どうして木箱の位置が戻っているだ・・・?」
「もし戻っていなければ地下倉庫にあるこのバールの様なものや先端が円状に結ばれたロープなどを駆使して木箱を引き戻さなければならなかったな」
「なにそのバール!血痕みたいなのついてない?!それにそのロープ人間の首がちょうど入る大きさなんですけどっ!!」
「いいか。階段の上の方から見ながら支持するから今度は木箱を詰めてしまわないように慎重に動かすんだウィンゲート君」
「はぁ。わかりました」
今度はダイアーの指示もあり、木箱を指定した場所に正確に納める事ができた。最後の一つを押し込んだ瞬間、奥の壁の一部がスライドし、一人分が入れる扉の形状になった。
ウィンゲート達はそこに進む。
広めの室内に中央部分。そこにはポツンと棺桶が置かれていた。
「素晴らしい!窓が木板で打ち付けられた屋敷!その地下室に棺桶が置かれている!!あの中にはきっと吸血鬼が眠っているに違いない!!」
「いや吸血鬼なら逃げないとヤバいでしょ教授」
素早く教授は懐中時計を取り出した。
「時刻は五時前!なんというタイミング!!もう少しで太陽が沈む時刻!!即ち沈む前に吸血鬼を屋敷の外に追い出せれば我々の勝利!!そして日が沈んでしまえば我々の敗北!!素晴らしい!!私はこういう勝つか負けるか解からない、ギリギリの戦いがしたかったのだっ!!!」
「ふん!くだらないなっ!そのような世迷言を。戦いは常に圧倒的な実力差で相手をねじ伏せ、いや。マイルズ様はそういうのつまらないから最後の方は我々に任すと言って支配下の人間共とやたらチェスやスゴロクに興じていたような・・・」
「ククク、よくも我が眠所まで辿り着いたな。愚かな人間共ヨ」
棺の蓋が開き。鋭い爪が見える。あれは!あれは!あの黒く鋭い爪は!どうみても人間のそれではない!!
「我が眠りを妨げる事を冥府で後悔するがいい」
「さぁ武器を構えろ諸君!アーカムを!アメリカを!いや世界を救う戦いの始まりだっ!!」
「すみませーん教授。私武器持ってないんですがー」
「じゃあ卑弥呼さん後ろでいいです」
「ありがとうございますウィンゲートさん」
蓋を押しのけ、それは現れた。
らんらんと光る血走った紅い瞳!長い耳!全身を覆い尽くす白い体毛!よく磨かれた虫歯一つない歯!
ああ!なんということであろう!その姿は!その姿は!!
兎だった。
「ウサウサ。我が名はベンジャミン。お前達人間は皆極悪人だウサ。我ら兎族がお前達に何かしたか?何もしてないであろうウサ。にも関わらずお前達人間は我らを無慈悲に殺し、我らを肉のパイにしてしまうウサ。まさに鬼畜の所業ウサ。許し難しウサ」
兎族ベンジャミンの姿を見てしまったダイアー教授は!!
「どうして!!吸血鬼じゃ!!ないのよおおおおおお!!!!!」
一時的に狂気に捕らわれてしまった!!床に転がり手足をばたつかせている。これでは何の苦もなくベンジャミンによって殺害されてしまうであろう。
「む、そこのアジア人ぽい雌。お前は助けてやってもいいウサ。ただしこのベンジャミン様のお嫁さんになる事が条件ウサ」
「断る。と、言いたいところだがベンジャミンとやら。お前の言いたいことにも十分な理があるのは確かだ。よかろう。私には重要な使命があるがお前が私を凌駕する力を持つ獣人であると証明できれば貴様の妻になってやらんでもない」
ああ!ああ!なんということだろう!
リーファは!リーファは!
人ならざらる者に対する礼儀作法をわきまえていた!!これならば交渉も可能だろう!
「あ、あのリーファさん。兎さんのプロポーズ受けちゃっていいんですか?」
心配して止めようとする卑弥呼。
「ウサウサ。話の分かる雌ウサ。では勝負してやるウサ」
ウィンゲートは黙ってコルトガバメントを抜いた。威力の高い四十五口径弾丸を用いた自動拳銃である。なお開発と配備が遅れ第一大戦には間に合わなかった模様。
「たかだか単筒如きでウサアアアアアアアアアアアーーーーーーッッ!!!」
全長二十六ミリから三十二ミリに大型化した弾丸は、その分威力も増していたようである。
一発毎に魂が抜けていくような感覚を、ベンジャミンは味わっていた。
と言うか、もう抜けちゃてるよね。これ。
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