第21話 アメリカではよくある立派な屋敷2

「どうやらマリア様は息子イエス以外はその腕に抱くつもりはないらしいな」


「インチキしようとするとさっきみたくなるんですね」


「じゃあイエス様の像を探しましょう」


 リーファの尊い犠牲は無駄ではなかった。ダイアー教授たちは先へ進むための情報を手にし、三歩。脚を踏み出した。

 まぁリーファは死んではいないが。

 隣に部屋に繋がる扉。

 小さな食堂だった。長いテーブル椅子。テーブルの上には聖書の一場面を表した絵本が置かれている。


『イエスの誕生』


 リーファはパラパラと絵本をめくった。


「そうか!このイエスと言う男が軍隊を率いてローマを滅ぼすのだな!つづきはないのかっ!」


「これがキリスト教徒じゃない人の反応かー」


「何も疑問に思う必要はなかろう。リーファ君は中国人。中国人は全員仏教徒なのだ。キリスト教徒には当然の常識を知らなくても不思議ではないよ」


「成る程。そういうものなのか」


「にしてもこの屋敷の持ち主はとても親切な方なのですね。万一キリスト教に詳しくないかたがいらっしゃった場合の事を想定して丁寧なヒントを用意してくださるとは」


「いや親切な屋敷の持ち主ならマリア像に毒とか塗ったりしないですよ卑弥呼さん」

さらにその奥にはキッチンがあった。


 氷を使う冷蔵庫。当然ながら若干古いタイプである。


「ここは人里離れているから氷冷式は使えないだろ」


「うむ。電気式なら使えなくもないな。室内のところどころに電源プラグの差し込み口があるようだし。もしかしたら自家発電設備があるかもしれないが」


 レンジとオーブン薪を使うタイプ。

 木棚には缶詰。パスタ。ワイン。日持ちがする食品が置かれている。

よく磨かれたシンクに手入れが行き届いた各種台所用品。


「というか最近の『徐々に台所用品や家具を買い替えている家屋』ってどこもこんな感じじゃないですか?」


「ふむ。確かに卑弥呼君の言うとおりだな。一般的に家具というのは食パンやお皿と比べてずっと高価だ。従って購入時期はその家具が壊れてから。あるいは夏冬の賞与または臨時収入があった時などになり、同時に新しい物を購入する事は極めて稀だ。別に古い家具と新しい家具が混在していても不自然ではないな」


 台所には野菜スープが入った鍋が置かれていた。冷めてはいるが腐っているわけではない。暖め直せばまだ食べれそうだ。


「ダークマターが収められているかと思ったのに。つまらん」


「残り二十二年しかない寿命をスプーン二杯で終わらしたいんですか教授」

一階には誰もいないようだった。廊下の最奥に階段がある。登り会談と下り階段。


「よし!ウィンゲート君!ここは!!」


「二手に別れませんよ。一緒に二階を探しましょう」


「何故だ!何故二手に分かれてはいけないのだっ!!!」


「こういう時二手に別れたらどう考えても全滅フラグです。まとまって移動しましょう」


「リーファ君!!君からもウィンゲート君になんか言ってやれ!こういう時は二手に分かれて」


「いや。どのような罠が仕掛けられているかわからない。やはりここは一緒に行動すべきだろう」


 と、先ほど見事にトラップに引っ掛かり、ドレスが裂けてしまった左腕をリーファを見せる。


「そ、そんなっ!リーファ君!!君なら男のロマンを理解してくれると信じていたのにっ・・・!!!」


「まぁまぁ教授。浪漫よりあと二十二年しかない自分の人生を精一杯生きる事に尽力しましょうよ」


 卑弥呼・エリザベス教授に背中を押され、ダイアー教授は二階へ向かう。

 二階は丁度台所の真上辺りの場所に流し台、便所、バスタブが一体となった部屋があった。家屋の設計的に上下水道の配管は同一らしい。

バスタブには何故かマネキン人形が置かれていた。


「何故だっ!何故ただのマネキン人形なのだっ!てっきりゾンビの一つでも置かれていると信じていたのにっ!!どうして私の期待を裏切るのだっ!!!」


「そんな臭いものないみたいですよ教授。ほらタオルも真新しいですし。石鹸もシャンプーもあります」


 ダイアー教授は落胆しつつバスルームから出て行った。

 卑弥呼・エリザベスは。バスタブに寝かせられているマネキン人形を見た。

そして人差し指で頬を押さえてから考える。

 一秒。



 胸の辺りに文字が書いてある。漢字である。ダイアー教授達は読めなかったようだ。


「この文字、リーファさんも見たはずだけど。気づかなかったのかしら?」


 とりあえずナイフを使って胸の文字を削り取っておく。


「おーい。卑弥呼君ーーー」


「はーい。今いきまーーすーーー」


 しっかり人形の文字を削ってから卑弥呼は三人の後を追いかけた。

 次の部屋には化粧鏡とタンス。沢山のオモチャがあった。


「母子家庭の子供部屋って感じですね」


 卑弥呼が化粧鏡をチェックする。


「化粧品自体はありますけど使った形跡はないですね」


「ではその鏡の持ち主は既に死亡しているか。はたまたただの飾りか」


「どちらかだと思います」


 最奥の部屋にはベッドと本棚が置かれていた。

 本棚は旧約聖書と新約聖書の絵本だ。

 不自然な位置にノアの箱舟の絵本が収められている。


「ふむ。リーファ君。そのノアの箱舟の本を取りたまえ」


「この本か?」


「そしてそこにイエスの誕生を入れるのだ」


「一階で見つけたこのイエスの誕生を入れる」


 イエスの誕生を入れた途端、本棚が右にずれていく。本棚の後ろに正方形の窪みがあり、そこに黄金の赤ん坊の像が収められている。


「手の込んだ仕掛けを・・・」


「もしもしマイルズ様ですか!お喜びください!金目の物を見つけましたっ!!」


「あ、そのイエス様私に見せてください」


 卑弥呼は黄金のイエス像を受け取ってよく見てみた。


「あ、これ金メッキの偽物です」


「本当かね卑弥呼君?」


「はい。私二千年前黄金の腕輪とか髪飾りとか身に着けていたんで黄金にはちょっと詳しいです」


「なんだ偽物か。ふん!」


 リーファはイエス像を床に投げ捨てた。それを寸前でキャッチするウィンゲート。


「これ下のマリア像に戻す奴だろ!壊してどうする!!」


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