第15話 イタリア料理を食べに行こう!

 買い物を終えた一行はアントンのレストランへ向かった。簡素で清潔な店内で支払は一人五十セントである。


「予約していたダイアーだ」


 四人はアーカム市内でおそらくは唯一であろう本格イタリアンを提供するレストランで夕食を取る事にした。


「こちらブルケッタでございます」


 前菜ブルスケッタ。パンはスライスし、それをグリルまたはオーブンで焼く。その上にニンニクをすりこませて熱で溶かす。次に、オリーブオイルと塩、コショウ、トマトなどを加える。


「なんだこのパンは!!今まで食べた事ないっ!!!もしもしマイルズ様ですかっ!!!!え?!!マイルズ様も御存知ない料理ですって!承知しました仔細を詳しく調べて参ります!!」


「確かにリーファの言うとおりだなぁ」


 店員が次の料理を運んでくる。


「こちらペスカトーレにございます」


 いわゆるパスタ料理であり、塩・ニンニク・白ワインなどによる簡素な味付けに、さらに主軸はコクのあるとトマトソースなる。そのため、スパゲッティだけでなく他のパスタともよく合う。どつでもいい話だがトマトはアメリカ大陸原産である。具材は一般的にはアサリ、イカ、エビ、カニ、ムール貝、ホタテ等の魚介類。やたら肉ばかり食べる中世ヨーロッパとは対象的かもしれない。なおアントンのレストランには毎日トラックで海から新鮮な魚介類が運ばれ、それらは腐敗しないように冷蔵庫で保存される。その気になれば(この店では提供されていないが)マグロの刺身も食べられる。マグロは腐敗しやすいので江戸時代の日本でも敬遠されていた。


「ウマイ!ウマイ!ウマイ!!」


 バリバリボリボリとムール貝を殻ごと噛み砕きながらパスタを食べるリーファ。


「いや。貝の殻を食べるのは流石にちょっと」


「確かにエレガンスさにかけるな」


 しかしリーファの隣で普通にハマグリを殻ごと口に運ぶ卑弥呼。


「え?まさか君も?」


「いえ。ちゃんと貝塚に捨てますよ」


 プッ。と貝柱まで食い尽くしたあと、貝殻のみを皿の上に吐き出す卑弥呼。


「流石だな。貝を食べなれている」


「ええ。ニホンは周囲を海に囲まれた国ですからね。ニホン人は皆こういう食べ方が出来るんでしょう」


 メインの肉料理が運ばれてくる。


「チキンマルサラで御座います」


 塩胡椒した鳥もも肉に、小麦粉を両面にふりかける。そしてフライパンにオリーブオイルで片面ずつ、両面色がつくまで焼く。ニンニク、玉ねぎを炒め、マッシュルームを加える。マルサラワインを加え、ボイルさせる。小麦粉とバターを加えて一煮立ち。

 出来上がったらイタリアンパセリをふりかける。

 アスパラガスなど緑の野菜を盛り付けて出来上がり。アメリカにはシチリア島からの移民が多いので(シカゴも然り)、マルサラワインを使ったこの料理が浸透したようだ。

 もしかしたら貴方は空間転移魔法で異世界からアメリカに来た人なのかもしれない。だからマルサラワインついて簡単に説明。マルサラワインはスペインのシェリーと同様酒精強化酒である。大航海時代の長距離航海に備え保存性を高める為に通常のワインにアルコールを加えて防腐措置を施したもので、ミネラル豊富で糖度が高い。

更にどうでもいい話なのだが。

 もし仮に魔法のある世界だとする。そこには冷凍魔法が当然存在するだろう。物を長きに渡って保存するなら即座に冷凍魔法を使おう。という発送に至りドヤ顔になる魔法科学校の生徒がいる筈だ。

その世界にブドウはある筈だ。ブドウから造られるワインもある筈だ。酒もある筈だ。アルコールもある筈だ。

 しかし酒精強化酒は存在しないだろう。何故ならば長期保存するならば冷凍魔法を使うからだ。

 従って酒精強化酒であるシェリーは存在しない世界となる。


「カンノーロで御座います」


 デザートが運ばれてきた。

 カンノーロは小麦粉ベースの生地を薄くのばし、正方形に切ってから金属製の円筒に巻き付けて食用油で筒状に揚げた皮の中に、甘みをつけたリコッタ・チーズにバニラ、チョコレート、ピスタチオ、マルサラ酒、そして牛乳などをまぜ合わせたクリームを詰める。牛乳製も使用される。小さく切ったオレンジやチェリーなど果物の砂糖漬けで飾る。他の洋菓子同様カスタードクリームを使用する場合もある。皮の生地にはココアを混ぜてチョコレート味にすることもある。

 クリームを詰めると皮が水分を吸って湿ってしまうため、食べる直前に皮にクリームを詰めた方が、クリームの柔らかさと皮のパリパリ感の対比を最大限に楽しむことができる。


「中はふわふわの外はバリバリのおおおお!!」


「愉しそうだなあリーファ」


「うむ。連れて来た甲斐があったものだな」


 ふと。

 食事をするリーファの手が止まった。


「おい。ウィンゲート」


「なんだいリーファ。お代わりかな。それとも水を」


「私と○○○しろ」


「はあ?!今なんて言った?!!」


「ビルビィゴ!最近の若い子は積極的だなルィージ」


「そうだね兄さん」


 隣のテーブルで茸のパスタを食べていたスーパーな感じのブラザーズ(服装からして配管工だろう)の注目を集めてしまう。


「ぬう。これはイカンな。卑弥呼君」


「なんでしょうか教授」


「リーファ君を眠らせたまえ」


「わかりました」


 みぞおちに拳を叩き込む。胃袋の内容物はそのままに肺の中の空気だけを体外に押し出すいい拳だった。


「御苦労。ウェイター。このレディにワインを頼む」


「畏まりました」


「え?今凄い事したよね?」


「彼はウェイターだよ。この程度の事で動揺して給仕の仕事に支障を来すわけないだろう」


「それもそうですね」


「さて先程のリーファ君の異常な興奮状態について説明しておこう。ウィンゲート君。君の大好きなペーパーバックの小説にやたら媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬媚薬」


「僕の事をエロ小説しか読まないナードみたく言わないでもらえますか?ちゃんと指輪物語も読んでます」


「何と言う。志向の文学作品であるシャーロック・ホームズを読みたまえ。百年後にはニホンの小学生の愛読書になっているだろう。通学中や授業の合間。デートに遊園地や動物園に誘われ際に延々シャーロックの話をされてガールフレンドはウンザリする筈だ」


「イヤになりませんか。そのボーイフレンドの事?」


「気づいたら自分もワトソンになったいるから問題ないぞ。では医学的な話をしようか。リーファ君が服用した媚薬の主成分はシナモンとチョコレート。それと微量のアルコールだ」


「いや。どれも媚薬には程遠いものじゃないですか」


「『君の中では』確かにそうかも知れないな。だがウィンゲート君。君がそうだからと言ってリーファが必ずやそうとも限らない。アルコールの分解吸収には個人差年齢差がある。『まさか今まで一度も酒を呑んだことがない』とは思わないが、酔いやすい人はいるだろう。シナモンは単なる香辛料だがスペイン人がインカ帝国を滅ぼしてまで探し求めたものだ。中世ヨーロッパではそのくらい貴重で手に入り物で価格も高く極一部の富裕層でしか口にする事はなかった。現在の我々と違ってな。『もしかすると』今回初めてシナモンを口にしたのかもしれない。そしてチョコレート。南米原産のこの植物は非常に栄養価が高い。おそらくは百年経ってもポリフェノールが豊富だと言って世の中女性達が食すはずだ。カカオ単体では苦いので我々は砂糖を加えて摂取することが多い。非常にカロリーが多い。これも中世ヨーロッパには存在しなかった。『もしかすると』今回初めて彼女はチョコレートを口にしたのかもしれない。何しろリーファ君は『中国から来た』留学生なのだからな」


「つまり物凄く栄養価が高くて珍しい食べ物を口にした結果がこれだと?」


「そう。シナモンと砂糖はインド。チョコレートに至ってはアメリカ大陸だからな。中国には存在しなかった。我々のように常用していればこのような反応は起きないはずだ。そうそうウィンゲート君」


「なんでしょう教授」


「倒れたリーファ君を車まで運んでおきたまえ」

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