第14話 平凡な学生生活

 ひとまずリーファは図書館へと向かった。


「サンドイッチを持ってきた」


「そうですか。図書館内は禁煙に加えて飲食禁止なので外で食べましょう」


 卑弥呼・エリザベス教授と共に図書館の外へ。すぐ入り口のところにある五段程の階段の中腹に座り込みサンドイッチを食べる。借りてきたネクロノミコンの写本、英字版パルプ用紙印刷物の上にパンクズが降りかかっていく。


「それ。紛い物だぞ?」


 リーファは冷ややかな目でネクロノミコンを眺めていた。所詮は写本の複製品である。原文とはまったく異なる文章、欠けたページ、文節の間違い、段落飛ばし、『グルトフグルトフタングステンアイアイ』←勿論書き移した際に原本が乱れていた為、だいたいこんな感じじゃねーの?と担当者が書いた結果の文書である。

 ミスカトニック大学の学生達が読んだ所で若干寝心地の悪い枕にしかならない。


「マトモな魔術書を読むのは『初めて』ですので。大変興味深いです」


 卑弥呼はそう言いながら。実際、『弥生人である卑弥呼にとっては』これが初めて読む魔術書であった。

 今度はトマトの汁を(南アメリカ、ペルー又はエクアドル原産。中世ヨーロッパにはない)ネクロノミコン現代英語版に溢した。

 サンドイッチはまだ二人分残っている。そういえばウィンゲート達にサンドイッチを渡すクエストが残っていたな。リーファは移動を開始した。

 有線電話がなったので素早くダイアー教授は受話器を取る。


「うむ。報告有り難う。君達も一時間の休憩に入るように」


 受話器を置くと。


「協力感謝するベーボディ教授。食事休憩に行ってくれ」


 応援のベーボディ達は食事に向かう。ベーボディ教授らは途中でリーファとすれ違いになったが彼女は気にも止めなかった。


「サンドイッチを持ってきたぞ」


「有り難う。ウィンゲート君、お昼にしようか」


「待ってました」


 リーファは朝と同じ巨大な鉄の塊を目にしたが、特に興味を示さずに去っていく。

屋外で練習中の大学マーチングバンド部や演劇部員たち前を通り過ぎて大学展示博物館に向かう。

 入り口付近にある三葉虫やアノマロカリスの歯の化石に目もくれずに一番大きな骨格標本を目指す。


「これは間違いなくドラゴン!見た事のない種類だが一体分の完全なもの!!マイルズ様に献上すれば強力なドラゴンスケルトンをお造りなられるはずっ!!さぞかしお喜びなられるであろうなっ!!フフフフフ!!!」


「何。あの女の子?ブロントサウルスの化石見て一人で笑ってるわよ?」


「君と違ってデートを彼氏にスッポかされてしまったのさ。あの可哀そうなチャイニーズは」


「そうね。でも貴方は違うのねダーリン♥」


「愛してるよハニー♥」


 なおブロントサウルスは草食恐竜である。

 夕方になり、フォードAの修理作業は完了した。


「ありがとう。ベーボディ教授、ダンフォース君。また何かあったらよろしく頼む」


「どういたしまして」


 そして有線電話の受話器を取る。


「もしもし?君達も撤収に取り掛かってくれ。バイト代は規定通りに出す」


「バイト代?なんですか?」


「管理練に学生向けのバイトが張られているだろう。私も仕事を依頼していてね。椅子に座って窓から外を眺めているだけでバイト代が入る。一時間の休憩付き」


「へえ。誰にでもできそうな簡単な仕事だな。僕もやりたかったな」


「しばらくそういう仕事を依頼する予定はないよウィンゲート君」


 ダイアー教授が有線電話を片づけているとリーファが戻ってきた。


「そんなっ!自動車がっ!!直っているッ!!ピカピカの新品にっ!!数百、数千年前に造られたような錆びた鉄の塊がたった今鍛冶場から出された鋳造品の様に美しく光輝いているッ!!!ま、マイルズ様、も、もしもしもしもしもしーーーーー!!!!」


「それじゃあ車の修理も終わったし試運転もかねて軽くドライブにでも行こうかね」


 輝くフォードAはギャリソンストリートにあるエッソガソリンスタンドに向かう。もちろん給油する為である。さらにリバータウンで明日のキャンプに備え買い物。ウィンゲートとリーファはアーリー釣り具店で釣り具などを。ダイアー教授と卑弥呼はアーカム雑貨店でビールやダイナマイトを購入する

 スペイン語なまりの激しい店主は店に並べられた商品を前に景気よく叫ぶ。


「良いものが揃っているんだ!高値で取引だっ!!」


 この店ではマシンガンやバズーカ。各種手榴弾などを売っている。

何?なぜマシンガンやバズーカ。手りゅう弾が買えるのかだって?だってここはアメリカ合衆国マサチューセツ州じゃあないか?中世ヨーロッパじゃあない。普通の雑貨店でハンドガンの弾が置いてあってもおかしくはないだろう?


「軍からの放出品もあるぜっ!」


「うーん。それはいらないかなぁ。ただのキャンプだし」


「そうかい?考えが変わったらいつでも買いに来てくれよな」


 ウィンゲートとダイアー教授は自動車の修理で油まみれだったのでサウスサイド公衆浴場で汚れを落としてからキーナンのランドリーに洗濯を依頼する。


「もしもしマイルズ様ですか?この街には金を払って入浴する公衆浴場が」


「そんなもの我々が元いた世界にもあったろう。くだらない報告をするな」


 偉大なるマイルズ様はリーファを𠮟りつけた。

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