第13話 魔法学科に入学したようだ。彼女の中ではな

 自然科学部の建物の東側に置かれた馬車の車体サイズの錆びた鉄の塊があった。


「この鉄くずはなんだ?」


「バラード中古自動車で購入したものだ。配送代込みで二百ドル。安かろう」


 リーファの問いにダイアー教授は答える。


「ウィンゲート君と一緒に修理するんだ。明日までに直しておくから今日は卑弥呼君と一緒に図書館で本でも読んでいなさい」


「折角だから大学内を一通り見て回るといいよ。そうだ。お小遣い渡しておくからこれでエリザベス教授、じゃなくて卑弥呼とかいう古代の女王様に憑りつかれてるのか。卑弥呼さまとお昼を食べるといいよ」


「我々の分も食堂で買ってきてくれると有難い。頼めばサンドイッチぐらい造ってくれるだろうからな」


「じゃあこれ」


 ウィンゲートはセント硬貨をリーファに手渡す。


「じゃあ僕らは修理に取り掛かるから」


 工具を持ってウィンゲートはフォードA型のスクラップに向かう。


「リーファ君は行ったかね?」


「はい。でも僕たちだけで今日中に修理できますかね?」


「うむ。我々は人数が多いからね。十分に可能だ」


「その通りです」


 リーファが離れたのを見計らったように近づく人影。


「御用ですかダイアー教授?」


「なんかウィンウィンドリル回しながら歩いてくる人が来た!!」


「ウィンゲート君。紹介しよう。彼は機械科のベーボディ教授だ」


「私のドリルは南極の氷を貫くドリルです。では何を貫きましょうか?」


「いや。この自動車の修理を手伝って欲しいんだよ」


「あ、この人もガッカリした表情になるんだ」


「ああ!窓に!窓に!!」


「こちらがダンフォース君」


「あの。なんか様子が変なのでは?」


「ダンフォース君。ここは屋外だよ」


「そうでした。ダイアー教授」


「なんか急にスッキリ爽やかな表情になったけど?」


「他にも何人か手伝いを呼んでいるから皆で協力して修理にあたろう。とりあえず自動車の内装を修理しておくんだ。と、その前に」


 ダイアー教授はワイアーを引っ張っていき、自然科学部の建物の内部まで引き入れる。


「何しているんですか教授?」


「有線電話だよ。第一次大戦の野戦で使われていた。これにより敵襲を早期に察知する事が可能となる」


「なんでそんなものを?」


「特に深い意味はないよウィンゲート君」


 リーファは自動車を修理中のウィンゲート達から離れ、生物学科練の建物に入る。入り口付近には様々な生物の骨格標本が並べられていたり、或いは写真などが展示されていた。

 具体的にはベンガルトラ(中央アジア)、ブッシュピッグ(北アフリカ)、ボブキャット(北アメリカ)、そしてバッファロー(北アメリカ)。


「見た事のないモンスターばかりだっ!!この魔術学校ではこのような魔物を捕獲し、研究しているというのかっ!!!もしもしマイルズ様ですか!!!?」


 ミスカトニック大学病院は病床百六十五、手術室三つ、レントゲン検査室、リハビリテーション、食堂などもあり、その日は混雑している事もあり受付、支払い共に順番待ちの高齢者などでごった返していた。


「もしもしマイルズ様ですか!!!信じられないくらい巨大な病院がっ!!」


 薬学科は新薬の治験に協力すると無料であるため、やはり高齢者で賑わっていた。


「ここではタダで薬が貰えるんですよ」


「助かりますねぇ。ありがたやありがたや」


「もしもしマイルズ様ですかっ!!」


 管理棟の一階には掲示板があり。


「こ、これは!!まさかっ!!!」


 その掲示板には大量の紙がピンで止められていた。


「クエスト依頼票じゃないかっ!!もしもしマイルズ様ですかっ!!ねんがんのギルドのいらいひょうをてにいれましたよっ!!!」


「あー。ちょっとそこの君」


 大声で叫んでいると流石に迷惑だったのだろう。管理練の職員に声をかけられた。


「それは学生用のアルバイト募集だよ。君この大学の学生かね?」


「ギルドカードなら持っているぞっ!!」


「あん?なんだ学生なのか。じゃあ問題なしか」


 職員は去っていった。


「薬草採取、薬草採集、クソッ!ないぞ!ゴブリン退治、これもないっ!いったいどうなっているんだっ!!」


 ここはアメリカ合衆国マサチューセッツ州である。学生向けのアルバイトにそんなものあるわけない。


「さあてそろそろ飯でも食いにいくかあ」


 職員が『食事中』の札をカウンターにおいて場を離れる。そうか。もうそんな時間なのか。

 リーファは学生食堂に向かう。食堂は部外者でも利用できるがたいがいの学生は一セメスター百二十五ドルの学費と九十一ドルの寮費と共に八十七ドル二十五セント食費も納付する。これにより一日三食学生食堂で学生証を見せるだけで食事が可能となる。即ち、特に街中で食事する理由がなければ学食で食べた方が実質無料なのでお得なのだ。


「サンドイッチを要求する!サンドイッチを」


 リーファのそのか細い声をかき消すようにアメフト部員が突撃してきた!

何故学食にアメリカンフットボール部員が突撃してくるのか?だってここはアメリカ合衆国マサチューセッツ州じゃあっないですか?マリオって名前の男性がイタリア系の名前だっていうくらい説明しないでもわかる現実世界の事実!


「ターボタックル!」

「ダイレクトパスッ!」

「パルムシュート!」

「タッチダウンッ!」

「グアヴィマケテムっ!!」


 食堂のテーブルをいくつかひっくり返しながら吹き飛ばされるリーファ。最後のはもちろんテーブルにタッチダウンされたリーファの悲鳴である。そのテーブルで食事中だった学生達が慌てて逃げ出す。


「あ、あの鎧兜を身に付けた、いずれも身長二メートルを越える体躯の連中はっ!!」


 鎧兜を身に着けた連中、とは。説明の必要もないだろうが、アメフト部員達の事である。もしわからなかったら小学校から勉強し直した方がいい。


「オーク、ではないな?トロる、いや。オーガ。それもかなりの上位種族の!!先程訪れたキメラの研究所が逃げ出したのかっ?!」


 キメラの研究所。とは、ベンガルトラやバッファローの標本のあった生物学棟である。


「くっ!このような強力な魔獣を造り出せるとはっ!こいつらを侮ってはならない!マイルズ様に御伝えせねば・・・!!」


 食堂のおばちゃんがフライパンでアメフト部員達を殴り倒した。一人のヘルメットが衝撃を受けて外れる。顔が原型を留めていない。とても人間には見えない。


「大人しくしてな。餌くらいやるよ。と、そこのチャイニーズの嬢ちゃん。アンタダイアー先生とこの学生だろ?」


 ヨロヨロと立ち上がるリーファにおばちゃんはサンドイッチの包みを手渡した。



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