第12話 封印を解かれし太古の女王

 ウィンゲート達はダイアー教授の研究室に戻ってきた。


「さて。ようやくタバコが自由に吸えそうだな。図書館ではそうもいかん」


「おや。これは?」


 エリザベス教授。いや。卑弥呼は早速石棺に興味を示した。


「これは私の肉体が保存されていた箱ではないですか」


「それ空っぽでしたよ」


「ウィンゲートとか言いいましたね。確かにこの箱には私の肉体が入っていたのです。ただ長期間の保存に耐えうるよう天日に干し然るべき薬湯を浸しておきました」


「要はエジプトでやったようにミイラにしておいたんだね?」


「その通りですダイアー教授。そしてその石棺の蓋の裏に記載されている」


 蓋の裏には石を削って文字が書かれていた。ウィンゲートは辞書を片手に解読する。


「読める!読めるぞ!!」


「ウィンゲート!貴様この奇妙な文字が読めるのか!!」


「リーファ。僕は元々エリザベス教授の講義も受けていてね。あくまで単位目的でエリザベス先生の胸を最前列で眺めたかったわけじゃない」


「私の講義を最前列で受けてくれてもよいのだよウィンゲート君」


 ウィンゲートはダイアー教授の発言を無視して解読を進めた。


「水二十升、炭素20kg、尿半升、石灰半貫、燐四分の一貫、塩多め、硝石塩より少なめ。 硫黄硝石より少なめ、鉄粉末微量?」


「それらを入れると石棺に保存されていた私は元に戻る。即ち数百数千年の時を経て蘇るはずだったのですが。なぜか私が戻るべき肉体がこの世から消滅しておりそれらしきものだと思って入ってみたらこの女性の肉体であったと。しかし何故私の肉体が消失していたのか。保存は完璧だったはず。あの肉体は防腐が完璧でそれこそ火山にでも放り込まなければ失われないはず」


「まるで古墳をダイナマイトで吹き飛ばした奴がいたみたいですね教授」


 ダイアー教授は煙草に火をつけた。そしてゆっくりと煙を吐く。机の上の灰皿に灰を落とした。


「エリザベス教授の肉体だが卑弥呼君は幽霊だ。しかし悪霊ではない。当分このまま放置していても問題はないだろう」


「話すり替えようとしていますね教授」


「以前ビリントンの森にある不自然な石塔を調査しに行って欲しいと頼まれてね。同行したダンフォース君が悪霊に憑りつかれてフェアイズマイボディ~~~と叫び出してた時、私はどうして自分ではないのかと絶望した!!」


「アンタ地味に周りの人間に迷惑かけまくりじゃないですか」


「二ヶ月程精神病院に入院していたら彼は職場復帰したから問題ない。その経験を踏まえるとだな。現状エリザベス教授の肉体を間借りしている卑弥呼の霊は別段問題行動をしているわけではない。暫く様子見で良いだろう。その上で」


 ダイアー教授はライターとマッチを取り出した。


「これは使い捨てのマッチだ」


 ダイアー教授はマッチに点火し、そして灰皿に捨てた。


「そしてこれがライター」


 ライターで同様に火を点火。こっちはポケットに戻す。


「こういう感じで自分の指先で小さな火種が灯せる。そういう風にイメージ。いや。文字を書いて」


 卑弥呼・エリザベス教授は左手の指を一本突き出すとそこに小さな炎が点いた。


「いい感じだ。おそらく君は簡単に。この紙を燃やすことが出来るはずだ」


 ダイアー教授のが手にした紙に火をつける卑弥呼・エリザベス教授。ダイアー教授はその紙を灰皿に捨てた。


「今の漢字を忘れないように。そうそう。私の研究室内ではいいが、外では魔術を使うのはなるべく控えておくように。火災が起きる度にガス爆発だあーーー。などと私が吹聴して回るのは凄く面倒なのでね。まぁ必要な時だけにしておいてくれると私は嬉しい。エリザベス教授。いや卑弥呼君」


「つまり魔術を使わなくても済む場合は魔術を使わずに済ませてくれ。そういうことですね?わかりました」


「すみません。ダイアー教授。一体こんな魔法学校の真似事みたいな事を?」


「ウィンゲート君。この卑弥呼君。肉体はエリザベス教授のものだが。彼女は非常に不安定なものなのだ。言うなれば拳銃を玩具にしている赤ん坊のような物。脳と肉体がエリザベス教授のものであるせいで卑弥呼が持っていたであろう膨大な魔力をコントロールできないでいるのだよ」


「ふん!自分の魔力すら満足に操る事が出来んとはっ!!古代の魔術女王とはいえたいしたことはないのだなっ!!」


「リーファ君。君卑弥呼君に魔法の使い方教えられるの?」


「私がなぜその女に魔法の使い方なぞ教えねばならないのだっ!!私は忙しいのだっ!!!」


「そうか。じゃあリーファ。クッキー食べるかい?」


 ウィンゲートはリーファにクッキーを差し出した。


「うまいっ!うまいっ!!」


 クッキーの喰いカスを床に溢しながら食べるリーファ。掃除が大変そうだ。


「ダイアー教授。リーファはクッキーを食べるのに忙しいそうです」


「見ての通りリーファ君は大変忙しい。私は専門家ではないが卑弥呼君の魔術の講義は私がやった方がいいだろう。ついでに合衆国で生活していくために必要な一般常識とかも一通り」


「それって必要な事なんですか教授?」


「当然だよ」


 ダイアー教授はS&Wの銃口をウィンゲートに向けた。


「な、なんの真似ですか?!」


「きちんと教育を受けていないと人間に向けてこういう者を気軽に撃ち込んでしまう。これは人や物を気軽に破壊する事ができるが。そうだな。卑弥呼君。君が魔法を使って誰かを攻撃する時は悪人だけにしておくといい。悪人と善人の見分け方は」


「米倉に納めた穀物を食い荒らすネズミは悪者。だから殺していい」


 『卑弥呼』はその程度の常識は持っていた。


「うむ。その認識で行動してくれればいい」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る