第9話 命を伐採する形をしてるだろう?
「のーノーNO脳能納農濃」
「ダイアー教授。朝食を食べた後からリーファの様子が変なのですが」
「ふむ。ヨーロッパにフォージャー教授という高名な精神分析医がいるが彼の手を借りる前に色々試してみようか」
ダイアー教授は机の上に置いてあったカードをリーファに手渡した。
「これ。リーファ君のミスカトニック大学の学生証なんだけどいる?」
「ねんがんギルドカードをてにいれたぞ!!」
「治ったようです。流石ですね教授」
「そうか。では」
ダイアー教授は満足するとちょっと大きめな機械を準備した。鎖歯車が回転し始める振動音。
「この1929製造開始の医療用チェーンソーで石棺を開棺することにするっ!!」
「ちょっとまてぇー!!そういう古代の遺物ってのは普通もっと丁寧に扱うもんだろうがーー!!」
「何だと?ウィンゲート君!君はこのガソリン駆動の最新鋭医療用マシンに何か問題があるというのかね?!」
「いや!めちゃめちゃ問題点があるよねそれ!!」
「このチェーンソーは一般的な武器としてはふむきだから何も問題がない!ただちょっとビックバンを起こせるようなエイリアンゴグや支配や戦争や飢餓や死の悪魔を滅ぼせる程度の威力しかないだけでっ!!」
「そうか。チェーンソーはガソリンで動くのか。そして神も悪魔も問わずあらゆる存在を切り刻む事が可能なのか。これは報告せねば」
「リーファさんなんか変な事覚えてしまいましたがーーー!!」
「ヒャア!もう我慢ならぬ!御開帳ダァッ!!」
「待ってー!そんな開け方が!!」
チェーンソーをブッ刺した瞬間に激しい金属が石材を切り刻むスパークが発生する!勢いよく石棺の蓋が弾かれ天井の電球を砕く。
その激しい振動は研究棟でティータイムを満喫していた他の教授たちの所にまで到達していた。
「おや。揺れましたな」
「どうせダイアー教授でしょう」
「地質学のダイアー教授ですか。一体何をなされておられるのですかな。淹れたばかりのコーヒーが溢れてしまいましたよ」
「いえ。タイマー式ではなくラジオで爆発するダイナマイトを造ると仰られて。何でもラジオに向かって爆発しろと言うとダイナマイトが爆発するそうで」
「ホッホッ。ダイアー教授も歳ですかな。ラジオは聞くものであって話すモノではありません。話すのは電話ですぞ」
「ではコーヒーを煎れ直しましょうかな」
しかし!ダイアー教授は懲罰委員会にはかけられなかった!!
「中にはいったい何がっ!!」
石蓋が拭き飛んだその様な内部を覗き込むと。
中にあったのは白い粉末と幾ばくかの金色の粉末のみ。
「そ、そんな・・・!な、何もないだなんて!!」
「はいはいはーーい!何もなかったよかったですねぇーー!皆さん後片付けして解散しましょう!!」
だがウィンゲートの希望は風と共にさりぬ。白と金色の粉末は小さなつむじ風を伴い石棺から溢れだす。
「何と言うことだろうか!きっととんでもない事が起こってしまうぞっ!!」
「あんたがチェーンソーブッ刺したのが原因だろーがーっーー!!なんでそんなに嬉しそうそうなんだよっ!!」
「地質学の調査中古代の遺跡を発掘する事人生の半分。うち半数以上で遺跡に封印されていた怪物と遭遇し、彼等を撃退してきた」
「さらっと凄い事言ってませんか教授!!」
「そんな私だから思うのだよ騎士の死に場所が戦場であるならば。発掘調査をする者は古代の悪霊によって殺されるべきだっ!決して孫達に囲まれて自宅のベットの上で安らかな眠りを迎えてはならないのよっ!」
「なんかそれらしい事言ってますけど僕を巻き込まないでくださいっ!!」
時折金色に輝く粉塵はダイアー教授の足元を通過し。
「ぬあ!我が人生に一点の悔いなくっ!っと。おや?」
そしてウィンゲートの足元も通りすぎ。
「うわー竜巻の向こうに父さんが。見えない?」
そしてリーファを完全に無視して研究室の扉の隙間から出ていくと。
「はんだりゲリャれーーー!!!」
鼓膜を通じて魂を削り取るような悲鳴が聴こえた。扉を開けて廊下に出る一同。
女子生徒達から集めたであろうプリントの束をぶちまけたエリザベス教授がそこに立っていた。
「がならびそままままっっっ!!」
ああ!ああ!何と言う事だろうか!エリザベス教授の全身の筋肉が内側から膨れ上がり、靴まで届いていたロングドレス。その布地が圧力に耐え兼ね、弾け飛んでいく!まるでマリアナ海溝に落下し、永遠に浮上出来なくなった水中探査船のように破裂するのだっ!!
この常識ではあり得ない異様な光景を目の当たりにして。
ヤンリーファはっ!ヤンリーファはっ!
「ほう?その女を拠代にして復活したか」
特に影響を受けなかった!
この常識ではあり得ない異様な光景を目の当たりにして。
ダイアー教授は!ダイアー教授は!
「なんだ。私ではないのか」
少しテンションが下がっていた!
この常識ではあり得ない異様な光景を目の当たりにして。
ウィンゲートは!ウィンゲートは!
「えりじゃべじゅきょうじゅがあああ!!きんぬくのバケモノノにににぃぃいいいだ!!!」
よかった!普通の反応だっ!
「おい教授とやら。ウィンゲートのヤツは何を喚いているのだ?」
「ふむ。私の精神分析によれば彼のショック状態は一時的なものだろう」
ダイアー教授はポケットからタバコとライターを取り出すと口に咥えようとして、 やっぱりやめた。この時代タバコは肺病の薬として流通している。気分がスッキリする。しかし今はこれに依存する必要もない。
「落ちつけ落ちつくんだウィンゲート君」
「ヘリサヘスきょうじゆがヘラクレスぬいぬいぬい~~!!」
「エリザベス教授は女性だろう?ならアマゾネスだ」
「それもそうですね。すみません」
ウィンゲートは一瞬で普段の冷静さを取り戻した。
「来るぞっ!」
筋肉の怪物と化したエリザベス・ヴァルプルギス教授。その口から重い言葉が漏れる。
「我が名は。卑弥呼。邪馬台国の女王。卑弥呼なり」
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